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「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか

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「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか
新潮文庫

著者: 小池 滋

ISBN: 978-4101361512
出版: 新潮社
価格: 420-円(税込)

本書の著者、小池滋って知ってたなぁ.......と思ったのだ。昔、読んだ「英国鉄道物語」をお書きになった英文学者・小池滋先生であらせられたのであった。

日本文学の名作、それも誰でも知っている名作八編に、年季の入った「鉄chang」が殴り込む。
作家が記した「鉄気」を見逃す事なく、その時代場所の鉄道知識を元に、その名作の秘密に迫っていくのだ。


目次
「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか
     —夏目漱石「坊っちゃん」
電車は東京市の交通をどのように一変させたか
     —田山花袋「少女病」
荷風は市電がお嫌いか
     —永井荷風「日和下駄」
どうして玉ノ井駅が二つもあったのか
     —永井荷風「濹東綺譚」
田園を憂鬱にした汽車の音は何か
     —佐藤春夫「田園の憂鬱」
蜜柑はなぜ二等車の窓から投げられたか
     —芥川龍之介「蜜柑」
銀河鉄道は軽便鉄道であったのか
     —宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
なぜ特急列車が国府津に停ったのか
     —山本有三「波」
 年表
 あとがき
 文庫版のためのあとがき
 鉄道探偵の冒険 有栖川有栖
 索引


その八編とも実に面白いものだが、やっぱり自分に親しい路線、鉄道の話に親しみを感じる。

佐藤春夫の「田園の憂鬱」を題材にした「田園を憂鬱にした汽車の音は何か」の犯人、横浜線は極々親しいものだ。その主人公たる佐藤春夫が「幻聴」と記した深夜の汽車の音とは何だったのか.......それは背筋がぞくぞくするような興奮を覚えた。
1917(大正6)年、日本の鉄道の「狭軌」か「広軌(標準軌)」のゲージ論争の為、広軌の実験線が作られて実験された。それが現横浜線の橋本・町田間で行われたのだそうだ。それは周辺に何もなく直線距離が十分ある路線.........なのである。その工事準備の臨時貨物列車が深夜走行していたのではないか........と推理しているのだ。

「坊ちゃん」の「物理学校」から、「街鉄」の「技手」の話まで、中央線の「痴漢」の元祖は.......、「市電」から、「玉ノ井」で錯綜する二つの鉄道........、「二等」「三等」の差別、「銀河鉄道の夜」のモデル「岩手軽便鉄道」から、東海道線「国府津」駅の運命..........まで、鉄分十分の面白さなのである。

Posted by 秋山東一 @ November 30, 2008 03:55 AM
Comments

iGa さん、どうもです。
この「田園の憂鬱」の舞台から横浜線までは4kmほどですから、1917年では車も走らない世界ですから、汽車の音はよく届いたんじゃないかというのが推理です。我が家から八高線まで直線距離で700mで、開かれた浅川の鉄橋上ですからよく聴こえるわけです。

Posted by: 秋山東一 @ November 30, 2008 08:49 PM

家から横浜線までは直線距離で5キロ、中央線まで直線距離で1キロ、中央線の貨物列車の音は山を越して夜中よく聴こえましたが、5キロくらいなら、もしかすると昔は横浜線を通る貨物列車の音が聴こえていたかも....。

Posted by: iGa @ November 30, 2008 07:01 PM