060611

家の?

Architecture , BOOKS

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家の?
くうねるところにすむところ 14

著者: 青木 淳

ISBN: 475730370X
出版: インデックス・コミュニケーションズ
定価: 1,600-円(+税)

叢書「くうねるところにすむところ」の最近の一冊、 建築家・青木淳氏の「家の?」だ。「U(ユー)」という名の家に住んでいる白アルマジロ人間と黒アルマジロ人間が...............、ファンタジックな絵本なのだ。

この本が、今、ちょっと困った事になっているのだ。

自作キャラ「アルマジロ人間」元勤務先が「無断使用」

芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した建築家、青木淳さんの事務所で働いていた建築士、小野弘人さん(40)が8日、青木さんが書いた絵本の中で自作のキャラクターを無断使用され、著作権を侵害されたとして、絵本の出版元に販売差し止めなどを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。
...........................................
ZAKZAK 2006/06/09
http://www.zakzak.co.jp/gei/2006_06/g2006060906.html

この問題って、設計事務所という組織、そこでの設計という仕事、それは何なのかという、誰しも避けて通れない問題と思える。

小野弘人氏は、青木淳氏が代表を務める事務所に勤務していた1996年12月から97年1月にかけて、自作のキャラクター「アルマジロ人間」を図面に描き入れたり、模型に組み込んだりし、その作品は建築雑誌に掲載されたりしていた。
小野氏が独立後の今年3月、青木淳氏著の絵本「家の?」の表紙や本文中にアルマジロ人間の絵や模型の入った写真が使用されていることに気付いたという。小野さんは「アルマジロ人間は子供のころから描いていた絵で愛着がある。絵だけでなく名前も勝手に使われショックを受けた」と話しているが、青木氏の代理人弁護士は「小野さんが作ったキャラクターだが、事務所に在籍時のもので、著作権は事務所にある」と反論している。

訴えられている青木氏側は、はっきりと制作された「アルマジロ人間」は小野弘人氏の制作であることを認めているが、それが青木氏が代表を務める設計事務所に勤務している時期の制作物であることを盾に、その著作権は事務所に帰属していると主張しているのだ。
設計という仕事は組織的な仕事であり、その中での成員がいろんな役割を果たしている社会的といってもいい仕事であると思っている。そこでの仕事の全てが、そこを代表する一人の建築家の仕事に帰属すると宣言するわけにはいかないと思うのだが、今回の訴えがどんな結果をもたらすのか、注視していきたい。


追記

この問題、大きく波紋を拡げているようだ。とりあえずリンクしておこう。

この問題の当事者である小野弘人氏のブログ
ほんとうのアルマジロ人間
建築史家・中谷礼仁氏の見解
制作の過程(歴史)への参画について・小野弘人さんによる青木淳著『家の?』仮差し止め処分請求にかかわる所感

Posted by 秋山東一 @ June 11, 2006 08:07 PM | TrackBack (2)
Comments

そういえば、あの訴訟騒ぎのその後はどうなったのかと、調べるでもなく"Nakatani's Blography"にアクセスしてみると2006年 12月 27日 (水)付けで『「アルマジロ人間」の仮処分申立却下決定に対する抗告の棄却とそれについての基本的資料ならびに当方のコメント』とのエントリーがありました。
http://www.acetate-ed.net/blog/nakatani.php?itemid=861

何か、皆さんとてもナイーブで疲れます。

Posted by: iGa @ January 22, 2007 02:03 AM

 小野さんと中谷さんのブログの記述を読む限りでは、小野さんの主張に理があるとしか、ぼくには思えません。
 アルマジロ人間は子供の頃から小野さんの使っていたキャラクターであり、たとえそれが公に使われたのが青木事務所のスタッフだった時期だったとしても、その使われたときの経緯も読めば、これはひとりの人間としての小野さんに根ざしたキャラクターであり、小野氏の名前をこの本に掲載することさえ拒否するほどの排他的な著作権を青木氏が主張するのは無理というものでしょう。
 もし、ということは当事者には言えないことでしょうが、小野、青木両氏ともに面識のないぼくは想像しないではいられないことがあります。もしも小野さんがアルマジロ人間を使って本を書いたとしたら、青木さんは著作権侵害を主張したのだろうかと。

Posted by: 玉井一匡 @ June 14, 2006 09:34 AM

中谷様
私の下世話な戯言に気分を害されたとしたら、失礼をしました。

どうなんでしょう、人間関係の介入しない事実関係のみで著作権侵害で販売差し止めの仮処分を求めるならば極く普通の訴訟問題でしょうが、どうも最初は師である相手方の対応如何では訴えるまで考えていなかったと読めますので、情に棹さして流されずに、泥沼に棹を取られたのでしょうか、やはりそこに生じた感情の軋轢が訴訟の動機付けのように見えてしまいます。そうなると、師弟関係として過ごした歳月をどう取り戻して良いのやら、、何か水に流せなくなるような気もします。結局、情実で解決できることと出来ないことがある、と云う事でしょうか。

以下は一般論ですが、アトリエ的な事務所のボスである「自己」とスタッフとしての「他者」を、互いに自立した人格として認めているのか、いないのか、良く解らないから起こりえる問題のような気がします。雇用契約関係を含めて「けじめ」がないのではと思います。中小零細事務所では難しい問題でしょうが、人間関係に凭れ掛かり、権利関係や秘守義務等も含めて雇用契約をきちんとしないと再発する問題のように思えます。

Posted by: iGa @ June 13, 2006 02:28 AM

秋山様をはじめとして皆様。初めて書き込ませていただきます。

IGA様 私は貴兄のことを全く存じ上げておりません。それなのに以下のようなお願いをすることがややはしたないことなのかとも思いながら、なおこれを書いています。

もしよろしければIGA様のいう「愛憎劇」「けじめ」がどのような内容を語ろうとしているのか、
そしてその結果貴兄の文章が何を言わんとされているか。
より明瞭にご呈示いただけないでしょうか。

今回の提起が、建築設計業界で、今後どのくらいの深度を持った論として展開されるか、あるいは、たとえば「愛憎劇」という表現において「けじめ」られるのか、
その業界に片足突っ込んでいる当方としてもきっちり見届けていきたいと思っています。ご意見をいただければ幸いです。

Posted by: 中谷礼仁 @ June 12, 2006 08:06 PM

端から観ていると何か愛憎劇の様相を示しているようにも感じられますね。

一昨年、青木淳氏が審査委員長を務める東京建築士会の住宅建築賞の金賞を小野弘人氏が受賞しているから、それまでは師弟関係もさぞかし円満だったのかしらね。

まぁ、何れにせよ「けじめ」の問題ですかね。

Posted by: iGa @ June 12, 2006 07:35 PM

その後の中谷さんのブログで既にご覧になられてるかもしれませんが、
小野さんがこの件でのブログを開設されたようですね。
http://armadillon.exblog.jp/

この問題、しかし根っこのところでは以前に秋山さんの「ピアニシモな建築たち」のエントリーでコメントし合ってた一言明記の話がちゃんとなされていれば、それで済んだような気もするのですが、小野さんのブログでは意見書等がそのまま公開されてるようなので、それを読んだ上で自分もブログ上で何か書くかも知れません。

Posted by: m-louis @ June 12, 2006 05:36 PM

m-louis さん、どうもです。
次元の違う.......は言い過ぎでしたね。他人の著作物を自分のものとして、あるいは、そう誤解されてもいいようにしてしまうという意味では、同じ問題とも言えますね。
しかし、事務所という組織的な仕事、共同作業といってもいいような場での成果物となると.....やや違う問題ではあります。たしかにどこでもありそうな問題ですね。

Posted by: 秋山東一 @ June 12, 2006 12:31 AM

ナルミヤと和田問題もまた次元が違うわけですが、しかし、さらっと耳に通すニュースとして一般人が聞けば、同根であるように思われがちなところが問題なのではないか?と思います。
事実、私も秋山さんのエントリー読んで、ついそれを連想しちゃってたわけで(汗)

その後、中谷さんのエントリーを読みまして、どうもこの一件は『家の?』を読んでみないことにはその是非は問えないなという気がしています。ただ、秋山さんも書かれているようにふだんからも非常にありがちな話であることは想像でき、それは建築業界に限らず問えそうに思います。

Posted by: m-louis @ June 11, 2006 11:31 PM

m-louis さん、どうもです。

村上隆とナルミヤ間における著作権の問題(私には両方共ミッキーマウスにしか見えませんが)、和田画伯の明らかな盗作とは、全然次元の異なる問題と思っています。
設計事務所、それもアトリエ的というか建築家の所長によって成り立っている組織、そこでの成果をどうとらえるのか、所長とスタッフの関係等々、この狭い業界にありがちな問題なのです。

中谷礼仁氏の Nakatani's Blography に彼の見解が書かれています。
http://www.acetate-ed.net/blog/nakatani.php

Posted by: 秋山東一 @ June 11, 2006 11:12 PM

あれま〜、小野さん、実は前からの知り合いでして、うちの設計でも頓挫したときに相談に乗ってもらったりしてました。
こんなところで出てくるとは!(汗)
そういえばちょっと前に現代美術の村上隆氏が子供メーカーのナルミヤを訴えて和解に持ち込むという話がありましたが、最近和田画伯ならずともこういう事件て多いですね。

Posted by: m-louis @ June 11, 2006 10:06 PM