050730

メイリオ Meiryo........明瞭

Computer , Font

meiryo_3.jpg
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昨日7月29日、マイクロソフトは、次期 Windows である「Windows Vista」で、新しい日本語フォントの開発を進めていると発表した。

フォント名は「メイリオ」(Meiryo、これは「明瞭」からきているな)といい、文字表示最適化技術「ClearType」を採用しているんだそうだ。液晶ディスプレイ上で横書きの日本語文章を読む際の見やすさを追求し、新たにデザインしなおしたという。角ゴシック系フォントで、「小さな文字サイズでも鮮明に読むことができ、大きな文字サイズでは迫力あるディスプレイ効果を発揮する」んだそうだ。本文用と見出し用の2種類を用意し、よりめりはりのあるレイアウトを組めるようにするとのこと。いずれも和・欧文字間の比較サイズ、黒み、並び具合、字間スペースなどを調整しており、両者を違和感なく調和させて、文章を構成できるんだそうだ。

そのフォント・デザイナーに河野英一(こうの・えいいち)氏のお名前を発見、納得なのだ。

河野英一氏は、私がお世話になっている先輩の工業デザイナー・矢島洋三氏のご友人で、一度お会いしたことがあるのだ。

初めて矢島さんに「河野君がね......面白いねぇ」といって、見せていただいたのは英国の電話会社・ブリティッシュ・テレコム British Telecom の電話帳の新しい英文フォントであった。それはアルファベットを構成する棒の接点部分が細くなった独特のものであった。
それは、小さくしても可読性が高く、カスレなどの印刷の乱れがあっても、読み間違うことのないフォントに見直すという計画だったのだ。

それまでの英国の電話帳には、アメリカ生れの伝統的な書体「Bell Gothic」が使われていたそうだが、この新フォントの採用によって、電話帳自体を10%圧縮・減量、1989年の改訂時点で年間2億5000万円の節約を電話会社にもたらしたという。文字のデザインはカッコだけではなく、そんな大きな社会を動かす力でもあるのだ。すばらしい。

河野さんはずっと英国で仕事され在住30年とのことだ。それも33才で渡英、それからフォント・デザインの勉強をされたという大変な方なのだ。先のBritish Telecomの電話帳のフォントの前には、ロンドンの地下鉄のフォント「New Johnston」のフォント・デザインを手がけられたというのだから、ますます大変な方であるということが分かるであろう。

その河野英一さんが、コンピュータ用の新しい日本語フォントを作る、どんなフォントなのか興味津々なのだ。


追記 050803

Mac にとっては、ずいぶん前に解決したと思っていることが Windows では未解決のままになっていることを知った。Windows machine でウェブを見ることはめったにないが、どうして......というほど酷いものである。今回の新しいフォントでそれらが解決するのかな。

スタンフォードの卒業式でのジョブズのスピーチ、その中で、彼のリード大学を中途退学する前に学んだカリグラフィーが、Mac を構想する大きな力になったことを語っている。

..............セリフをやってサンセリフの書体もやって、あとは活字の組み合わせに応じて字間を調整する手法を学んだり、素晴らしいフォントを実現するためには何が必要かを学んだり。それは美しく、歴史があり、科学では判別できない微妙なアートの要素を持つ世界で、いざ始めてみると私はすっかり夢中になってしまったんですね。
 こういったことは、どれも生きていく上で何ら実践の役に立ちそうのないものばかりです。だけど、それから10年経って最初のマッキントッシュ・コンピュータを設計する段になって、この時の経験が丸ごと私の中に蘇ってきたんですね。で、僕たちはその全てをマックの設計に組み込んだ。そうして完成したのは、美しいフォント機能を備えた世界初のコンピュータでした。
 もし私が大学であのコースひとつ寄り道していなかったら、マックには複数書体も字間調整フォントも入っていなかっただろうし、ウィンドウズはマックの単なるパクりに過ぎないので、パーソナルコンピュータ全体で見回してもそうした機能を備えたパーソナルコンピュータは地上に1台として存在しなかったことになります。
 もし私がドロップアウト(退学)していなかったら、
 あのカリグラフィのクラスにはドロップイン(寄り道)していなかった。
 そして、パーソナルコンピュータには今あるような素晴らしいフォントが搭載されていなかった。.............

PLANet blog. のエントリー「スティーブ・ジョブスのスピーチ」より

Mac の起源には、フォントの問題について、こんなジョブズの知見が生きていることを知った。


追記 050817

河野英一さんご本人からコメントをいただいた。
フォント・デザインについての詳細、貴重なお話、新しいエントリー「Font Design」にまとめてみた。


追記 060731

河野さんからお送りいただいた資料で「メイリオ」について新しくエントリーをまとめた。
aki's STOCKTAKING: Meiryo | メイリオ

Posted by 秋山東一 @ July 30, 2005 05:25 PM
Comments

河野さん、こんにちは。

詳細なレポートありがとうございます。たくさんの貴重な情報、きっと知りたい方がたくさんおられるはずです。河野さんのコメントにリンクを仕掛けたエントリーを新しく作って公開したいと思います。

早速、evolution を amazon に注文しました。ジョンストンの「書字法・装飾法・文字造形」もすばらしい本ですね。新宿の朗文堂ってところに出かけてみようと思っています。

Posted by: 秋山東一 @ August 17, 2005 09:27 AM

BTPhonebook(電話帳)の関連記事は "evolution" 朗文堂 1990年発行(ISBN 4-947613-27-0 C0070) にMatthew Carterと私が寄稿しております。
グラフィックやタイポグラフィの醍醐味(?)は原寸でシミュレーションできる(?)ことです。すなわち、紙と鉛筆とはさみと糊があればOK。実験開始は今から21年前。文字サイズ6ポイントで組版された原本をPMT(スタジオ用製版カメラ)で4倍に引き延ばして、一字一字切り貼りして見本ページをつくり、縮小して元の大きさに戻して視る、というやや気違いじみた「実験」の繰返し。今なら世の中一変マックでちょいちょいと手軽にできるかと思います。幾つかの電算写植書体を試した実験レポートの結論は、マシュー・カーター作 Lino Type社の写植書体 Bell Centennial を見つけたのが幸いして、このプロジェクトは大成功。(ただし、当時私の仕事先のボスが自らのデザインとして各界へ売り込み、マシュー・カーターの名前も出さなかったのは大変残念なことでした。当時の自分はビザで暮らすよそ者であり、英語も人付き合いも自信がまったくなかったとはいえ、文句の一言も云えず、正直なところ欲求不満でした。朗文堂の片塩さんから "evolution" への寄稿の問合せを頂いた時は「私の元ボスと同時にマシュー・カーターへも問い合わせてご判断くださいとお願いした結果が、上記の出版となったものです。今回メイリオで一緒にマシューと仕事ができてやっと20年経って借りを返せて気が晴れた感じです。英国も雨曇りが多いか?!それはともかく、メイリオの組サンプルをご覧下さい。 「ジョンストンの言葉どおり、マシュー・カーターの文字を使い、アレンジ(レイアウト)に気を配った結果が、年間2億円以上の紙代節約になった」と私は云いたかったのです。奇しくも今年に朗文堂からジョンストン著「書字法・装飾法・文字造形 Writing & Illuminating & Lettering 1906」が遠山由美女史のすばらしい翻訳で出版されたのは感無量。ちょうどよかった!

New Johnston に関しては JOHNSTON'S UNDERGROUND TYPE - Justin Howes著 2000年発行 (ISBN 185414 231 3)、および Pen to Printer (EJF Journal No.8, 2003) に私の記事があります。また、メールマガジン「デジクリ」 932号2001年9月13日発行(http://www.dgcr.com/cgi-bin/backnumber/back.cgi) は続きを書くつもりでおります(生来の怠惰とのろまが原因でデジクリ編集者/読者の方々には面目ない次第。ハジをかくより、書字をかくように努力したいと思い、最近再開させて頂きました)。著者のジャスティン・ハウズは上記の著作リサーチ中に共通の友人を介して知り合った仲で、以来10年ほどロンドンの活字博物館設立のボランティア活動を共にしてきた学究肌のタイポグラファー/タイプデザイナーです。 英語圏の活字印刷史上で最も重要視されるカスロン書体 William Caslon のデジタル復刻やサンセリフの歴史展など精力的に素晴らしい仕事をしてきましたが、今年2月に40歳で夭折。まことに残念です。Pen to Printer 出版のエドワード・ジョンストン協会 Edward Johnston Foundation はジョンストンの眠る典型的な英国の村ディッチリング Ditchling に10年程前に設立され、2003年の恒例セミナーで New Johnston の講演を頼まれたのがきっかけで、私もメンバーになりました。来年のセミナーは5月5, 6, 7日です。名誉会長のヘルマン・ツアップ Hermann Zapf やソムナー・ストーン Sommer Stone 諸氏も参加予定と聞いております。ぜひ日本の方々もご参加頂きたいとのことです。私からもお願い申上げます 。

ロンドン地下鉄路線図のデザイナー Mr Beck's Underground Map - Ken Garland著 1994年発行 (ISBN 1 85414 168 6) も併せてご覧頂くと面白いかと思います。ケン・ガーランド氏もマシュー・カーターと同じく英国出身の代表的なグラフィック・デザイナーです。1960年代にデザイナーの在り方、いわゆる宣言書 Manifesto "First thing First" を示し、浪費促進の手先デザインに警鐘を放ったことが今日の環境問題などの論評に先見の明としてしばしば取り上げられています。Aki's には最もご紹介したい人物です。

ところで、矢島洋三氏との最初の出会いは1988年。日本から世界へ向けたデザインの風を吹き込んでくださったのは矢島さんです。その頃からの塵が舞い上がって、和文と欧文の混合フォントが形作られてきたと思えてなりません。まだゴミも(小生のです。矢島さんのではありません)沢山混じっておりますので、少しずつ掃除してまいります。よろしくご指導のほど。ありがとうございます。

Posted by: 河野英一 @ August 16, 2005 11:44 PM

河野さん、こんにちは、ごぶさたいたしております。

先日、メイリオ・フォントについてのマイクロソフト発表のニュースで河野さんのお名前を発見し、矢島さんに BT のフォントのお話を伺った時の感動を皆さんにお伝えしたくてエントリーしたものです。
調べてみたら New Johnston のことまで分かり立て続けにエントリーしました。もし、間違った部分がありましたら教えてください。私はフォントというものの重要性がもっと多くの方々に分かっていただいてもいいのではないかと思っているのです。

何だか、たくさん、共有しうる話題があるようで、楽しみです。よろしく、お願いいたします。
ところで、BT のフォントのあるサイトがあるでしょうか、教えていただければ幸いです。

Posted by: 秋山東一 @ August 14, 2005 07:34 PM

秋山さん、こんにちわ。紙舗直にて矢島さんの陶器展「土生」でお会いしてから2年近くになるんですね。最近メイリオ・フォントの件で landship.sub.jp を再度ヒットして「アッと驚く、エイタロー」。実ははじめて Aki's StockTaking の内容の広さ深さ面白さにビックリ(今まで気がつかなかった自分の鈍さにあきれてビックリ)いろいろ共通の話題が沢山あるようです。ロンドンの地下鉄やマイクロソフトのメイリオ書体はともかく、アップルマックやアレックス・モールトン等々。これからは是非 Aki's ファンとして「blog ブログの力」をより一層実感させて頂きたく存じます。

実は、先週の日曜(8/7)モールトン博士に84歳の誕生日パーティーでお会いしましたが、最新型のニューシリーズ・パイロンや Bridgestone-Moulton を乗り回し、まだまだ大変お元気です。ご存知のように旧型ミニのサスペンションをデザインした博士に「私も旧ミニが欲しいと思ってるので」と数年前アドバイスを願ったところ「97年以前のは出来が悪いから避けるべし。サスは改造してあげるよ」と云われました。博士の車は、旧ミニ、ベントレイ、最近購入したトヨタ・プリウスなどです。(やっぱり旧ミニは買うのをやめました。自転車でいきます)

Posted by: 河野英一 @ August 14, 2005 06:38 PM

ClassicIII さん、了解しました。
このエントリー、ちょっと前に一つのコメントを削除したまま、リビルトせずにそのままだったために、ご迷惑をおかけしていたのかも知れません。コメントいただいた後、正常に表示されていないので、早々にリビルトしました。
よろしくお願いいたします。

Posted by: 秋山東一 @ August 7, 2005 03:17 PM

akiさん
誤用で「プロ用」と書いてしまいました。おっしゃる通り「プロレベル」のつもりで用いてしまいました。
OSではない部分は、ソフトハウスのセンスとハードウェアの問題なので、WinのツールがBetterなケースが最近多くなってきているとは思います。ただ、プロレベルの作業環境を提供できるOSとして、まだまだ差があるように再認識しました。
#このコメントを書き込むときエラーが出たので、Y!Blogで同じような話を書いてしまい、Y!BlogからTBしようとしたのですが、これまたエラーメッセージに出会い、・・・変な形で紹介してしまうことになりました。申し訳ありません。私のY!BlogへのTBをしていただいているようですが、こちらから出来なくて残念です。(って、TBを間違えて理解しているのかもしれませんが)

Posted by: Classiclll @ August 7, 2005 03:01 PM

ClassicIII さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

Mac のドキュメント作成環境がプロ用....というお話は、きっと正反対の話であると思います。
どこの誰でも、プロと同等のドキュメント制作を可能にする環境を作り出そうというのが、ジョブズの考えのように思います。自分自身のデスクの上にある道具で編集出版してしまおう、というのが DTP の始りなのですから。
ジョブズのあのスピーチの最後は Whole Earth Catalog の話ですが、その思想、考えの延長上に Mac はあると想像しています。

グラフィカルなインタフェースやら、なんやらの先達の Mac ですが、OS ではない部分で不足のようです。友人のプロの翻訳家のアプリケーションは Windows のアプリケーションでした。それは少数派の Mac 用のアプリケーションの開発は経済的ではないという理由だけのようですが、Mac の転換、intel inside でそれも変るのかもしれません。

Posted by: 秋山東一 @ August 7, 2005 01:55 PM

ずっと前に変なきっかけで書き込んだ者です。
道理で、フォントを含めてMacのキュメント作成環境がはじめからプロ用を意識していたんだな、といまさらながら納得しました。
MSはApple向けアプリケーションソフトベンダーとしての知見を通して、ずっと「ツール」としてのOSを追いかけてきて、かなりの部分は「コンセプト/慣れ」程度の差になってきていると思っていたんだけど、まだ追いついていない分野があるんですね。
グラフィックデザイナー、インダストリアルデザイナー、ミュージシャン、文筆家等のプロの目から見たとき、現在のOS&Toolの差異はどの程度あるんだろう?

Posted by: Classiclll @ August 7, 2005 12:05 PM

 先日の話は、こういう具合に広がるんですね。
Macは「Intel inside」なってしまうし、windowsは、日本人がつくったすてきなフォントをつかうんだなんて、複雑な気分です。
イギリスの電話帳や地下鉄は・・・・と河野さんという一人の日本人を自慢できるけれど、どうも日本には、こうやって自慢できるような知的なシステムが乏しいような気がします。

Posted by: 玉井一匡 @ July 30, 2005 09:48 PM