070920

ブリコラージュ bricolage

Be-h@us , Bricoleur , SELFBUILD/DIY

このブリコラージュ bricolage という聞きなれない言葉は、仏語で、身のまわりにあるありあわせの道具・材料で手作りするという意味で、「器用仕事」と和訳される。

その語源であるブリコレ bricoler という動詞は、古くから球技、狩猟、馬術に用いられ、ボールが跳ね返る、犬が迷う、馬が障害物を避ける等の非本来的な偶発的な運動を指している。「ブリコラージュ」は同じ「作る」ということでも、いわゆる「セルフビルド」や「DIY」という言葉とは違った意味合いを持っているものだそうだ。

この言葉は、人類学者レヴィ=ストロースが著作「野生の思考」で未開社会特有の思考法を考える言葉として用い、現代の我々の思考様式にもそれが存在することを記述したため、我々にも親しいものとなったのだ。

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野生の思考 La Pensée sauvage

著者: クロード・レヴィ=ストロース  Claude Lévi-Strauss
訳者: 大橋 保夫

ISBN: 4622019728
出版: みすず書房
定価: 5,040-円(税込)

「ブリコラージュ」は「Be-h@usの本」で栗田伸一氏が一章(092~093 [ビルド] ブリコラージュ)を割いている。
そこには氏が幼少の頃から、自宅の縁の下にストックされた材料によって祖父、父、本人の三代が、箱ソリから鉄棒、そしてエレキギターまで作ったという体験から、レヴィ=ストロースのブリコラージュの記述に出会った事が書かれている。

............ブリコルール(bricoleur ブリコラージュする人 器用人)は多種多様の仕事をやることができる。しかしながらエンジニアとはちがって、仕事の一つ一つについてその計画に即して考案され購入された材料や器具がなければ手が下せぬというようなことはない。彼の使う資材の世界は閉じている。そして「もちあわせ」、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。しかも、もちあわせの道具や材料は雑多でまとまりがない。なぜなら「もちあわせ」の内容構成は、目下の計画にも、またいかなる特定の計画にも無関係で、偶然の結果できたものだからである。すなわち、いろいろな機会にストックが更新され増加し、また前にものを作ったり壊したりしたときの残りもので維持されているのである。したがってブリコルールの使うものの集合は、ある一つの計画によって定義されるものではない。............ブリコルールの言い方を借りて言い換えるならば、「まだなにかの役に立つ」という原則によって集められ、保存された要素でできている。............
レヴィ=ストロース 著 大橋保夫 訳「野生の思考」第1章 具体の科学 23頁

「物を作る」ということに慣れた人にとって、ありあわせの道具と材料を元に何かを作ろうとすること、例えば、捨てられた空き缶で、ケロシン・ランプを作ったり... しようと考えることはごく一般的なことであろう。又「これはまだ何かの役に立つ」と思って、何か目的があるわけではないが、引き出しの中に、ガレージの奥に何かをストックする行動も一般的なものであろう。
何かを作るために新しく材料を買いそろえるのではなく、すでに有る物の特性を生かし最大限に活用する。又、その物の本来の用途から大きく逸脱させて新たな物を作り出す。そんな世界に意表をつかれ、人の持つ可能性、知恵と想像力に感銘する。

このブリコラージュこそ BARRACK finder に登場するバラック群の真髄と考えた。
多くのバラック群の有り様にはブリコラージュ Bricolage でしかできない、考えられない姿を見ることができるのである。この考え方こそ Be-h@us の概念、Be 的な.....へと昇華せねばならないと考えている。


追記 070920

私の父(秋山喜世志)もブリコルールであった。彼の引き出し、道具箱には得体の知れない物が一杯ストックされていた。大小のネジの類いから、フィルムの空き缶、機械の部品であったらしき金属類、大部分のそれらの物は日の目を見ることはないが、一旦、彼が何かを作ろうとした時、写真用の機材であったり、ただの玩具であったりするのだが、必ず、そのストックから探し出され、意味が与えられ、部品として使われるのが常であった。
幼少の頃の私は、父の工作を見ながら育ったが、そのストックされた物(通常ガラクタと云う)を何かに見立てて、玩具として遊んでいた。


追記 070920/2

Make: の「Projects」「DIY」を見ると、それら全てがのブリコラージュであることが分かる。
空き缶で作る........ジャム瓶で作る.........$14ドルで作る........中古マウスで作る........ ビデオデッキを改造して........等々、ブリコラージュそのものなのである。


Posted by 秋山東一 @ September 20, 2007 08:34 AM
Comments

fuRu さん、どうもです。
どのようにお考えなのか、コメントの文面では分かりませんが、ぜひ、深めてくださいませ。そのお考えをブログで..........よろしく。

Posted by: 秋山東一 @ May 1, 2009 12:48 PM

複製技術時代の建築を考える時に
「ブリコラージュ」という考え抜きにはありえないと
ここ最近、特に考えるようになりました。

Posted by: fuRu @ April 27, 2009 01:32 PM

もこもこママ さん、どうもです。
コメントを拝読し、「ブリコルールの居場所」なんて言葉が浮かびました。
この STOCKTAKING に、新しいカテゴリー [ Bricoleur ] を作りました。

http://landship.sub.jp/stocktaking/archives/cat_bricoleur.html

Posted by: 秋山東一 @ September 29, 2007 09:57 AM

《ブリコラージュ》という言葉、やはり、知らない人が多い。理解不能も、超納得も両方いる。思考が違えば《いごこちの良さ》《わくわく感》《達成感》も違い、《阻害感》《いらいら感》も違う。ある人には、ゴミであるモノも、ある人には、素材であり捨てるにはもったいないものなのだ。ソレがあって嬉しい人と、つらい人がいる。私の場合、何もないシンプルな場所は、落ち着けない。発想のきっかけとなる何かが種であり、頭脳も心もそれから芽を出す。あのアレを作れるかもと思える時から、安堵するものの完成までのプロセス、その後の使い勝手の良さに浸ることが幸福なのだ。凶悪な事件の多い昨今に思う。作られ過ぎた教育マニュアル、ゲーム、テーマパーク、流行やブランド、家や町並、食べ物さえもレトルトだのレシピだの・・・。人のブリコルールな部分には、耐え難い環境といえる。アノ人は独学で、と特別なものとするが、独学だから煩わされることもなく到達できたのではないかとさえ思う。ただ、資格だ、学歴だ、肩書きだのためだけに押し込まれる場所のなんと狭いことか。環境を選ぶ自由は、あるようで無い人の方が多い。それが精神の不健康につながりいろいろな問題行動の原因となっているのではないかと思う。私も子育て中に、気づきたかったな・・・反省。

Posted by: もこもこママ @ September 29, 2007 09:28 AM

そうですね。もともと この星には、言葉も無く 物の名前などなかったのに 今は こんなに溢れて・・・そして、それでも 出会えない言葉を探したり、無いことにうろたえたり・・・誰かがつけておいてくれた名前にこんなにホっとしたり・・・そのことでこんな風にやり取りができたり・・・この道で来てよかった。いろいろ作ってしまったこともいけないことじゃなかったんですね。嬉しいです。

Posted by: もこもこママ @ September 23, 2007 11:38 PM

もこもこママ さん、どうもです。
物を作るってことは、そんな回り道があるような気がします。一つの言葉によって今までの作ってきた物の有り様を整え、そして次の物を作りはじめる。それは次の言葉を探す道であるような気がします。

Posted by: 秋山東一 @ September 23, 2007 11:03 PM

秋山さんへ   優しいメッセージ、有難うです。

私は、今までと違う世界の中で、生き直し始めた気がします。人にはわからないと思うけど、ほんとの自信が芽生えています。
とてもぐっすり眠って今朝は 4時ごろぱっと目が覚めて、もうパソコンに向かってました。『マイ・ブリコラージュ』なる目録をワードに打ち込み始めてました。思い出せるだけ並べたモノを、改めてよく見てみると、やっぱり共通項は何も無く、ただ、気づいたら動いてた。もう作り始めてて、設計図とか、型紙とかも、シナリオさえも何も無く。それでもいろいろ巻き込んで、いつしかカタチとなっていた。同じジャンルでないものだから、打ち上げ花火のように消え、ビギナーズラックばっかりで・・・でもひたむきに取り組んで完成するとほっとして、それに後悔は何も無い。評価はいつも二極に別れ、そのどちらにも首を振る。そんな日々とは『さようなら!』私はこれから、にっこり笑いブリコルールで歩いてゆくよ!そんなふうに思っています。

Posted by: もこもこママ @ September 23, 2007 09:12 PM

もこもこママ さん、はじめまして、こんにちは。
『ブリコラージュ』 という言葉と出会い...... おっしゃっておられることがよく分かります。私にとっても、探していた言葉だったのです。
もちろん、私もブリコルールです。

Posted by: 秋山東一 @ September 23, 2007 10:35 AM

私は三日前にふとしたことから 『ブリコラージュ』 という言葉と出会いました。伝えてくれた人は、多くは語らなかったのですが、調べるうちに多くの劣等感に縛られていた、自分が解かれていくような感覚に包まれました。脈絡の無いもの集め。かたずけられない症候群。横着ひらめき物作り。同じジャンルを深められない。都合のいい便利屋さん。器用、天才といわれても何か違う。モダンアート,コーディネーター、ハンドメイドのどれも違う。たまたま賞に入っても(誰かが知らないうちに出品して)、代金と称してお金を渡されても幸せでなく。同じものを頼まれると苦痛で手も頭も全く動かず。・・・私は、ブリコルールの一人だった。(普通のおばさんだけど)思い返せば10代から繰り返してきた、もの作りは、いつも全くのクリエイトでもなくオリジナルというのでもなくしかし教科書も学校も無関係なブリコラージュだったと納得する。・・・救われたのです。この言葉に・・・。これからの私の肩書きはブリコルールです。

Posted by: もこもこママ @ September 23, 2007 09:27 AM

玉井さん、どうもです。
ブリコラージュ再見.....で興奮気味でありました。玉井さんには見透かされていますが、その通りです。
STOCKTAKING も、これからブリコラージュする為のストックにあたるものです。

Posted by: 秋山東一 @ September 22, 2007 10:48 AM

ここ数回の秋山さんのエントリーで、ぼく自身も大好きなありかたについて書かれている本がとりあげられていました。だから秋山さんの標的がなんであるかはとてもよく伝わっていました。それをまとめることばとして、ブリコラージュの登場ですね。
じつのところ、ブリコラージュという言葉の意味を、ぼくはほとんど知らず、コラージュの類語くらいにしか思っていませんでした。とかく、外国語がカタカナになったものは、まったく別のものが似て見えたり、近縁のことばがまったべつべつの記憶の引き出しに納められてしまうことがあるので、一昨夜、電話のあとで仏和辞典を開きました。
そして今朝。高いなあと思いながらいまだに買わず、かといって図書館で借りもしないまま二三十年が過ぎた「野生の思考」の写真をクリックして、さきほど注文しました。少し安かったし、その方がブリコラージュに相応しいと思ったので、古本にしました。到着がたのしみです。
ブリコラージュの頭に、Bがついていてよかったですね。しかも、最後はeだ。

Posted by: 玉井一匡 @ September 22, 2007 07:56 AM

kazuhiko さん、どうもです。
ブリコラージュって「.....作る原理」であるし、血が騒ぐ....というような「野生の叫び」というべきかと思っています。もちろん、kazuhiko さんって根っからのブリコルールであらせられます。
セルフビルド、DIY、そしてブリコラージュと揃ったところで、そんな大きな流れを作りたいと思います。

Posted by: 秋山東一 @ September 22, 2007 07:12 AM

tecgnosis さん、どうもです。
学問としての「ブリコラージュ」の方が先行していたり、言葉だけ先行しているようですが、「アンラーニング」というような形ができてきたなら面白いですね。
「ponko」も面白そうですね。注目していたいと思います。

Posted by: 秋山東一 @ September 22, 2007 07:03 AM

ブリコラージュという言葉は良く聞いていましたが、あまり深く考えずにいました。「なりゆき」とも似た作る原理でしょうか?
気づきましたが、スペシャルに器用ではないですが私もブリコルールの端くれであると!親父は私より遙かに上等なブリコルールだったとも。日本人が一番知らずにやっていることでは…また出来る素養があるのでは?
私の自転車趣味はまさしくブリコラージュだと、確認いたしました。いやいやこれはただお金が無いだけか(笑)

Posted by: kazuhiko @ September 21, 2007 06:08 PM

大学生の頃、器用仕事、あり合わせのものの組み合わせで作ることとして、メディア論の講義でブリコラージュに出会いました。
最近は、ブリコラージュもやっぱりアンラーニングの一種なんじゃないかと考えています。
ある文脈では思いもよらないようなものを、ブリコラージュする(組み合わせる)ことで、それまでの営みという文脈から逸脱するようなものを生み出すことに、アンラーニングの可能性があるように思います。
方法としての未開人、あるいはアマチュアリズムの可能性と。
ご紹介いただいたMake:本家サイトで見て、すごくおもしろいなと思った「ponko」が、昨日のワイアードでも紹介されていました。
WIRED VISION / Gadget Lab / モノづくりのソーシャルサイト『Ponoko』
http://wiredvision.jp/blog/gadgetlab/200709/20070920124439.php
共有できるってことと、コミッション料をとらないっていうのが、すばらしいと思います。

Posted by: tecgnosis @ September 21, 2007 09:44 AM

masa さん、どうもです。

私も、masa さんと同じように思いました。前から知っていた語句だったのに、栗田さんの記述をちょこっと読み返し、「野生の思考」を手にし....ずっと気になっていたことがみな説明できるような気がしてきました。

切っ掛けは、いしかわじゅんさんの沖縄のバラック情報のエントリー「年季が入っています」での伊礼さんのコメントです。
>僕らの親の世代までは、とりあえず、間に合わせで(セルフビルド)何でも器用にやってしまいます。それぞれの、のっぴきならない「間にあわせ」の理由が具体的に見えてきて感心したり、おかしかったり、、、。

これはブリコラージュそのものではないか.....と思った途端、小諸の.......も、広島風も.......、今和次郎の記述も....、BARRACK finder で収集してきた物ってみんな「ブリコラージュ」なんだと思ったのです。

Posted by: 秋山東一 @ September 21, 2007 08:11 AM

非常に重要なことを教わりました。ありがとうございます。この語のおかげで、なんだか、頭のなかに散乱していた思考や記憶の破片がブリコラージュされていくようです…。そういうことだったのか!と膝を打つ感じがします。
ところで、既にご存知かと思いますし、僭越ですが、主要英和辞典10冊ほどを検索しましたところ、bricolageが収録されていましたのは、リーダーズとジーニアスの2冊でした。そして、ジーニアスには、以下の説明がありました:
1あり合せの物で作ること[作った物].
2〔建築〕いろいろな時代・様式の建築物を1か所に集め無秩序な効果を出すこと;その効果》.

Posted by: masa @ September 20, 2007 02:10 PM

栗田さん、どうもです。
「Be-h@usの本」の編集時、登場した「ブリコラージュ」なる言葉に、不勉強で、あまり親しみを感じなかったものでしたが、最近、ちょこっと読み返して急に納得したのでありました。手軽な入門書をご紹介いただき、ありがとうございます。
これをエントリーする前に、翻訳家の村松さんに「ブリコラージュ」がフランスで、今どう使われているかをお聞きしましたが、DIYとはちと違うような感じでありました。

Posted by: 秋山東一 @ September 20, 2007 11:22 AM

レヴィ=ストロースの書いた「野生の思考」は高価で、立ち読みが可能な本ではありませんが、新書でブリコラージュについてわかりやすく解説したお手軽な本が出版されているので紹介しておきます。
この中で、ブリコルール(器用人)とエンジニア(技師)の違いを「記号」と「概念」とで説明している行は、Be 的な.....へと昇華する手助けになるのではないでしょうか。

レヴィ=ストロース入門

著者: 小田亮
ISBN: 4480058656
出版: ちくま新書265
定価: 680円(税別)

第4章 ブリコラージュ vs 近代知
2 ブリコラージュと断片の思考
↑ブリコラージュとは何か
↑記号と概念
↑記号の中の不整合とゼロ記号
↑ポストモダン・モダン・プレモダン
↑抵抗としてのブリコラージュ
↑サバルタンの戦術

Posted by: 栗田 @ September 20, 2007 10:56 AM