文体練習 | [ BOOKS ] |
邦訳本といっても、本書の場合、仏語が日本語となってある……という意味ではなく、そこに日本語の本としてあるのだ。
コミック版を先に見ちゃったから、後先……ということになるが、本書が先なのだ。
「S系統のバスのなか、混雑する時間。ソフト帽をかぶった二十六歳くらいの男、帽子にはリボンの代りに編んだ紐を巻いている。首は引き伸ばされたようにひょろ長い。客が乗り降りする。その男は隣に立っている乗客に腹を立てる。誰かが横を通るたびに乱暴に押してくる。と言って咎める。辛辣な声を出そうとしているが、めそめそした口調。席があいたのを見て、あわてて座りに行く。
二時間後、サン=ラザール駅前のローマ広場で、その男をまた見かける。連れの男が彼に、「きみのコートには、もうひとつボタンを付けたほうがいいな」と言っている。ボタンを付けるべき場所(襟のあいた部分)を教え、その理由を説明する。」
という内容を99通りの文体、表現の違った文章にしてみる……それが本書なのだ。
本書66は「短歌」である。
あしふみの 長きバス首 さわげども のちのボタンは さん=らざりけり
付録2は俳諧
バスに首 さわぎてのちの ぼたんかな
このような言葉遊びを、仏語としてでなく、我々の母語である日本語として楽しめるのを幸いとしたい。
最近、PRESIDENT Online で、内田樹の「子供たちよ、英語のまえに国語を勉強せよ。」を読んだ後では、ひとしお日本語を意識するのである。
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