030710

 4. 表現としての模造

TAU·SHOKEN·KENCHI

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意識的な模造行為の結果その模型は、原形の価値と異なった、芸術、あるいは装飾へと昇華されたもの。模造の結果よりも模造行為そのものに意味のあるものもある。
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にせ札
にせ札の模造行為の度合いはもっとも高度なものである。原形と模型との差は原形の量産品としての制作誤差の範囲にとどまることが必要なのだ。高度に模造されたにせ札、それを模造品と呼ぶことは出来ない。にせ札制作を模造行為ということはできても、そのにせ札が原形の制作誤差の範囲である限り、それは本物のお札なのだ。それは制作者の異なった本物のお札なのだ。
お札は国家だけが製作してよく、決して個人が個人のために個人のお札を作ることを禁じているから、それは本物であってもにせ札と呼ばれている。完全なにせ札は存在する。それはあまりに完全なので本物なのだ。


4-2.gif喫茶店
名曲喫茶とはたいていヨーロッパ古城風な外観をしている。レンガの外壁とステンドグラスをもった塔。けして本物のヨーロッパどこそこの城館に似ているわけではない。原形のない、城館らしきもののイメージの模型なのだ。それは万人向けに、クラッシック音楽を城館まがいの場所で聞くという様式を確立した。

4-3.gifポンポン丸
玩具の模造行為は、そのものの素材に大きく限定されている。ブリキ製の玩具では、鉄板の上の印刷とプレスと、限られた組立によってでき上がっている。
ブリキ板の上の印刷は、そのものの表現の大部分をしめている。大部分のディテールの表現は平らな板の上に平面的に絵画的に表現される。自動車の4面の窓の一つ一つに乗っている人間の顔が出てくるのだ。この<ポンポン丸>では、世界ではじめて動きの表現が加えられた。船体のブリキ板の上に波しぶきが印刷されたのだ。それは未来派絵画で示された動きの表現を受けついだものである。


4-4.gif

風呂屋の絵
風呂屋の壁の絵、浴場背景画は風景の模造である。それがその富士山と海の絵を見てそこに海があると思う人はもちろん、海があるような気分になる人もいないだろう。実際に、富士山と海が見るようにしたいという願望の表現である以上に、それは非現実的で実物以上に美しくなければならないのだ。シネマスコープのような長大な壁に、富士山と三保の松原と、松島の風景が展開する。そして、それは適度に雲がある快晴であり空気は澄み、幸福そのものなのだ。
その原形以上に美しい風景は万人向けに理想化された風景の模型である。


4-5.gif拡大軟体彫刻
オルデンバーグのビニールやキャンバスでブヨブヨに拡大されたハンバーガーやスイッチは日常品の<ぬいぐるみ>なのだ。日常品という原形の模造品ではあるが、拡大し、軟体化することによって原形の日常性をはぎとる。



4-6.gifルドウのショウ王立製塩所
クロード・ニコラ・ルドウによるショウの王立製塩所は、彼の数多くの幻想的な計画案のうち、実現したごく稀な例である。
この工場の壁に執拗に繰り返されて使用されているモチーフが、この排水口のような彫刻である。鍾乳石あるいはつららのような液化した物質が流れ落ちる瞬間に凝固してしまった表情は、おそらく製塩課程でうまれてくるにがりのようなものから触発されたのに違いあるまい。海水を煮詰めることによって液体が粘性を増し、凝固する瞬間をとりだすことで<水>を石彫のなかに封じ込めたと言ってもいい。
それにしても、棟を接して並んでいる建物の壁という壁にこの排水口のような彫刻は連続的に一定の間隔でしかも同一レベルにとりつけられているのだが、この壁面をじっと眺めていると内側でつくられているにがりが、突然湧き出し、壁にうがれた円型の開口部から溢れ出てくるような錯覚に誘われるのだ。こんな不気味さの漂う処理を開口部のモチーフにすることによって、ルドウは工場の内部に起こる物体の変貌のドラマを表現した。


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「商店建築」1972年11月臨時増刊号所収

Posted by @ July 10, 2003 11:02 AM
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