030603

軍用・懐中電灯

Light

LANDship/STOCKTAKING/030128


torch_1.jpg見慣れない形をしているが、懐中電灯である。

1970年初めてヨーロッパに出かけた時、スイス、ベルンの街中の銃器店のショウウインドウにこれを見つけた。30年以上経って古ぼけているが、買い求めた時は新品の軍用懐中電灯だった。

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薄い石鹸箱という趣のカーキ色の金属製の箱、その上部にプラスチック製のレンズがついている。変わっているのは同じ色の金属製の遮光用のカバーが着いていることだろう。下部が解放されているこのカバーは上部のヒンジによって開閉させることができ、「灯火管制」という役目を果たす。その形は、中世の甲冑を見るようだ。
石鹸箱風の箱は横に丁番があり開く、内部の半分以上が電池のスペースだ。この形はその使用する電池の規格からきているようだ。4.5V 3R12 という平たい板状の乾電池(昔はアウトドア洋品店なぞで市販していたが最近みたことはない)が入る。 その電池を収めた上部に予備球1個とスイッチ部分がある。箱の上部にはスイッチ、常時点灯と信号用点滅が可能だ。
裏側にはビニール製合成皮革でベルトを通す部分とその上下に舌状の部分がでている。これが使い方としてユニークなところである。舌状の部分の真ん中にはボタンホールが穿たれ、それは文字通りボタンホールなのである。軍服の前ボタン、肩章ボタン、胸ポケット、それらに固定されるのである。

uniforms 3.jpgMacmillan Color Series [Army Uniforms of World War 2] は第2時世界大戦各国軍装図鑑という趣の書籍だが、その200余の図版の内の4種がこの型の懐中電灯を装着しているのが発見できた。


その後、旅行に行く毎に、アウトドアショップ、銃器店、電器店、駅のキオスク等で見つけたら買い求めていたら9個にもなってしまった。全て同じ機能を持った「軍用懐中電灯」だが、それぞれ異なったデザインで、それらを見るだけで面白い。

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ELVES

スイス軍用の新型、2種類あるが片方は遮光カバーのみだが、もう一方は赤緑の透明プラスチック板による色信号切替装置付きのデラックスタイプである。切替えスイッチは色板と一体になったプラスチックの出っ張りを上下して行う。このデラックスの点滅スイッチは筐体上部のシーソー式で巧みに常時点灯と信号用点滅を切り替えている。一方は筐体横のトグルスイッチ型で点滅については別段考慮されていない。
遮光カバーは大型で携帯の便のためか全面を平に整形している。両方とも裏側のビニール製固定ベロについては最初のものと同じである。
両方ともメーカー名を示すと思われる ELVES のロゴとスイス軍用を表す弩弓のマークがプレスされている。

スイス軍用を表していると思われる「弩弓(石弓)」のマークはスイスアーミーナイフでおなじみのものである。刃の根元部分に刻印されている。私ともあろうものが、すいぶんと長い間、あれは「雨傘」のマークであると思っていた。迂闊である。
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Premi

どこで手に入れたのかさだかでなくなったが、オーストリアであったというかすかな記憶がある。
鉄仮面のような形相のものと、それから鉄仮面をとりのぞいて色を軍用色からシックな黒へと変えたやつという感じである。両方とも Premi なる優雅な書体のロゴあり、同じメーカーの軍用と民生用との違いと思う。鉄仮面の上部に HEERESEIGENTUM のプレスした文言あり、これは軍用という意味であるとのことであった。
赤緑の信号色切替え装置は全面の赤と緑のレバーを上下して切り替える。これは両方とも同じである。
一番目に引く遮光カバー鉄仮面は角形で円筒形を斜めにカットした形、前面にある横長の窓には青色透明プラスチックがはめ込まれている。内部は電球と反射鏡が後部の筐体についており前部とは切り離してある。その為、焦点調整が可能なよう反射鏡の上下機能がつきなかなか高級である。
軍用と民生用の違いは固定ベロにも表れている。軍用は他と同じ上下にベロ(これらは本革製)がついているが、民生用は上部のみで、下はブラブラ(駅員使っているのを見た記憶がある)でもよいという判断か。

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ドイツ現用/単一電池使用型

ここにある2種類だが、金属製の筐体の開閉は縦横と異なっているが、最大の特徴は単一乾電池を2本使用しているところである。従って、いままでの物に比べて幅は狭いが奥行きがあるものとなっている。
両方とも裏面に 6230-12-120-3659 の同じ番号がプレスされており、これは軍用としてのスペックを表していると思われる。機能は赤・緑の色信号切替え内蔵され、特異なのは遮光装置自体も内蔵されているところである。片方は赤緑の切替えのスライドスイッチの真中に同じくスライドスイッチとして、それを上げることによって薄板製の遮光板が上がって機能する。一方は横にある回転レバーでを下げることによって機能する。 各々のスイッチは暗夜で手探り状態での識別のためか全て異なった意匠を与えている。
両方とも裏部の革製ベルトが固定され、片方が締具となって外す緩めるが可能になっている。又、スイッチ部分は摘み部分は異なるが円筒状の内部に常時点灯と信号用点滅機能を収めている。
片方の回転レバー型には筐体前面に VARTA のプレスがある。これはドイツ電池メーカーで有名な VARTA 製と思われる。
電池の規格が変わっても、その使い方は変わらないというのが面白い。きっとハードが進歩してもソフトウエアの部分が変わらないから、こんな懐中電灯が必要なのであろう。

技術的な癖の伝承、伝統、慣性の法則なんてことを考えているのだ。


追記 050531

Hyaru さんから、このエントリーにコメント、トラックバックをいただいて、愛・地球博のスイス館でスイス軍用懐中電灯が改造されて「音声ガイド装置」として使われていることを知った。

その情報でもって、新しいエントリー「スイス軍用懐中電灯」を作った。

Posted by @ June 3, 2003 03:26 PM
Comments

Dear Sirs,

Please give me a quote for the following items.

1.6230-12-120-3659.................162 pcs

2.6230-12-121-7334.................162 pcs

3.6230-12-150-9920.................162 pcs

I look forward to hearing from you soon.

Best Regards

Erkun Özdemir
Electronic engineer

Posted by: Erkun Özdemir @ May 17, 2006 01:02 AM

この軍用懐中電灯の形式って、ドイツ、スイスとオーストリアだけのようですね。すくなくとも、手に入れたのはこの三国だけですが。
まあ、マグライトとはいきませんが、あのレベルで使えるという判断があったのでしょうね。

ずっと放置してあったこのエントリーを、少しお掃除してきれいにしました。

Posted by: 秋山東一 @ May 31, 2005 01:10 AM

さっそくのご回答・ありがとうございます。
マグライトなどに比べれば隙間だらけなので,水中とはいかないまでも大雨の時はどういう具合なのか気になります。
スイスと言うと精密機器がイメージされますが,こういう無骨な
つくりのものも存在するんですね。

Posted by: Hyaru @ May 30, 2005 06:10 PM

Hyaru さん、はじめまして。

トラックバック、コメントありがとうございました。こんなエントリーを注目していただけるとは思ってもみませんでした。愛地球博のスイス館で、軍用の懐中電灯があんな風に再利用されていることを初めて知りました。

実物は特別に防水対策は施されてはいません。水中で使われるようなことは想定されてはいないんだろうと思います。

Posted by: 秋山東一 @ May 30, 2005 03:00 PM

はじめまして。
愛地球博のスイス館で使っている,軍用の懐中電灯があまりにも気になって検索していて,こちらのブログにたどりつきました。これで大分,素性を理解する事ができました・ありがとうございます。
係員の目が気になり,それほどじっくり内部を観察したわけではありませんが,軍用の割に防水対策がなされていないのが気になりました。もしかしたら改造時に取り外したのか???
実物はどうなのかご教示いただければ幸いです。

Posted by: Hyaru @ May 30, 2005 12:09 PM