パソコン創世「第3の神話」 | [ BOOKS , Computer ] |
パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢
著者: ジョン・マルコフ John Markoff
訳者: 服部 桂
ISBN: 978-4757101951
出版: NTT出版
定価: 2,940-円(税込)
実は、この副題に反応して、原書をずいぶんと前にゲットしていたのであるが、難しくて......であったが、本書には沢山の訳注があり、効率よく読了した。実に面白い読書であった。
まずはパーソナルコンピュータの発明について一般に流布している二つの言説をあげることから始める。
一つはスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズの二人が1975年にホームブルー・コンピュータの友人達と一緒に使うコンピュータを作ったという話しだ。もう一つはゼロックスのパロアルト研究所が1973年に作り出した Alto アルトがそれだという話しだ。どちらの説も正しいが完全とは言えないというのだ。
話しは Douglas Carl Engelbart ダグラス・エンゲルバートから始る。
1945年、ダグラス・エンゲルバートは兵隊としての任地フィリピンの島の図書館で、Life誌にのった Vannevar Bush ヴァネヴァー・ブッシュの「As We May Think」という論文の要約版に memex という機械を見つけたのだ。それ以来、ダグラス・エンゲルバートは「人間の知力を拡大する装置」というものに心奪われてしまうのだ。まだ、コンピュータは真空管とリレーの塊、軍事計算に使われている機械しかない時に、個人の知力を拡大する機械を夢想しはじめたのだ。
それを夢想したとしても、その実現には技術的なブレークスルー、それなりの時間とエネルギーが必要だ。ダグラス・エンゲルバートは、1968年のコンピュータ会議 (Fall Joint Computer Conference) で Mother of all demos と言われるデモンストレーションを行った。そのデモこそ我々のパーソナルコンピュータの基本となるものであったのだ。それは Alto アルトへと繋がっていく。
その1968年は、スチュアート・ブランドによって Whole Earth Catalog が誕生した年なのだ。
スチュアート・ブランドは、「カウンターカルチャーが中央の権威に対して持つ軽蔑が、リーダーのいないインターネットばかりか、すべてのパーソナル・コンピュータ革命の哲学的な基盤となった」と1995年に書いている。
本書にも、その時代の人としてパーソナルコンピュータの誕生に大いに貢献したティーブ・ジョブズも登場する。
彼がスタンフォード大学の卒業式での来賓祝辞において、スチュアート・ブランドの Whole Earth Catalog にふれ、その最終号 "Whole Earth Epilogue" の裏表紙にあった言葉 Stay hungry. Stay foolish. を結語に持ってくる。
これは、まさしく、その場所、その時代に生き、パーソナルコンピュータ革命を起こした人間だけがそれを言えるように思える。
このエントリーのちょいと偏っているのを是正するため、新エントリーを作った。
● aki's STOCKTAKING: パソコン創世「第3の神話」/2
なるほど、この言葉 'Stay hungry. Stay foolish.' は、masaにその時代のもので、真のテリッピーのみに使うことが許されるという、軽率な現代の流行語とは根本というか、やはり魂がまるで違いますね、勉強になりました。“本家シリコンバレー系”という表舞台とは裏腹に“やはりフィリピン系”という隠れた舞台があったことが、フィリピーナの英語の上手さを納得させてくれます。ありがとうございました、後ほどリンクさせて頂きます。
Posted by: cen @ February 6, 2008 07:11 PM私にとってすごく貴重な情報です。浅はかな知識しかなかったので、とても勉強になりました。日ごろコンピュータの世界の文章を読んでいると、ほんとに「くだけた表現」が多くて、これをまじめくさった日本語にするのはおかしいと思うことがあるのですが、これでずいぶん納得がいきました。
秋山さんがおっしゃるとおり、"Stay hungry.Stay foolish"を言葉面だけでとらえたら、真意がぜんぜん伝わらないでしょうね。考え方や思想が輸入される場合、そういう表面だけをとらえる傾向が今も続いているような気がします。
Whole Earth Catalogは、宝島なんかでも紹介されていませんでしたか。
気分の引き締まる情報です。