030904

学習する家

OM/VOLKS HAUS


この論考「学習する家」は1999年11月発行の「OMソーラーの家・Ⅲ」 に掲載されたものです。
ここから、フォルクスハウスから Be-h@us へと、進化させたのです。


学習する家
フォルクス住宅のシステムとデザイン


「あのフォルクスワーゲンのような単純で明確なコンセプトをもった住宅をつくりたい」の言葉から始まり、94年春から夏にかけフォルクスハウスの開発作業に着手し、システム構築そのフォルクスハウス普及へと走ってきた。

1994年9月の最初のVHー001の協会モデルのフォルクスハウス竣工から早5年が経過、VHナンバーといわれる設計番号も2000番を越え、実際に建設された戸数も全国中に1800棟を越えている。

工場でつくられた部材部品を現場で組み立てる家、工業化された木の家、機密断熱性能の高い躯体にOMソーラーを備えた家は、フォルクスハウス「木造打ち放しの家」と名付けられ、多くの住まい手、建設を進める工務店の共感に支えられて、OMソーラーの家の一つの建て方として完全に定着した。

今年4月にはOMソーラー協会によって「ルールブック」が刊行された。それは新聞紙上に大きく喧伝され注目を集めた。その内容はフォルクスハウスの全てを語り尽くそうという意図のもとに、この5年間の経験、学習をふまえて現時点でのフォルクスハウスの情報の全て、あるいはその意図を越えて現在の家作りの全てといえるものになっている。

そんなフォルクスハウスの今を考えてみたいと思った。

aoy.GIF1998年[アーキテクチャー・オブ・イヤー]展示モデル

●標準化
 
住宅においても、その全体をシステムとして構築することはコンピュータのオペレーティングシステムを作るのに似ている。

コンピュータの性格、その可能性は、その基本的オペレーティングシステム(WINDOW でも MAC でも)によって決定されている。そして、アプリケーションはそのシステムによって標準化されている。同様に、住宅のシステムと個々の住宅はオペレーティングシステムとそのアプリケーションの関係にあたる。個々の住宅はそのシステムの中で標準化を決定づけられている。

どんな住宅でも、その質を高め、その精度をあげようとする時、標準化は避けて通らないわけにはいかない。設計者が意識的であるかどうかは無関係に、性能の高い安定した品質の住宅は標準化されている。一戸の住宅だけではなく複数の住宅を考えた時、その標準化はシステムとしての標準化に行き着く。

フォルクスハウスは誰にとっても明解な住宅である。住まい手にとっても作る人にとっても。どうやってつくるのか、どうできるのか、誰にとっても明解にそのものが提示されている。むき出しの集成材の梁、構造用合板の壁、むき出しの金物は誰の目にも明らかである。それはシステムが存在するからであり、その可能性の限界もそのシステムによって決定づけられている。それ以上のものでもそれ以下のものでもない。

フォルクスハウスは、そのシステムによってその標準を事前に決定されている。その限界があるからこそ、誰にとっても透明な構造、設計システムをつくり出したといえる。

bpm.GIFベースパターン・マトリックス

wpm.GIF開口部パターン・マトリックス

mb808.GIFベースと下屋の呼び方

●構造システム
 
フォルクスハウスの構造システムは集成材の柱梁による軸組工法、木製の枠組みの内部に断熱材を充填した構造用合板を両面に張った機密断熱性能の優れたパネルによって外壁を構成する。

フォルクスハウスは旧来の900、910グリッドではなしに、メーターモジュールを採用し、梁間の最大スパンを4メートルとした。部材はそれ以上の長さのものは用意されていない。これは4メートル角の京間8畳の空間を最大にするという設計方法からきている。階高は2400ミリ、2600ミリの2種類は、新しく2500ミリの階高に統一される。5寸、10寸の2つの勾配の屋根をもつ。このモジュールと最大スパン、階高の設定が構造システムを決定づけている。

柱梁は北欧産の集成材、十分乾燥し強度も十分である。集成材を使用することによって強度物性にばらつきがなく製品として保証しうるものとなった。すべての部材は1つのシステムとして完全な互換性をもっている。金物はクレテック金物をフォルクスハウス用に改良したものを使用し、柱の接合に使われるホゾパイプは独特なものである。水平構面は合板の床面そのものとし、火打ち材を排除している。すべて実物大の破壊試験によって、その強度は保証されている。木造合理化システム認定もフォルクスハウスとして取得されている。

column.GIF接合部詳細

●設計システム

フォルクスハウスの平面は「ベース」と「下屋」の組み合わせに限定されている。

現在、「ベース」と言われる基本型は23パターンである。すべてのベースパターンは縦横の長さで呼称される。例えば、縦8メートル、横6メートルのベースは806(ハチマルロク)と呼ばれる。呼称も含めた記号化はシステムを普及させるのに重要な役割を果たしている。各フォルクスハウスは1つひとつにVHナンバーと呼ばれる001から始まる設計ナンバーがつけられ、将来的な保証、維持管理のために用意されている。

現在パッケージされている開口部はカナダ製の木製複層ガラス入り建具で、限定された種類、寸法に決定されている。大きさは7種類、決して構造的に4メートルスパンまるまる開口にならないよう開口部の建具の寸法は決定づけられている。

システムをつくることは、すべてに適切な限界を構成することである。無限大を思考することではない。フォルクスハウスは1つの限界の成果なのである。

設計作業の標準化にはCADは不可欠の道具である。フォルクスハウスは開発当初からCAD上でその作業が行われてきた。

そのシステムを有効に働かせる為のツールとして最初に「伏図キット」が作られた。これは伏図という形で各部材をモニター画面上に配置することによって、各々の伏図を作ると同時に自動的に「木拾い」をするというアプリケーションである。その機能は「木拾い」から積算まで自動化した。又、各部材に高さのデータを持たせ三次元での表示を可能としている。これはプレゼンテーション、図面のチェックに有効に使われている。又、このデジタルデータをそのまま活かして、部材の受発注、供給を合理化する計画も進行している。

fukit.GIF伏図キット

それとは別に、プランニングをどう構成するかCAD上にアプリケーションを制作した。名付けて「Mac no Uchi」という。フォルクスハウスのベースを重箱に見立て、その中にどう詰め込むかということにした。幕の内弁当というわけである。そのため、各部品と平面との関係をパーツ(部品)、ユニット(単位)、プラン(平面)という形に整理した。パーツの集合がユニットとなり、そのユニットを重箱に詰めるようにしてプランを構成するわけである。各ユニットはS(階段)、E(玄関)、W(水廻り)、K(厨房)、T(便所)、G(下屋)の6種類である。

mnu.GIFMAC no uchi

階段についてはU、I、J、Lの4種類が想定されている。これによって各レベルでの物の役割が明確になり、部品の開発が容易になった。

具体的には2つのユニット、階段および厨房が試作された。U階段という2メートル角のスペースに設置されるイッテコイ型の階段キットである。合板と集成材による箱階段部分と「ささら」と踏み板による階段部分とスティールパイプによる構造部分を兼ねた手摺による構成になっている。

si.GIF階段キット

厨房ユニットはカウンターの長さの違う2種類、附随する喚気フードとセットになっている。

フォルクスハウスは専門家の技量を必要とせず、誰でも組立可能な部品要素が必要であると考えている。木ネジ、金物によって組み立てられる階段、手摺、家具造作を整備すべきと考えている。MECCANO「メカノ」のような住宅を組み立てるシステムでありたいと考えている。

web.GIFFujiyama 1号

●学習する家

昨年、スチュワート・ブランドの著作 [HOW BUILDINGS LEARN- What happens after they're built] を知った時に大きな衝撃をうけた。スチュワート・ブランドは「ホールアースカタログ」の創始者としてよく知られる、1970年代、もう30年前に20代の我々に大きく影響を与えた「ホールアースカタログ」と同じ人物に再び大きな衝撃を与えられるとは思ってもいなかった。

hbl2.GIFHOW BUILDINGS LEAN

[HOW BUILDINGS LEARN- What happens after they're built]を邦題にすれば「建物はいかにして学ぶか--建てられたあと何が起きるのか」ということになるのであろう。

目次 1. 建物は育つ 2. 建物は6つの層でできている 3. 「なかで何をしようとだれも気にしない」Low Road 4. 誇り高き建物 High Road 5. 建築雑誌的建築  No Road 6. 不動産としての建築 7. 建物の保存運動  大衆による静かで保守的な革命の成功 8. 保守作業のロマンス 9. 民衆による建築 建物は相互に学びあう 10. 機能が形を解体する 最低必要限の住居とオフィス 11. シナリオ・プランニングを使って建築する 12. 変化できるように 建築する(翻訳家村松潔氏の要約による)

内容は多岐にわたり写真図版等と豊富な具体的な事例でスチュワート・ブランドの主張が展開されている。基本的な論理の構築から、具体的な住宅の時間変化の分析、現実の作業としての実務から、設計実務の手法までと内容は深く示唆に富んでいる。

layer2.GIF住まいの6つの層(HOW BUILDINGS LEARN より)

この HOW BUILDINGS LEARN の基本的な趣旨は「建物は変化する。建物は刻々と成長し、みずから学んでいくものである。」という論旨に尽きる。

住宅の現状を変えていく論旨として、この問題提起の上で建物を見る時、その全ての出処を乗り越え、その物の存在、時間の中でそのものが有るという事実だけが残される。

自分自身ずーっとどう作るのかを問題にし続けていたが、それがフォルクスハウスというシステムである。そして今、そのシステムを持って何を作るのかのという問題がはっきりしてきたように考えている。

建物を建てるという行為は、建物が存在し使用されていく最初の一瞬に過ぎない。建物は変化していく。それは住まい手、使い手の変化によって建物も変わらざるをえない。

現在、誰も建物が完成しそこでの生活あるいは行動が始まり時間が経過していくことには、なんらの意識的な関心をもっていないように思える。時間をかけてその生活を維持し、その容器たる建物を成長させていくという仕掛けを作っていかなければならないと考える。極論すれば「建物は完成しない、時間とともに成長していく」「建物無完成主義」ということになるであろう。

住まい手、作り手、双方がその視点にたった時、今、住宅供給の問題となっているいわゆる保証の問題なぞ乗り越えて、住まい手の意識、そして作り手の職能の問題を変えうると考えている。

住宅の建て方の情報はたくさんあっても、住まい方、使い方の情報はあまりにも少ない。建てた後の事を考えていかなければならない。建てる為の努力を、住まう為の力と知恵に変えなければならない。

それは「学習する家」というようなものになるであろう。 HOW BUILDINGS LEARN の文字通りの意味であり、住まい手にとっては自助へ向かっての「学習する家」である。

フォルクスハウスは現在の住宅の問題に対する1つのハードウェアとしての解答を用意したと考えている。地球環境、エネルギー自立、室内環境、住宅生産、耐震工法、ストック、セルフビルド・・・・。

そして今、「学習する家」時間のなかで住宅をどう作り、それをどう変えていくか、これからの住宅を作る論理ともいうべき、ソフトウェアとしての解答もまた作り出していきたいと考えている。

vwagen.GIFHow to keep your VW

Meccano.GIFMECCANO

wec.GIFWhole Earth Catalog>



秋山東一/建築家・LANDship  1999「OMソーラーの家III」所収

Posted by @ September 4, 2003 02:10 PM
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