独ソ戦 | [ BOOKS ] |
そのロシアでは、5月9日、全土で戦勝記念日が祝われている。それは、連合国(米英ソ仏国、他)がドイツに勝利した日(Victory in Europe Day, またはV-E Day)、ドイツが降伏文書に調印した日……時差の関係でソ連では1945年5月9日なのだ。
この独ソ戦・戦勝記念日は、ロシアにとって最重要な祝日だ。各地で軍事パレードが行われ、今もって独ソ戦の記憶を甦らせる。
西欧諸国にとって独ソ戦は第2次世界大戦ヨーロッパ戦線における東部戦線の戦いという扱いだが、ロシアにとっては「大祖国戦争」、第2次世界大戦最大の戦いは独ソ戦だったのだ。
西欧の史家は、第2次世界大戦ヨーロッパ戦線の分岐点は、北アフリカのエル・アラメインとスターリングラードの二つを上げるようだが、ソ連にとってはあんなもんと比較すんな……というところだろう。
独ソ戦におけるソ連の死者数は、軍人民間人合わせて2,700万人……、第2次世界大戦の日本の死者数は300万人といわれているが、桁が違う。
ヒトラー率いるナチスドイツにとって、ロシア革命で誕生したボリシェヴィズム国家であるソ連は殲滅すべき対象であり、劣等人種であるスラブ人を奴隷化する為の戦争であった。
そんな過酷な戦争で、ロシア国土で戦われた戦争、独ソ戦にに勝利をおさめたのを祝うのに、文句あっか……、ということなのだ。
その独ソ戦を、ソ連崩壊後、自由化された資料、知見を基に、概括しようというのが本書だ。
第一章 偽りの握手から激突へ
第一節 スターリンの逃避
無視される情報/根強い対英不信/弱体化していたソ連軍
第二節 対ソ戦決定
征服の「プログラム」/想定外の戦局/三つの日付/陸軍総司令部の危惧/第一八軍開進訓令
第三節 作戦計画
マルクス・プラン/ロスベルク・プラン/「バルバロッサ」作戦
第二章 敗北に向かう勝利
第一節 大敗したソ連軍
驚異的な進撃/実情に合わなかったドクトリン/センノの戦い/自壊する攻撃
第二節 スモレンスクの転回点
「電撃戦」の幻/ロシアはフランスにあらず/消耗するドイツ軍/「戦争に勝つ能力を失う」/隠されたターニング・ポイント
第三節 最初の敗走
戦略なきドイツ軍/時間は浪費されたのか?/「台風」作戦/二度目の世界大戦へ
第三章 絶滅戦争
第一節 対ソ戦のイデオロギー
四つの手がかり/ヒトラーの「プログラム」/ナチ・イデオロギーの機能/大砲もバターも/危機克服のための戦争
第二節 帝国主義的収奪
三つの戦争/東部総合計画/収奪を目的とした占領/多元支配による急進化/「総統小包」
第三節 絶滅政策の実行
「出動部隊」の編成/「コミッサール指令」/ホロコーストとの関連/餓えるレニングラード
第四節 「大祖国戦争」の内実
スターリニズムのテロ支配/ナショナリズムの利用/パルチザン/ソ連軍による捕虜虐待
第四章 潮流の逆転
第一節 スターリングラードへの道
ソ連軍冬季攻勢の挫折/死守命令と統帥危機/モスクワか石油か/「青号」作戦/妄信された勝利/危険な両面攻勢/スターリングラード突入/ネズミの戦争
第二節 機能しはじめた「作戦術」
「作戦術」とは何か/「赤いナポレオン」の用兵思想/ドイツ東部軍の潰滅を狙う攻勢/解囲ならず/第六軍降伏/戦略的攻勢能力をなくしたドイツ軍
第三節 「城塞」の挫折とソ連軍連続攻勢の開始
「疾走」と「星」/「後手からの一撃」/暴かれた実像/築かれていく「城塞」/必勝の戦略態勢/失敗を運命づけられた攻勢/「城塞」潰ゆ
第五章 理性なき絶対戦争
第一節 軍事的合理性の消失
「死守,死守,死守によって」/焦土作戦/世界観戦争の肥大化/軍事的合理性なき戦争指導
第二節 「バグラチオン」作戦
戦後をにらむスターリン/「報復は正義」/攻勢正面はどこか/作戦術の完成形
第三節 ベルリンへの道
赤い波と砂の城/「共犯者」国家/ドイツ本土進攻/ベルリン陥落/ポツダムの終止符
終 章 「絶滅戦争」の長い影
複合戦争としての対ソ戦/実証研究を阻んできたもの/利用されてきた独ソ戦史
文献解題
略称,および軍事用語について
独ソ戦関連年表
おわりに
玉井さん、どうもです。
ぜひ、本書をお読みいただきたいと思っております。第2次世界大戦が終わって75年……、その歴史をねじ曲げて解釈しようとする人間が跳梁跋扈する今、その事実に向き合っていかねばと思っておりますです。
ドイツは、首都を分割されて東西対立の先端をみずからのうちに抱え込んだのに対して、日本は それが国土の外にあったおかげで、朝鮮戦争の被害なしに好景気という後押しをもらったというところは、大違いだったわけですね、
それがよかったのかどうか。
ここで 秋山さんの記述を読み 目次を追っただけで、戦域の広大さや 死者の数 それと同じ数の殺人という行為が行われたということの凄まじさに、頭がクラクラしてしまいます。
それというのも、ここと地続きである大陸の東端で、それぞれの側で主張が異なるにせよ、同じ規模の殺人が行われたことを思い浮かべてしまうからです。
それと同時に、おそらくヨーロッパの戦争をデザインしたチャーチルが、ヒトラーとスターリン、ナチと共産主義独裁国家を戦わせて両方とも消耗させようとしたということは、たぶん大きな幸運に助けられたのでしょうが、世界史にとっては、曲がりなりにも平和をもたらしたのだろうことも思います。
独ソ戦が、ドイツを敗戦に導き、ソ連は求心力を高めることに役立てたわけですね。同時に、日本と中国の関係がほぼ同じであるを、また思い出さずにはいられません。
その後も、東西の対立の先端にあったことでアメリカの後押しを受けて回復したところまではよく似ているけれど、今の首相の程度の違いを思うと・・・情けない。
Posted by: 玉井一匡 @ July 3, 2020 07:51 AMBemo さん、まいどです。
「大祖国戦争」は独ソ戦開始直後にスターリンが唱えだしたプロパガンダのようですね。未だに残るソ連時代の見方……、そんな状態を払拭すべく……というのが本書の狙いのようです。
『大祖国戦争』という言葉を知ったのが、40年以上前に映画で見たモスフィルムの『ヨーロッパの解放』でした。ソ連映画を見るのは 、学校の映画鑑賞会で見た日ソ合作の『小さい逃亡者』以来でした。タミヤのプラモを作っていたので行ったのですが、長〜くて、途中退散でした。映画の中では、スターリンは目元の優しい俳優、ヒトラー、ルーズベルト、チャーチルは目つきが悪そうな俳優が演じていました。
Posted by: Bemo @ August 28, 2019 07:26 PM