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パソコン創世「第3の神話」/2

BOOKS , Computer

前のエントリー「パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢」で、私は、Whole Earth Catalog とスティーブ・ジョブズを大きく取り上げてしまったが、本書はそれを取り上げた本ではない。スティーブ・ジョブズは前書きで、この時代をちょこっと思いだす人物として登場しているにすぎない。

本書はパーソナルコンピュータの創世の歴史として、ダグラス・エンゲルバートから始り、ホームブルー・コンピュータ・クラブまでの歴史というべきものであるが、その間の多くの登場人物がいる。


Theodor Holm Nelson テッド・ネルソン
社会学者であり思想家であり情報工学のパイオニア。1963年に「ハイパーテキスト」という用語を生み出し1965年に発表した。彼の仕事の主要な推進力は、コンピュータを普通の人々に容易にアクセス可能にすることであった。1974年の著書「コンピュータ・リブ/夢の機械」を出版。

Fred Moore フレッド・ムーア
学生時代ベトナム戦争出征の召集令状を拒否し反戦運動の口火を切った平和運動活動家。活動家として情報ネットワークの必要に思い至り、市民の為のコンピュータ・ネットワークを作り、ホームブルー・コンピュータ・クラブを主宰する。

Stolaroff Myron マイロン・ストラロフ
ストラロフは国際高等研究所を設立し、そこで四年間にわたって、シリコンバレーの優秀な技術者350人以上に、LSDを使った創造性拡張の実験を行なった人物。

Stewart Brand スチュアート・ブランド
1968年に Whole Earth Catalog ホール・アース・カタログを出版、それは全米図書賞 (NBA) を受賞した。ストラロフの流れをくむLSD実験の被験者でもあった。バックミンスター・フラーの講演を聞き影響を受けていたブランドは、LSD によって地球は丸いをことを発見、惑星全体の環境と人間の立ち位置という発想を得た。

Alan Kay アラン・ケイ
1970年、ゼロックス社のパロアルト研究所の設立に参加してAlto を開発。エンドユーザーが自在にプログラミング可能でそれを全方面からサポートする機能を有する Smalltalk の開発において指導的立場をとった。Dynabook 構想の提唱者。

...............等々、多士済々。


Bill Gates ビル・ゲイツもちょこっと登場する。
ホームブルー・コンピュータ・クラブのニューズレターに掲載された「ソフトの不正使用」に関する抗議文の一頁大写真だ。もう、その頃から、今の Microsoft 帝国の片鱗が........「栴檀は双葉より芳し」なのである。

追記 080209

本書の原書である、What the Dormouse Said : How the Sixties Counterculture Shaped the Personal Computer Industry を手にいれたのは、この CNET Japan の署名記事を読んだからであった。

 ● PC革命は60年代ヒッピー文化の所産か:コラム- CNET Japan


Posted by 秋山東一 @ February 7, 2008 09:32 AM
Comments

iGa さん、どうもです。
タイプするのも恥ずかしい「パソコン通信」ですが、昔、私の書いたものには存在するのでありまして、こりゃどうしたものかと思っていますが、まぁ、それ以外の言葉が見当たりません。
本書の時代はパーソナルコンピュータ草創であるのと同時に、インターネット草創の頃でもあります。これはスタンフォード界隈が米国防相の研究開発を担っていたことと大いに関係があるわけです。

Posted by: 秋山東一 @ February 11, 2008 10:46 AM

「パソコン創世」のタイトルは翻訳者が「ASAHIパソコン」の元編集長だったからでしょうね、朝日は他にも、もっと恥ずかしい「ぱそ」なんて雑誌も出してました。大手新聞社がこのレベルでは、そう云えばアエラの一行コピーも恥ずかしいけどね。
M$とヤフーの買収話が持ち上がってますが、95年のビル・ゲイツのお言葉が思い出されます。当時、「パソコン通信」(タイプするのも恥ずかしいからコピペ)によるM$Nを立ち上げようとしていたビル・ゲイツはインターネットを見当違いの構想だと罵倒していたのですね。彼がビジョナリーでないことは誰もが知ってるので驚くには当らないですが...。

Posted by: iGa @ February 11, 2008 09:53 AM

tam さん、どうもです。
パーソナルコンピュータをパソコンってのは、私も昔使っていて......ちょいと恥ずかしい。インターネット以前の通信初期の頃は「パソコン通信」といっていましたが、今さら変えられませんね、TVと呼ぶようにPCでよかったのに、今では Windows machine を指すようで.....いけませんね。

Posted by: 秋山東一 @ February 9, 2008 02:44 PM

読み始めたらたくさんの発見があるし、おもしろくて止まらなくなって、読みかけの「緑の影、白い鯨」を中断、電車で読んでいるうちに乗り越してしまいそうになりました。
ここに登場する人たちが夢中になる人間の能力を拡大するということと、ビル・ゲイツが気になって仕方のない「どうやってもうけるかという」テーマが、いかに対極にあるのもよくわかります。
そのビル・ゲイツが「こんなにコピーされたらボクたちの時給は2ドルにもならない!これは窃盗だ」と主張している宣言文を表紙につかうというのは、大間違いなのでしょうが、この本の出版元がNTTであることを考えれば、このデザインも、いい皮肉かもしれません。「パソコン」ということばをタイトルにしているくらいですからね。

Posted by: tam @ February 9, 2008 09:41 AM

cen さん、どうもです。
ぜひ、お読みください ma(sa)ce(n)。
日本のコンピュータ・カルチャを作り出した GEODESIC の栗田さんもお読みくださって、California Dreaming..............Drugs and Rock 'n' Roll の観点からエントリーして下さると思います。

Posted by: 秋山東一 @ February 7, 2008 01:12 PM

栗田さん、どうもです。
私の拙エントリーを補強していただいてありがとうございます。
本書は、ぜひ栗田さんにも読んでいただき大いに批評していただきたい本です。私はその時代のカウンターカルチャーの「Drugs and Rock 'n' Roll」にはとんと疎くて、「Whole Earth Catalog 」しかないものですから、どうしても偏ってしまいます。
ところで原書のカバーデザインですが、真っ黒い中に緑のジャギーな反戦ロゴという趣向です。この翻訳書も同じカバーデザインですが、装幀デザイナーは何を間違ったのか、ご紹介したビル・ゲイツの文書を何か宣言文と勘違いしたのか、それを地紋にしてしまうという間抜けたことになっています。

Posted by: 秋山東一 @ February 7, 2008 01:03 PM

今井さん、どうもです。
最初のエントリーで「Whole Earth Catalog とスティーブ・ジョブズ」の本と思われたらいかんと考え、新しいエントリーを起こしました。
私にとって、あの頃のカウンターカルチャーというと、どうしても Whole Earth Catalog になってしまい.....なのであります。

Posted by: 秋山東一 @ February 7, 2008 12:48 PM

akiさん、またまたご丁寧にありがとうございます。もう読まずにはいられまcen!トゥルー・テリッピーガイドとして必見だと思います。

Posted by: cen @ February 7, 2008 12:41 PM

出版社の書籍紹介には次のような文章が用意されていました。

カウンターカルチャーが育んだ夢

60年代のシリコンバレーでなにが起きていたのか。
パイオニアたちの本音をもとに真の姿を描きだす。
パソコンの発明を論じた書籍は、大きく2つのパターンに分けられる。
1つは、スティーブ・ジョブス、スティーブ・ウォズニアック(1976年、アップルコンピュータ)という二人にまつわる話。
もうひとつは 1970年代前半のゼロックスにまつわる話である。これらの話はいずれも正しいが、十分ではない。
本書では、これらの出来事が起こる前に、何があったのか。
とりわけこの革命的な技術の背景にある政治的、社会的、文化的な力にスポットを当てたユニークな本である。
科学技術産業、急進主義、ドラッグ等で特徴的なサンフランシスコ湾岸地区の1962年から1975年を舞台に、多くのインタヴューに基づき、その時代を彩った人々や政治を通して、パーソナルコンピュータ誕生の話を生き生きと、読み物としても面白く展開する。


この本の原書タイトルを見ると、もっとダイレクトに内容を表しているのがわかりますね。
“What the Dormouse Said: How the 60s Counterculture Shaped the Personal Computer”

海の向こうではさらに過激なコピーもあったりして。
California Dreaming: A True Story of Computers, Drugs and Rock 'n' Roll

これまで仕事上、資料としてこの本に登場する人びとに関係する著書を数多く読んできたので、内容的にはすでに知っていることが多いのだろうと推測できます。
唯一の興味は、どこまで当時のカウンターカルチャーをより関連付けて書いてあるのかです。
80年代、何度も訪れたSFで聞かされたデッドファミリーとカウンターカルチャーの関係話。1989年に私が中心になって取材編集した書籍「Machintosh Music Guide」で出会った多くの西海岸のミュージシャンやプログラマーの話しなどを思い出します。

秋山さんがリンクしたペーパーバックの原書には解釈の加わったカバーデザインが使われていましたが、ハードカバーの原書のほうが翻訳書のカバーデザインに近いことを知りました。
http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/0670033820/b12partners-20

Posted by: 栗田 @ February 7, 2008 12:18 PM

秋山さん、了解です。秋山さんのこういう誠実な姿勢をこれからも見習っていきます。Wikipediaでまずダグラスエンゲルバートの項を見てみました。英文のアーカイブも見たのですが、やはりブートストラップがキーワードの一つのようです。この語の解釈についてはなかなか納得のいくものがありません。なので、本書も購入して読むことにしました。いしかわじゅんさんの本を読み終えた後、着手する予定です。エンゲルバートはけっして順風満帆ではなく、さまざまな壁に対峙したのですね。今回も価値ある本について教えてくださりありがとうございます。

Posted by: 今井孝昌 @ February 7, 2008 12:12 PM