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パソコン創世「第3の神話」

BOOKS , Computer

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パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢

著者: ジョン・マルコフ John Markoff
訳者: 服部 桂

ISBN: 978-4757101951
出版: NTT出版
定価: 2,940-円(税込)

原題は "WHAT THE DORMOUSE SAID" って言うんだ。「不思議の国のアリス」の「ヤマネの言ったこと」ってことなのだが、1966年の Jefferson Airplane の「White Rabbit」の一節で、それは「Feed your head!」なんだそうだ。その時代の象徴的な言葉としてあるのだ。
そして、副題は "How the Counterculture Shaped the Personal Computer Industory" なのだ。パーソナルコンピュータが登場するにあたってカウンターカルチャー.........がとは、その秘密を解き明かすのが本書なのだ。

実は、この副題に反応して、原書をずいぶんと前にゲットしていたのであるが、難しくて......であったが、本書には沢山の訳注があり、効率よく読了した。実に面白い読書であった。


21世紀の我々にとって無くてはならないお道具、パーソナルコンピュータなる物は、いつどのようにして生まれたのか、その真相にせまるのが本書だ。

まずはパーソナルコンピュータの発明について一般に流布している二つの言説をあげることから始める。
一つはスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズの二人が1975年にホームブルー・コンピュータの友人達と一緒に使うコンピュータを作ったという話しだ。もう一つはゼロックスのパロアルト研究所が1973年に作り出した Alto アルトがそれだという話しだ。どちらの説も正しいが完全とは言えないというのだ。

話しは Douglas Carl Engelbart ダグラス・エンゲルバートから始る。
1945年、ダグラス・エンゲルバートは兵隊としての任地フィリピンの島の図書館で、Life誌にのった Vannevar Bush ヴァネヴァー・ブッシュの「As We May Think」という論文の要約版に memex という機械を見つけたのだ。それ以来、ダグラス・エンゲルバートは「人間の知力を拡大する装置」というものに心奪われてしまうのだ。まだ、コンピュータは真空管とリレーの塊、軍事計算に使われている機械しかない時に、個人の知力を拡大する機械を夢想しはじめたのだ。

それを夢想したとしても、その実現には技術的なブレークスルー、それなりの時間とエネルギーが必要だ。ダグラス・エンゲルバートは、1968年のコンピュータ会議 (Fall Joint Computer Conference) で Mother of all demos と言われるデモンストレーションを行った。そのデモこそ我々のパーソナルコンピュータの基本となるものであったのだ。それは Alto アルトへと繋がっていく。

その1968年は、スチュアート・ブランドによって Whole Earth Catalog が誕生した年なのだ。


目次
    
第1章 予言者と本当の信者
第2章 心の拡大
第3章 赤いオムツの赤ん坊
第4章 自由大学
第5章 稲妻を操る
第6章 学者と野蛮人
第7章 慣性
第8章 神から火を借りる
    謝辞
    訳者解説
    原注
    参考文献
    索引

パーソナルコンピュータが勃興する舞台はミッドペニンシュラと呼ばれるサンフランシスコの南の一帯、そこで起きたカウンターカルチュアーと言われる運動の時間だ。ヒッピー文化、サイケデリック、LSD、フェミニスト、エコロジー、反戦運動、それらは反体制運動としてのカウンターカルチュアーなのだ。1960年代の Contemporary 時代精神がその全てを動かしていたのだ。
私にとってパーソナルコンピュータ AppleII を手に入れた1979年以前、カウンターカルチュアーに触れたのは1968年版の Whole Earth Catalog が最初だったのだ。

スチュアート・ブランドは、「カウンターカルチャーが中央の権威に対して持つ軽蔑が、リーダーのいないインターネットばかりか、すべてのパーソナル・コンピュータ革命の哲学的な基盤となった」と1995年に書いている。

本書にも、その時代の人としてパーソナルコンピュータの誕生に大いに貢献したティーブ・ジョブズも登場する。
彼がスタンフォード大学の卒業式での来賓祝辞において、スチュアート・ブランドの Whole Earth Catalog にふれ、その最終号 "Whole Earth Epilogue" の裏表紙にあった言葉 Stay hungry. Stay foolish. を結語に持ってくる。
これは、まさしく、その場所、その時代に生き、パーソナルコンピュータ革命を起こした人間だけがそれを言えるように思える。


追記 080207

このエントリーのちょいと偏っているのを是正するため、新エントリーを作った。
 ● aki's STOCKTAKING: パソコン創世「第3の神話」/2


Posted by 秋山東一 @ February 6, 2008 12:28 PM
Comments

なるほど、この言葉 'Stay hungry. Stay foolish.' は、masaにその時代のもので、真のテリッピーのみに使うことが許されるという、軽率な現代の流行語とは根本というか、やはり魂がまるで違いますね、勉強になりました。“本家シリコンバレー系”という表舞台とは裏腹に“やはりフィリピン系”という隠れた舞台があったことが、フィリピーナの英語の上手さを納得させてくれます。ありがとうございました、後ほどリンクさせて頂きます。

Posted by: cen @ February 6, 2008 07:11 PM

私にとってすごく貴重な情報です。浅はかな知識しかなかったので、とても勉強になりました。日ごろコンピュータの世界の文章を読んでいると、ほんとに「くだけた表現」が多くて、これをまじめくさった日本語にするのはおかしいと思うことがあるのですが、これでずいぶん納得がいきました。

秋山さんがおっしゃるとおり、"Stay hungry.Stay foolish"を言葉面だけでとらえたら、真意がぜんぜん伝わらないでしょうね。考え方や思想が輸入される場合、そういう表面だけをとらえる傾向が今も続いているような気がします。

Whole Earth Catalogは、宝島なんかでも紹介されていませんでしたか。

気分の引き締まる情報です。


Posted by: 今井孝昌 @ February 6, 2008 03:05 PM