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住まいの解剖図鑑

Architecture , BOOKS

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住まいの解剖図鑑 ―心地よい住宅を設計する仕組み
 THE ANATOMICAL CHART OF HOMES

著者: 増田 奏


ISBN: 978-4767809182
出版: エクスナレッジ

定価: 1,890-円(税込)

最近、神田の啓文堂の店頭に平積みされていたのを手にした。内容も著者による図版もすばらしい。

秋山設計道場の生徒諸氏にとって必携の教科書として推奨しようと考えているのだ。あの rhenin 氏も「……よい本でした」と Tweet しておられた。

その昔、芸大建築科に入った頃、吉村順三が「君たちはこんな本は見ているのかい」と言っていた本が、主婦の友社の「住宅全書」だった。本書は住宅全書が持っていたトータルな住宅設計便覧という性格、それの現代版にして図解本として作られているのだ。

住宅全書を思い出したのは、お会いしたことはないが、本書の著者・増田秦(すすむ)氏は吉村順三の事務所スタッフだった……という経歴を読んで、思い出したのだ。
もしかすると、増田氏は、昔、参考にしていた「住宅全書」を新しく作り直そうとしたのかもしれない……と思っているのだ。


目次
はじめに

1 気持ちよさにはワケがある

 [ 家づくりとは? ] 住宅の設計は、お弁当づくりに似ています。
 [ ポーチ ] ソトとウチのあいだで、誰でも気持ちのギアを入れ換えている。
 [ 玄関 ] 入口で靴を脱ぐのは、なぜ?
 [ 階段 ] その部屋が狭いのは、階段の演出をミスしたせいかもしれません。
 [ ドア ] 人は滑らかに移動したい。ドアはそれに従います。
 [ リビング ] 翻訳するなら「座る部屋」。
 [ 和室 ] 畳が敷いてあれば、和室でしょうか?
 [ ダイニング ] ダイニングテーブルは、見かけよりずっと大きい。
 [ キッチン ] 設計のプロでも、機器の配列はアヤシイ。
 [ キッチン+ダイニング(平面) ] 冷蔵庫は八方美人。誰かれかまわず呼び寄せる。
 [ キッチン+ダイニング(断面) ] 「アイランド役」を、演じきるのは難しい。
 [ ベッドルーム ] ベッドの置き方を間違えると、真夜中にダイビングするはめになる。
 [ 収納 ] モノは生きている。とても出たがり・夜行性。
 [ トイレ ] 手洗いは、お手洗いの中で。
 [ 浴室 ] 日本のお湯は、みんなのものです。
 [ 洗面室と水廻り ] 洗濯機の居場所が決まらないと、洗面室の中身も決まらない。
 [ 給水・給湯・排水 ] 握手するのなら、行き先くらい聞いてやれ。

2 箱のかたちにはイミがある

 [ 屋根・軒 ] 雨の日に傘を差すように。レインコートを着るように。
 [ 軒下 ] 日傘のありがたさを知っているのは、ご婦人だけではありません。
 [ 庇 ] 窓の上には、どんな帽子をかぶらせますか。
 [ 壁と開口 ] 壁に穴をあけるのか、穴を壁でふさぐのか。
 [ 開口部 ] あなたの前には、七つの窓があいています。
 [ 断熱・通気 ] 行くべきか、とどまるべきか、空気はいつも迷っている。
 [ 風通し ] 野暮だねぇ、エアコンで風鈴を鳴らすのかい。
 [ 音 ] 吸ったり、遮ったり、響かせたり。
 [ 敷地と道路 ] 敷地は道路にぶら下がっている。
 [ 敷地の方位 ] 敷地の向きを決めていたのは、道路でした。
 [ 建物の配置 ] 「ルビンの壺」の気になる二人。
 [ 駐車スペース ] クルマは見かけよりずっと大きい。

3 人にも寸法にもクセがある

 [ 動線 ] いちいち降りなくても、両手を使えば枝づたいに渡れます。
 [ 共有と専有(プライバシー) ] あなた、家族、たくさんのあなた。
 [ 共有と専有(装置) ] 私のモノは私のモノ、みんなのモノも私のモノ。
 [ 尺と坪 ] 「三センチの虫にも十五ミリの魂」とは言いません。
 [ グリッドとモジュール ] パズルのルールは、簡単がいい。
 [ 基準線と壁厚 ] 厚みがない本は立たない。壁厚がない家も建たない。
 [ 断面 ] バンズのないハンバーガーなんて、うまくない。

column
 1 畳の五カ条
 2 家族のタイムテーブル
 3 平凡な案から
 4 方針・決心・変心
 5 「ふつうじゃダメなのかい?」
 6 平面のトポロジー
 7 無目的という目的

あとがき


全体の流れとは関係なく七つの独立したコラムによって、著者の住宅についての総体的な考え、今までの設計についての経験を語っている。
二つのコラム、『平凡な案から』『「ふつうじゃダメなのかい?」』は彼が出会った二人の建築家が語った言葉の話だ。学生時代に会った増沢恂、長年にわたってスタッフを務めた吉村順三のお二方だ。二人の巨匠というべき建築家が語った言葉は、簡単明瞭ではあるが、設計者にとって、その意味は深くて重い。

最後になる7番目のコラム、「無目的という目的もある」は住宅についての至言……というべきものだろう。本書の膨大な知見に、あれも、これも……となった頭の中に、ふっと安心感が走るのだ。


Posted by 秋山東一 @ July 20, 2010 12:12 AM
Comments

iGa さん、どうもです。
いい本ですよね……。吉村のところに長くおられた方のようで、内容が大人のように思います。

Posted by: 秋山東一 @ July 23, 2010 11:13 AM

Amazonから届きました。
これだけ住宅の仕組みについて解剖されていると資料集成のあちこちから寄せ集めて資料を作る必要もないし、丁度良いサイズで一冊にまとまっていて、学生の参考書にも最適ですね。

Posted by: iGa @ July 23, 2010 10:07 AM

宝川さん、どうもです。
いつもは建築専門書売場を覗いたりしないものだから……遅くなりましたが、神田の啓文堂の一般書売場の平積みで手にしたものでした。最初は絵が参考に……くらいのつもりだったのですが、これがなかなかの本であることに気がつきました。ぜひぜひ、読んでくださいまし。
ところで、私も 4 になりましたです。まずは。

Posted by: 秋山東一 @ July 20, 2010 10:33 AM

事務所のデスクにさりげなくこの本が置いてありました。
おそらくオヤジが仕入れてきたと推測されますが、
熟読してみますです!

Posted by: 宝川悠一 @ July 20, 2010 10:10 AM