030710

 3. 技術拡大としての模造

TAU·SHOKEN·KENCHI

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自然、あるいは生体のシステムや形態を原型とし、その一部を拡大したもの、またはそれらのシステムや形態に拡大や縮小といった操作を加えて、他のものにうつしかえることを技術的拡大としての模造と呼ぶ。
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3.gifスーパーマン
古典的なロボットは、人間の姿ににていたものだったが、現実のロボットはマジックハンドのような工業用ロボットであったり、月面の自動観測機であったりして、人造人間なんてものじゃあなくなってしまったのだが、鉄人28号には、頭、手足、目、口があったし、鉄腕アトムには、リペットや溶接の継ぎ目もみえはしない。現代の変身スーパーマン達は普通の人間が、変身という変換操作を経ると超能力を身につけるのである。かつてのスーパーマンが常時拡大された模造であったのに対して、現在の変身スーパーマンでは原形から模型への変換それ自体が物語りのテーマとなっているのである。

人工気候
人工気候を模造品として捉えるとすれば、原形はある季節、ある地域の気候とでもいうことになる。原形-模型の関係がやや不明快なのは、この場合、模造というよりはむしろ操作に近いからである。操作とは原形が連続的に無数にあるというクリティカルな場合であると考えられる。
人工降雨となれば、原形として雨があり、これは雨が降るか降らないかというデジタルな選択でもあるから、原形-模型の関係はより明確なものである。

コンピューター
電子頭脳とも呼ばれたコンピューターはもちろん、頭脳の模造である。労働力の代用品としての模造であるのだが、人間の能力をこえたものであるという点ですでに代用品ではなくなっている。
コンピューターもかつては統一した人格を持っていたロボットの分業化され、解体されたそのなれの果ての姿なのである。今に見るがいい、人間達もバラバラにされちまってプログラマーの思うままに右と言われりゃ右むいて、コンピューターの模造品となりはてるだろう。

3-2.gifはばたき飛行機
ダヴィンチの飛行機の設計図はこうもりの翼を模造したものであった。隙間の多い鳥の羽よりも、こうもりの膜と骨の翼の方がすぐれていると考えたからである。動力源として、人間の両腕を用いようと考えていた初期の飛行機は全体を鳥やこうもりの模造で作っていたのだが、プロペラの導入で原形からははなれていってしまった。だが、左の図を見ればわかる通り、鳥とこんなにも似た骨格をもつ人間は、バイオニクスの成果をもって、再び自ら空を飛ぶことを試みるべきである。はばたき飛行機を歩行者天国のおもちゃだけにとどめてはならない。ほらほら、これがぼくの羽だ。この羽が昨日までゲームセンターの飛行機の操縦棹を握っていたと思えば、ああ、なんてばかなことだったのだろう。

3-3.gif潜水艦
飛行機の場合、はじめはこうもりや鳥を原形としてほとんど丸のまんま模造することから出発して、駆動方法、構造が徐々に原形から離れていったのだったが、潜水艦ではそれが逆の道を辿った。空を飛ぶこととはちがって水の中であれば人間は自分で泳ぎ、潜ることができたので、他の主体の模造を行う必要はさしてなかったのである。出発は、たとえば丸木船のようなものであってそこから進化の途中で分岐し、水中へ潜ってゆき、あれはマグロかイルカだろうかという形になっていた。今ではさらに、イルカの皮膚は表面に乱流を生じさせないような構造になっているのだが、その模造を行うべきである、との説がある。


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錬金術
錬金術は錫や鉛を原料にして金を作ろうとした。「金のようなもの」を作ろうとしたなのではなく「金そのもの」を作ろうとしたという点で、錬金術者の意図のうえでは模造であるよりも技術であった。
金に要求されるものは「金であること」であって金ときわめて近い模造品が作られたとしても、それは金とは格段に価値の異なるものとなってしまう。金のこの性質が金自体を作ろうとする錬金術師を生んだのである。錬金術師が模造したものは、金であるよりはむしろ金をつくる技術というものであった。


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「商店建築」1972年11月臨時増刊号所収

Posted by @ July 10, 2003 11:03 AM
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