aki's STOCKTAKING

２. 代用品としての模造

［ TAU·SHOKEN·KENCHI ］

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原形-模型という関係がもっともプリミティブなものが、「代用品としての模造」である。模造品の価値を決定するものは、いかに原形に近いかということであり、それは原形とは異なった、且つ入手し易く、あるいは扱いやすい素材や機構を用いなければならない。従って模型はけして原形を超えることはあり得ないのである。
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擬卵
にわとりににせものの卵を与えて抱かせることがある。にわとりは本物の卵をとりあげられながら、与えられた贋物の卵を抱えて安心しているのである。この模型は模造行為を行う者と、直接それを代用する者が別々であって、だます行為が目的で使われるのである。形態のみにおける模造品に騙されるにわとり個人にとっては重要なのは卵を抱えていることなのである。

マツタケのお吸いもの
「松茸のお吸いもの」は匂いだけを模造している。松茸にあたるものは入ってさえいないものもあるし、あるいは松茸の形をした麩が入っていたりする。この松茸はシンボル化された形態で、麩でできているのだから、これを本物と間違えることなどけしてありえない。松茸にもっとも要求されるものは香りであるのだからシンボル化された形態と模造された松茸の香りは一種、漫画的なおかしさを漂わせている。

入れ歯
入れ歯は人体の部分を代用品で補充する方法としては、義足や義手よりもあとからできたものであるが、現在ではもっとも密接にわれわれの生活と関わり合っている。歯の場合、動くメカニズムは不要であるということ、歯が抜けるという事態が人間にとって必定のことである、ということがその理由である。入れ歯は見た目には本物よりも色の点でもきれいなのでそれを外した本人のあわれさをなおさら引き立て、そのくせはずされた入れ歯の方は不敵な笑いを浮かべて独立した人格を誇っている。オレの口の代用品はまたどこかに行っちまいやがった。

プラネタリウム
プラネタリウム自体は何の模型でもなく、模造行為を行う機械である。プラネタリウムが模造を行う原形は、星自体よりは星空である。星空とは物自体ではなく、宇宙を人間の感覚を通して変換を行い面的にした模型の一種なのでプラネタリウムが球形のスクリーンの上に星を写し出せば、それは原型としての星空にきわめて近似したものとなる。その点でプラネタリウムのつくりだす星空は、本物の見えなくなってきた現在ではなおさらのこと、もっともすぐれた模型であると言っても良いだろう。

性具
性具には、補助として用いる物と、代用品として用いる物とがある。代用品には男と女があり、男の模型は形態が似ている必要はあまりないが、女の模型は似ていた方がよい。前者は内部に埋没してしまうからであり、後者は、それ自体が内部であるので、それだけに外部は似ている必要がある。名称の点においても一方は「張形」という抽象的なものであるのに対して、他の一方にはD.WIFEといったより具体的な名がつけられ原型の名残を残している。

擬餌針
擬餌針は形態はたいして似ていない。目や口は描いてあるんだがもっと似せようとすればいくらでもできるだろうに、と思える程度である。模造は形態よりも動きの方になされている。それというのも魚は視覚よりも振動などに対する感覚の方が敏感であるからなのだ。

人工母親
小ザルの愛情とは何かと言うことを知るための実験がある。2種類の人形の母親を作っておく。ひとつはタオルなどで覆われた感触の模型としての母親であり、ひとつは針金で作られた形の模型としての母親である。その親子をオリの中に入れて、大きな恐ろしい音を発てる玩具を入れてやると小猿は親のところへ逃げていって接触することで恐怖心が拭い去られるのである。
その時小猿はかならずタオル製の母親の許へ逃げてゆく。彼にとって重要なのは、母親の形ではなく、感触なのである。

「商店建築」1972年11月臨時増刊号所収

Posted by @ July 10, 2003 11:04 AM