110108

「波に兎」

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今年の干支は兎……、いただいた年賀状も兎だらけなのだが、玉井さんの賀状の「抱き波とうさぎ」の話が面白いなぁ……と思っていた。

MyPlace: あけまして おめでとうございます:抱き波とうさぎ

そしたら、飛曇荘の宗亭さんの兎も波の上で跳ねている兎だった。
なんだか、示し合わせたように「波に兎」の図像……、というわけで、宗亭さんにこの賀状の絵の由来を聞いてみたのだ。

すぐさま、この絵の由来について書いてくださった。早速、それを公開しよう。

2004年4月、安曇村に引っ越して間もない頃だったでしょうか。飛騨の知人からこんな便りが届きました。

『先日、バスで事務所前をとおりました。安曇村役場の近くに「中久」家という家があります。そこの土蔵に奇跡をおこしてくれるウサギがいます!!ぜひみてみて下さい。』

そのウサギが安曇村のどこに住んでいるかは知りませんでしたが、まだ前任地(神岡)にいる頃、同じ彼女からもらった小林澄夫著「左官礼讃」を読みながら、近くのことがとりあげられていないかとページを繰っていたとき既に会っていました。

 ● 小林澄夫著「左官礼讃」

それには、こんなふうに書かれていました。

『…… 今でも、その鏝絵 (こて絵) を白壁の土蔵の妻にみいだしたときの新鮮なヨロコビを甦らせることができる。それは、魂をゆりうごかすような激しい感動というのではないが、なにかしみじみとした幸福感、いつまでも気分として余韻を引いていくような忘れがたいハッピーな思いであった。
 その〈波に兎〉の鏝絵は、牛棟を塗りごめた丸い地に波間を跳ぶ兎の絵をえがいた簡単なもので、波を水色に、兎の絵の地の部分をベンガラの赤で彩色してあった。地の赤い丸は朝日なのだろうか、それとも月であろうか、その赤がモノトーンな田舎の風景の中で新鮮で、その土蔵を華やかなものにしていた。兎は、豊穣と多産を、波は水として火伏せを意味することで、庶民の安産と火事よけの願いが込められたものだという。
 それは、たぶん、二年、三年の長丁場の土蔵仕事のしめくくりとして土蔵の仕事をまかせてくれた檀那への感謝を込めて左官がえがいたものであろう。それも、屋号や家紋ではなく、そうした〈波に兎〉をえがいたということの中には土蔵仕事をやり終えたことのみずからのヨロコビもあらわされていたのだろう。……』
( フォークロアとしての鏝絵 群馬県月夜野  P.194-195)

画像はP.212 上に「波に兎」の鏝絵(長野県安曇村の土蔵)とあります。

知人に言われるまでもなく、異動先が上高地と聞いたときに本でみたこの兎に会えると思っていましたので、役場窓口に尋ねました。そういうことを知っているのはYさんだと聞きましたがYさんは不在でした。郵便局にも尋ねました。わかりませんでした。

何日かして役場から連絡があり、(役場窓口の方のご実家や、郵便局とは目と鼻の先でした。)そして彼女に会いに行ったのが5月6日。家の方にウサギをみさせてください、と声をかけたら「さいきん、このうさぎをみに来られる人がふえてね、何だか知らないけれど……」ということでした。

山だより安曇村発 №1(ブログ「飛曇荘」では №158)を、このスケッチで飾りました。
文章はうさぎとは関係ないことを書いてあるかもしれませんが、その春、旧名古屋営林局(愛知・岐阜・富山の3県)と旧長野営林局(長野県)が実質的に統合され、「ここは今までとは違い、物語も同僚もないに等しい職場」と、後に書いたように(№180)仕事のやり方や言語がさっぱりわからず、聴く当てもなく、お天道様さえどこから上がってくるのかも……という、外国に放り出されたような気分を彼女にたすけてもらいたかった、のです。 なんて言ったって「奇跡をおこしてくれる」「ハッピーな思い(の)」ウサギだからです。

鏝絵で思い出しましたが、赴任前に安曇村を net で検索したら姉妹都市が静岡県松崎町(あの、伊豆の長八美術館の)でした。これは鏝絵がとりもつ縁かとYさんに尋ねたところ、上高地を視察に訪れた静岡県知事が、県下の松崎町が、山の景観の良いところと姉妹都市になりたがっているという希望があったようで、それで上高地や乗鞍をもつ安曇村と縁結びをしたまでで、鏝絵ではありませんでした。


さて、どんな奇跡(ハッピー)がおきたかって?!それは秋山さんがご存じのとおりです。

このウサギは、島々郵便局のすぐ近く。レールとともに探索会ご一行様のお越しをお待ちしております。

長くなりました。では、

おび(B)え(A)る飛曇荘

追伸:賀状の絵はいつも前年のスケッチから選ぶのですが、今年はうさぎ年。あのウサギが私たちをここまで連れてきたのだと思い、2004年のスケッチを使いました。

追記 110112

飛曇荘・宗亭氏から写真が送られてきた。

「玉井さんブログに、『スケッチしか見ていないのに、あちらのウサギと波の鏝絵のほうがすてきだと感じるのです。Posted by: 玉井一匡 : January 9, 2011 02:52 PM』とありましたので、鏝絵本体を撮ってきました。
土蔵は家への坂道沿いにあり、鏝絵自体が小さいのに、柊や薔薇の植え込みが闖入者を阻んで思うような絵はとれませんでした。

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Posted by 秋山東一 @ January 8, 2011 12:08 AM
Comments

小さくて安全なのが白ウサギ、大きくてちょっと危険なのが白馬となる様です。

Posted by: Fumanchu @ January 8, 2011 04:22 PM

成程...粋ですね。
波頭を白うさぎに見立てる...なんて。

Posted by: iGa @ January 8, 2011 03:18 PM

波頭の白いのを兎というのではないでしょうか。謡曲では

竹生島
緑樹影沈んで魚木に登る景色あり。
月海上に浮かんでは兎も波を奔るか面白の島の景色や。

とあります。

Posted by: Fumanchu @ January 8, 2011 02:59 PM

23区内に狸が1000匹程棲息しているらしいけれど、今年の干支、野生のウサギはほぼ姿を消してしまった。とか、5日の東京新聞の特集記事にありましたが。確かに八王子の山里でも猪や狸には遭遇しても、野兎を見掛けることはなくなりました。子供の頃は家の近くの雑木林に入れば、野兎の糞で、その存在が確認できたのですが...今はどうなっているのだろう。
因みに絶滅危惧種のレッドリストにアマミノクロウサキ、サドノウサキ、夕張・芦別のエゾナキウサキが入っているとかで...野生のウサギには現実は厳しいようです。

Posted by: iGa @ January 8, 2011 01:50 PM

 秋山さんからスケッチを添付したメールをいただいて、このうさぎを見ました。楽しそうに水とたわむれているようなうさぎが、とても魅力的だと思いましたが、すこし小さくした絵だったので、文字が読み取りにくかったものの鏝絵と書かれているようでしたから、黒いところは向こうが透けている漆喰の白のレリーフだろうと思っていました。

 この文章を拝読して、じつは水の青と太陽の赤が白いうさぎを際だたせているのだと知って、なるほどと思いました。
スケッチだけでなく、鏝絵そのものも心温まるものでしょうね。

 新潟県の長岡にサフラン酒というのをつくっていた家に大変に手の込んだ鏝絵があります。http://blogs.yahoo.co.jp/kmy22jp/26539881.html
 手のかかりようはたいしたものですが、いささかこれ見よがしであるし、このうさぎにあるほどの動きやしゃれた心意気のようなものを感じられません。沖縄のシーサーも、瓦職人のいたずらという感じのやつが、とぼけた味があっていいですね。

MyPlaceのエントリーにいただいたコメントやメールから、またひろがりが出てきましたので、新たにエントリーを加えていきます。

Posted by: 玉井一匡 @ January 8, 2011 12:08 PM