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島崎蓊助自伝

BOOKS

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島崎蓊助自伝
父・藤村への抵抗と回帰

著者: 島崎蓊助
編者: 加藤哲朗・島崎爽助
ISBN: 4582831168
出版: 平凡社
定価: 2,940-円(税込)

最近、お近付きになった alpshima さんから、一冊の本をいただいた。
本書「島崎蓊助(しまざきおうすけ)自伝」である。alpshima さんの父上の自伝なのである。
戦前、1920,30年代の日本、ベルリンでプロレタリア美術運動に身を投じられた島崎蓊助、その半生の記録なのだ。

本書の中心を成す「絵日記の伝説」の原稿は、2001年に群馬県桐生の大川美術館で開かれた「描かざる幻の画家 島崎蓊助遺作展」の準備のために遺品を整理している際、偶然に発見されたものだそうだ。
島崎蓊助は、ワイマール共和国末期のベルリンで活動していた日本人反帝左翼文化人グループの「最年少のメンバー」であった。ドイツ社会運動を研究されてきた政治学者、一橋大学教授・加藤哲郎氏と、ご子息、島崎爽助氏によって本書は日の目を見たのである。


絵日記の伝説

   まえがき
 一 川端画学校・画学生気質
 二 マヴォの出現と解体
 三 赤道社・初期プロレタリア美術
 四 シベリア経由モスクワからベルリンへ
 五 ベルリン日本人左翼グループ
 六 ハンブルグから神戸へ
 七 暗黒時代の到来・放浪
 八 中国大陸・湖南ー広西ー桂林
 九 南岳ー南京ー上海・敗戦
 十 引き揚げ・東京の廃墟へ
十一 戦後・混沌からの出発
   あとがき

人物素描

   辻まことの記
   『大足』のころー石田波郷
   ベルリンの屋根の下でー土方定一
   青鷺の眼ー草野心平
   灰色の時ー名取洋之助さんと私
   若き日の嘔吐ー父藤村と和解するまで
   興ざめー父の思いで
   島崎蓊助年譜

   解題 父について   島崎爽助
   解説 島崎蓊助とベルリン日本人左翼グループ   加藤哲朗


1923年の関東大震災によって破壊された東京、そこに川端画学校で学ぶ島崎蓊助少年がいる。彼は数多くの交遊から、じょじょにプロレタリアート美術の世界に傾倒していく。それはドイツ、ベルリンへの遊学、そちらでの左翼運動へと進展していく。
そして若者らしい挫折、1933年、神戸への帰国となる。その後の紆余曲折、報道班員として戦乱の中国上海で終戦を迎え、廃墟の日本に帰国した。その混沌の中から新しい氏の思索と制作の道が開かれていく。

その副題には「父・藤村への抵抗と回帰」とある。島崎蓊助は島崎藤村の三男であるのだ。1943年に亡くなった父島崎藤村、その「島崎藤村全集」を完成させるという大きな仕事をも、氏はやってのけるのだ。
文豪・島崎藤村の子という宿命、幼少時の不幸、そこからの抵抗と革命の人生、そして父への回帰、その波瀾万丈の人生、感動を禁じ得ない。


本書の編者、加藤哲郎・一橋大学教授のウェブサイト「加藤哲郎のネチズン・カレッジ」の中の「現代史研究」の中に、本書についての一文「島崎蓊助のセピア色と「絵日記の伝説」」がある。

Posted by 秋山東一 @ May 18, 2006 08:41 AM
Comments

neon さん、どうもです。
やんちゃというか不良ばかりしていた島崎蓊助が、戦後、父・藤村の全集出版に力を尽くす、そのあたりの蓊助の生き方に「ノブレス・オブリージュ」という言葉を想い出しました。

Posted by: 秋山東一 @ May 19, 2006 12:50 PM

実は私もお名刺からこっそり検索し(すみません)、この本の存在そして成り立ちを知りましてびっくりしました。是非拝読したいと思っております。

Posted by: neon @ May 18, 2006 03:39 PM