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REVOLUTION in The Valley

Apple , BOOKS

昨年9月(関係ないけど僕の誕生日に)本書は出版されていた。
久しぶりに書店にでかけ、店頭に平積みになっているのを手に取った。その中味、たくさんの Macintosh 誕生時の資料、それもカラーで、邦訳されたそれは小さな活字でいっぱいなのだ。amazon ではそれを見るわけにはいかず買い損ねていた。そのままレジにまっすぐ向かったのは言うまでもない。

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REVOLUTION in The Valley
レボリューション・イン・ザ・バレー / 開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏

アンディ ハーツフェルド/ Andy Hertzfeld /著
柴田文彦 /訳
ISBN: 44873112451
出版社: オライリー・ジャパン / オーム社
価格: 3,570-円(税込)

本書の表紙カバーは出来たての Macintosh を中心に6人の男女(といっても女性は一人)がこちらを見つめているモノクロの写真だ。
Mac を抱え込んでいるのが Bill Atkinson、そして、その後ろの真ん中に立っているのが本書の著者、Andy Hertzfeld だ。彼らのバックは赤、出版以前の仮の書名が Revolutionaries(革命家達) in .........で納得だ。赤いバックの前にいる革命家......そうだチェ・ゲバラを模した構想だったのだ。
本書の後書きに Andy 本人がこの表紙について「.....ただし1つだけ変えてもらうことができたのは、"Revolutionaries"を、"Revolution"にすることだった。それによってわずかでも謙虚に見えると思ったのだ。」と書いている。

Apple II から Macintosh への進化する1980年代のそれを作り出した若者達の話しだ。今、我々が使うコンピュータ、Windows マシンを含めて、全て Macintosh が基本となっているのは言うまでもない。そのコンピュータを作り出した本人達が自分達で語ったのが本書なのだ。


彼、Andy Hertzfeld を知ったのは、最初の128K Mac が 512K になった時、マルチタスクを可能にする Switcher というソフトの作者、そしてパーソナルコンピュータ初のスキャナー Thunderscan 制作者としての彼であった。親しく登場する Bill Atkinson、Mac のユーザーインタフェイス、グラフィックソフト、MacPaint の作者であり、HyperCard をも作り出した人物だ。そして、Susan Kare、彼女は Mac の画面から見えるアイコン、フォント、その全てを作り出してしまったのだ。

本書は Andy Hertzfeld のサイト「Folklore.org: Macintosh Stories」に集められた彼らのドキュメントを一冊の本にまとめたものだ。1979年、Andy が Apple 社のスタッフになって、Mac の基盤を作り出した Burrell Smith と友人になる話から始まる。Jef Raskin を長とする小規模の研究活動だったプロジェクトから、スティーブ・ジョブズによるプロジェクトの乗っ取り、1984年の Macintosh 発表イベントの高揚、スティーブ・ジョブズが Macintosh チームから追放されるまでの5年間を、各々独立した100話あまりのエピソードが時間軸にそって語られている。

エピローグの一つ前、The Father of the Macintosh で誰が「 Mac の父なのか」が語られる。Macintosh が登場した際、最初の開発チームを率いた Jef Raskin の構想で残っているのは、その名前 Macintosh でしかなかない。実際に作りだした Bill Atkinson も、Burrell Smith も父たる資格がある。しかし、彼 Andy Hertzfeld は、誰か一人だけがその栄誉を受ける資格があるとするなら、やはり Steve Jobs でしかありえないと述べている。
彼のビジョン、卓越に対する情熱、強靱な意志、恐ろしいほどの説得力、それによってチームを駆り立て、不可能と思われるような基準を満たし、超えさせることになった、と語られている。その頃の Steve Jobs の傲慢な態度、いやな奴ぶりは本書でも十分語られているが、今、Stay hungry. Stay foolish. の彼でなければ、それはできなかったことなのだ。

そしてエピローグ、「.......熱意は人から人へと伝わるものだ。作るのが楽しい製品は、使うのも楽しい可能性が非常に高い。オリジナルの Macintosh チームが持つ緊迫感、功名心、卓越に対する情熱、芸術家としてのプライド、そして恐れを知らないユーモアなどが製品を通して伝わり、Macintosh のスピリットをその時代のデベロッパや顧客に吹き込んだ。それは20年以上経った今でも、影響を与え続けている。」と語られる。

序文は Steve Wozniak、「........この経験の乏しい若者たちは、何か素晴らしいことをすることが何よりも重要だと考え、おそらく私たちの生活においてもキーとなるような技術を創り出した。それを考えるとぞくぞくする。彼ら自身の言葉や写真は、革新の規範が金ではなく、内面的な充足感によって導かれていた、あの希有な日々に私を連れ戻してくれる。」

Part One の巻頭言は、Alan Kay のお馴染みの言葉だ。
The best way to predict the future is to invent it. 「未来を予言する最も確実な方法は、それを発明してしまうことだ。」

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Macintosh を1984年6月4日手に入れ、同梱されていた MacPaint で Mac そのものを描いた。

最近手にした本のなかで最上と思った。Mac 誕生のその時を読めるという至福、そのコンピュータを手にしていることのすばらしさ、そんな気分にしてくれた本なのだ。


五十嵐さんの MADCONNECTION にも本書についてエントリーがなされた。

MADCONNECTION: REVOLUTION in The Valley

Posted by 秋山東一 @ March 12, 2006 09:04 PM
Comments

Jun Seita さん、はじめまして、こんにちは。
おっしゃるように、昨年のそれらの二冊の本の出版は、Apple 理解を十分に深めたという気がします。それに "Stay hungry. Stay foolish."も.....ですね。
http://landship.sub.jp/stocktaking/archives/000879.html

Posted by: 秋山東一 @ March 27, 2006 08:53 AM

「考えるための道具」を具現化した最初のコンピュータ故に、Macintoshは常に尊敬の対象でしたが、この本を読み、その思いはますます強くなりました。
http://junseita.com/mt/archives/2005/10/the_artists_sig.html
しかし、同時期に発売された「iCon Steve Jobs」を読むと、どちらが欠けてもMacintoshは世に出なかったことが良くわかります。
http://junseita.com/mt/archives/2005/11/post_35.html
Apple30周年を前に、2005年は実りの多い年になりましたね。

Posted by: Jun Seita @ March 26, 2006 12:18 PM

本多さん、どうもです。
この本、読まなくちゃと思ったのが本多さんのエントリーを読んだからなのです。遅ればせながらトラックバックをと思ったのですが、できずにコメントしようと思っていたところでした。

Posted by: 秋山東一 @ March 19, 2006 11:40 PM

僕は昨年末にこの本を買いました。単にMacintoshについてというだけでなく、ものを産み出すときの普遍的な情熱に溢れていますよね。中でもアラン・ケイの講演のレジメは秀逸です。

http://weblog.shigeo.net/235

Posted by: Shigeo Honda @ March 19, 2006 05:35 PM

今朝、アマゾンから届きました。
結構、Andy Hertzfeldは謙虚ですね。
ジョブズの現実歪曲フィールドも Hertzfeldが語ると悪意がなく思えますね。
そういえば一年前にこんなエントリーを書いてました。
ANDY HERTZFELD talk about…
http://madconnection.uohp.com/mt/archives/000602.html

Posted by: iGa @ March 16, 2006 06:36 PM

amazonに注文しました。できごととしての革命じゃなくて、志をもって進んでいったんだから革命家たちって言ったほうがいいじゃないかと思いました。しかし、バレーの革命というからには、バレーの中で行われていたほかのことはともかく、これは革命だぞという自負を示しているんだと思いなおしました。まだ、読んでも見てもいないのですけど。・・・・楽しみにしています。

Posted by: 玉井一匡 @ March 14, 2006 10:28 PM