050717

戦艦大和ノ最期 /吉田 満

BOOKS

先日、大和ミュージアムについてエントリーしたが、今年は「大和ブーム」と言わんばかりの、相次ぐ映画や出版、その60周年というその節目というべきなんだろうか。
そんな喧騒をよそに、吉田満の「戦艦大和ノ最期」は、その大いなる惨禍に身をさらした者が記録した唯一の文学作品として、今もって大いなる光芒をはなつ。

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戦艦大和ノ最期  講談社文芸文庫

著者: 吉田 満


ISBN: 4061962876
出版: 講談社
定価: 987-円(税込)

1945年3月29日、呉軍港を出港、その後、戦艦大和は「天一号」作戦のため沖縄方面に向かう。その途次、4月7日午後、米軍機の攻撃によって沈没した。その大和乗組員3,332人の一人として、学徒出身21才の海軍少尉吉田満は艦橋にて、その作戦行動、その戦闘行動、沈没に至る経過をつぶさに見る。

生還を果たした戦後、吉田満は一日にして本書を書き上げたという。格調高い片仮名混じりの文語体、それはその文体以外ではなしえなかったものなのである。

   碇 泊
昭和十九年末ヨリワレ少尉、副電測士トシテ「大和」ニ勤務ス
二十年三月、「大和」ハ呉軍港二十六番浮標(ブイ)ニ繋留中 港湾ノ最モ外延ニ位置スル大浮標ナリ
......................
二十九日早朝、突如艦内スピーカー「〇八一五(午前八時十五分)ヨリ出港準備作業ヲ行ウ 出港ハ一五〇〇(午後三時)
カカル不時ノ出港、前例ナシ
サレバ出撃カ
............................
「戦艦大和ノ最期」吉田 満

本書の出版は多くの問題に突き当たる。最初は占領軍の検閲による「軍国主義的」であるということによる、不本意な口語体での出版された。そして、戦争肯定文学との批判が大きくたちはだかった。1947年、正式に初版が出版された後も、右からの称揚、左からの批判という、太平洋戦争の見方の違いによる評価の分裂という時代が続いた。

本書を読んだのはいつのことだろうか。
手元にあるのは講談社の「鎮魂戦艦大和」で、その出版年は1974年である。本編以外に「臼淵大尉の場合」「祖国と敵国の間」という2編、同じ大和乗組みの2人の同僚への鎮魂の書である。

本書(講談社文芸文庫版)の解説は鶴見俊輔、作家案内「寡言の人」は古山高麗と2人の同時代人が語る。

今年、60周年、いろいろきな臭い動き、靖国問題、国内問題を国外問題へと転化するかに思えるような動き、そんな動きに抗すためにも、60年前の事実を把握すべく、きちんと読まれるべきものと、考える。

Posted by 秋山東一 @ July 17, 2005 08:38 AM
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