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天使の歩廊

BOOKS

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天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

著者: 中村 弦

ISBN: 978-4103120810
出版社: 新潮社
価格: 1,575 -円(税込)

銀座の西洋洗濯屋の中庭、たくさんの白シャツがはためく……それは天使の羽音なのか。
一つ一つの話に引き込まれ、一気に読了した。面白かった。

2008年、第20回「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作なのだ。

明治から大正の時代、一人の建築家が作り出す魔術的な力を持った建築をめぐる六つの話で構成される。
死者と生者が共に暮らす為の老子爵夫人の邸宅、児童画に明かされた鹿鳴館の秘密、永遠に住めるという引き篭もりの探偵小説作家の迷宮、夭折した建築学科同級生の為の邸宅……、それらの建築設計が、明治大正の時代背景のなかで蠢き出すのだ。
一つ一つの話は独立しているのだが、過去に未来へと移ろいながら、それらの奇怪な建築、一人の建築家の姿を明らかにしていく。

この建築家は何者なのか、天上から遣わされた天使なのか……。


目次
——明治十四年——

Ⅰ 冬の陽
Ⅱ 鹿鳴館の絵 
Ⅲ ラビリンス逍遥
Ⅳ 製図室の夜
Ⅴ 天界の都
Ⅵ 忘れ川

——昭和七年——


大賞・審査員の荒俣宏氏の選評に指摘されているが、そこに描かれている「建築」が弱いのは事実だ。「冬の陽」に描かれている建築の種明かしは、天使とも思われる建築家とは程遠いものだ。
しかし、こんなに綿密に建築の話……というよりも建築設計の世界の話が描かれるのは稀なことだ。それも、複雑な時代背景の中で、リアルな手応えを持って表現されているのだ。

これは建築設計に携わって五十年近い時間を過ごした不肖私が言っているのだから間違いない。とにかく、面白いのだ。

Posted by 秋山東一 @ December 6, 2009 09:42 PM
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