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仕舞える住まいの収納学

BOOKS

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仕舞える住まいの収納学—ゴタゴタ病根本治療の処方箋
百の知恵双書 (014)

著者: 山口 昌伴

ISBN: 978-4540040825
出版: 農文協

定価: 2,800-円(税込)

本書の帯紙には「モノ溢れ、片づけても片づけても片づかない今どきの住まい。日本の住まいはなぜかたづかないのか。」とある。たしかに、私の家にしてしかりなのだが、どうも日本中の住居の問題であるらしい。

住宅の収納についての本はあまたある。収納の工夫やアイディアだったり.....、しかし、本書のように「.......収納学」と銘打ち、真っ向から「........治療の処方箋」とまで言い切っている本は空前絶後なのである。

本書は我らの住居のゴタゴタの病根に迫り、そこから脱却する処方......福音をもたらすバイブルたりえるか、それが問題なのだ。


目 次
はじめに 片づけても片づけても、片づかない—住まいの収納苦症候群の処方箋

第1章 人・物・生活空間—人・道具・生活系混乱の構図
   1 人・道具システムと生活空間—ゴタゴタ病の原因の構図
   2 溢れはじめたモノの正体—近代産業の功と罪
   3 西欧では片づいているーゴタゴタ病は日本に特有な近代病
   4 物持ちの持ち物学ー家財道具、そして形見

第2章 仕舞う物と仕舞われる物—収納の類型学
   1 収納スツール—お尻の下の宇宙
   2 薬箪笥:百味箪笥—医の哲学と収納具のデザイン
   3 階段箪笥−便利のシンボル収納具
   4 針箱よりも裁縫箱−箱に入れても出し並べ収納
   5 出し並べ仕舞いの系譜−見つけ、見分けアナログ分類法
   6 みずから身仕舞いする道具−仕舞う道具と仕舞われる道具の関係
   7 見せる収納−不時の用に備えて
   8 吹き溜まる物たち−テレビの上を見せてください

第3章 仕舞うための住まい—収納の空間学
   1 前面床下収納の家—引越し苦症候群への対応策から
   2 世界一周「玄関」の旅から—解説員常駐・玄関博物館
   3 玄関から住まいを設計する−玄関と勝手口はまったく異質
   4 ダイニング玄関の家−二十一世紀日本型住居提案モデル
   5 土間に居たがるモノたち−高さ方向の収納設計
   6 勝手口から住まいを設計する−定年帰農の家
   7 収納たくさんの夢−冗談から駒、収納工夫よもやま話

第4章 家の中だけでは片づかない—社会工学の視角から収納を
   1 私有と共有—私有・家財化強要の時代
   2 高度サービス社会—銭湯の収納システム
   3 引越し苦の抜本的解決法−コミュニティ・ストレージ利再来センター
   4 生活文化財ひと揃えの社会的収納庫の提案−じつはもう手遅れだった

 あとがき


本書は真鍋編集長による「百の知恵双書」の一冊、著者は先の「台所の一万年」の道具学の碩学、山口昌伴先生だ。

住まいに物が溢れてゴタゴタ.......その諸相、玄関のゴタゴタからキッチンのゴタゴタに至るまで、その分析から、その原因は近代文明の誕生にありと断言、それが日本固有の問題であり西欧には存在しないことを明言する。そこで........どうすれば........とはならない。

そこはそれ、昌伴(しょうはん)先生のこと、類型学なる学問にに寄り道、あちこちで道草とその衒学趣味にお付き合い、余計な知識が付くことは間違いない。

第3章「仕舞うための住まい」で、やっとハードな問題として空間学が展開される。昌伴先生が建築家であり、住宅の設計をなさるのを初めて知ったのだ。

昌伴先生の設計による、収納を中心にすえた小住宅だ。全面床下収納の家、玄関と勝手口を並列させた家、ダイニング玄関の家、定年帰農・土間の家、本棚の家、北国の押出し収納の家等々の示唆に富むご提案なのだ。

この章も、やはり昌伴先生、カナダさいはての玄関から、銘々盆から俎板....、システム書斎のアイディアまで、お教えいただくのだ。

そして、「.......総じて生活設計、生き方、生き甲斐の中心があらたまると、要る物と要らない物とが変ってくる。その生活設計がじつにあいまいのまま設計されている現代の間取り設計に......」「.....生き方、生き甲斐がはっきりしてくるほど「片づいている暮らし」になる。これは片づくライフ処方箋の、ひとつの究極ではないだろうか。」

やぁ、やっと分かってきたぞ。

この後、最後の「第4章 家の中だけでは片づかない—社会工学の視角から収納を」と、最後の止めか、蛇足なのか.......私有共有、銭湯の収納、コミュニティ・ストレージ利再来(リサイクル)センター、社会的収蔵庫なる提案まで......というのが昌伴先生流なのである。


当方、今年はいろいろ引越しでゴタゴタ生活なのだが、色々と現実問題に示唆に富んだ内容であった。

私は、住宅が消費の場から生産の場と捉えることが、昌伴先生のおっしゃる「片づいている暮らし」の条件である「生活設計」「生き甲斐の中心」ではないかと考えている。

住まい手が何かを作り出す人となる時、ブリコラージュする人、ブリコルールのブリコルールによるブリコルールための住まい、そんな方向を考えてみたいと思っている。

 ● aki's STOCKTAKING: Bricoleur Archives


Posted by 秋山東一 @ November 26, 2007 12:06 AM
Comments

kadoorie-ave さん、どうもです。
>欲しいものは工夫とアイディアを駆使して作る子どもになりました。
まさしく、子供の時からブリコルールであらせられますね。私もブリコルールの両親を見ていますから、ちゃーんとブリコルールであります。
何もかも整理されて美しく整えられている空間よりも、ちょっとはみだし気味なブリコルールな人の家こそ理想です。
「ブリコラージュ」なる言葉、これによってずいぶんと遠くが見えるようになった気がしています。

Posted by: 秋山東一 @ December 2, 2007 04:26 AM

私は一ヶ月くらい、他に何もせず、家の中の整理を根本的に考え直す時間が欲しいです。4人でそんな狭いところに住んでいるの?と驚かれるほど狭い住まいではありますが、引っ越しを考える前に、まだまだすることがあるとわかっています。
ところで、ものを買うということにあまり興味のない両親のもと(哲学者と画家の親ですと、心はきれいでも、懐にそう余裕もありませんし)欲しいものは工夫とアイディアを駆使して作る子どもになりました。流行りのオモチャは、素敵だと思えないというので買ってもらえなかったし。
かくして、「あれも将来使えそう、こっちも使うかも....」と身の回りに色々なものを溜め込む習性に。(その習性もどうにかしないと!)ちなみに『ブリコラージュ』という言葉、中学生のときに知り、ずっと大好きな言葉です。
今は「さあ、ブリコラージュしよう!」というのに加え「もうシステムD(デ)にするしかないな」とつぶやきます。System DのD はDebrouilleまたはDemerdeの意味です。

Posted by: kadoorie-ave @ December 1, 2007 11:01 PM

たかさん、どうもです。
この本は、片づく、片づかない...というような皮相な見方ではいけないのではないかと考えています。現代の住宅の根底的な問題、なにを作らなければいけないのか......に踏み込んでいます。

Posted by: 秋山東一 @ November 27, 2007 12:11 AM

家庭内のゴタゴタはともかく(笑)、片付かない人(家)には必読の書となりそうですね...。

Posted by: たかさん @ November 26, 2007 01:13 PM