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戦後腹ぺこ時代のシャッター音

BOOKS

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戦後腹ぺこ時代のシャッター音
岩波写真文庫再発見

著者: 赤瀬川原平

ISBN: 978-4000236713
出版:岩波書店
定価: 1,680-円(税込)

iGa さんの MADCONNECTION の記事で本書を知ったのだが、書店で見てからと思いながら......やっと手にした。

敗戦から5年経った、1950年に岩波写真文庫が刊行が始り、58年まで286冊が刊行された。
本書の著者、赤瀬川原平氏はその中から24冊を選択し、その時代を辿って行くのだ。1937年生れの彼にとって、大分での中学、高校そして上京した時代であったとのことだ。まだ、戦争で疲弊した時代であった。
私にとっては都下八王子市での小学2年生から高校1年生の時代であった。

最近のエントリー「八王子駅 /1953年」も、まさしく、岩波写真文庫の時代であるのだ。
本書の中で赤瀬川に語られる一つ一つに、その時代における自分自身を重ね合わせて思いだした。

「黒々として神々しい巨大獣」(岩波写真文庫21『汽車』1951)では、船森保育園の時、賄いのオバサンのご子息が八王子機関庫で機関助手をしており、一度、蒸気機関車を見せてあげると言っていたなぁ....と思い、「不潔でも逞しかった蛔虫時代」(岩波写真文庫44『蛔虫』1951)では、あの頃学校で飲まされた薬のことを思いだすのだ。「産業革命を率いた王様」(岩波写真文庫49『石炭』1951)では、あの頃、いつもあった炭坑事故、そして1960年の三池炭鉱争議を思い浮かべてしまうのだ。「交通巡査の立っていた東京」(岩波写真文庫68『東京案内』1952)となると、あの頃の東京の風景をなつかしく思いだす。

でも、一番の思いは「玉音放送を聞いて家路に」(岩波写真文庫101『戦争と日本人』1953)だ。
報道カメラマンであった一人の写真家の戦前・戦中・戦後という時代の一家の日常的な記録の写真だ。その表紙は戦友の遺骨を胸に行進する兵士、その目ががカメラに向いているが....なにか刺すような冷たい目が気になるのだ。この岩波写真文庫の一冊は家にあったから、子供心に何か怖かったのを思い起こすのだ。
最後の写真、米軍基地前で女の子の格好をして花売りをしている男の子の写真は、今もって......悲しい。


本書の刊行と同時に、取り上げられた岩波写真文庫の一部が復刻された。
復刻版  岩波写真文庫  赤瀬川原平セレクション」の全10冊(科学編5冊・社会編5冊)である。12月には東京をテーマに「川本三郎セレクション」全5冊が刊行される予定だそうだ。楽しみである。

Posted by 秋山東一 @ November 1, 2007 06:13 AM
Comments

笠木さん、どうもです。
岩波写真文庫の時代、その風景にも人々の有り様にも、終ったばかりの戦争の影を引きずっているようです。
あの米軍兵士の八王子駅の写真を見ていて、家のアルバムにも駅の写真が...と思って見たら、父の帰国時の八王子駅頭の写真でした。
あの日、私と妹は叔父(母の弟)に連れられて横浜に出向き、舞鶴から来た父母、叔父(母の妹の夫)が乗った特別列車(上京する帰還者を乗せた団体列車、引揚げ列車...と言ったと思う)に乗車し、車内で記憶にない父に会いました。
八王子駅での行事が終って、市の公用車に乗せられて、ご近所の方々、そして祖母が待ち受けている大和田の自宅へ帰りました。

Posted by: 秋山東一 @ November 2, 2007 10:45 AM

iGa さん、どうもです。
年の差はいかんともしがたい。すでに少年となった目に写真文庫の写真は、それをそうさせている世界と切り離しては見えません。

Posted by: 秋山東一 @ November 2, 2007 10:18 AM

1950年から58年までというと・・・私は-2歳(?)から6歳です。岩波写真文庫のなかに覚えている景は無いかも知れません。でも遺骨を胸に歩いている兵士の写真は何だか覚えがあるような。どこかで目にしたことがあるのでしょうね、きっと。
そして、先日の1953年八王子駅のお父様帰国の写真・・・明るい写真なのに胸がいっぱいになります。お父様にも、八王子で家族を守られたお母様にも。私の父は1948年8月15日にナホトカを出帆して18日に舞鶴に上陸しました。シベリヤに抑留されていました。伐採労働ではなく農業労働だったこと、志願兵だったので若かったこと、体力があったのかも知れません。帰ってきてくれました。

Posted by: 笠木裕美子 @ November 1, 2007 05:26 PM

私にとっては1歳で二足歩行を始めた足立区での幼年時代と都下八王子市での小学2年生から小学3年生までの時代でした。ですから、意識が覚醒して初めて接した原風景や人々や物が記録されている書籍です。

Posted by: iGa @ November 1, 2007 02:14 PM