060414

デジタル化する人間の"眼"

Camera , THINK

ちょっと旧聞だが、2006年4月3日の朝日朝刊のコラム「時流自論」に、写真家・藤原新也氏が「デジタル化する人間の"眼"」と題して、現在の写真の問題を語っている。

 ここのところ写真の世界では激震が続いている。
 今年に入ってカメラメーカーの老舗ニコンがフィルムカメラからの事実上の”撤退”を発表した。またコニカミノルタはカメラ事業そのものから撤退し、1940年以降、国産フジフィルムと双璧をなしていたコニカフィルムも史上から消える。
 とくに大正6年(1917年)創業のニコンのフィルムカメラはベトナム戦争時に被弾を受けて貫通せず、人命を救ったというような逸話とともにその優秀さが全世界に知れわたり、フィルムカメラの象徴的地位を築いていただけに撤退の衝撃は大きい。
 それとともに、ニコンフィルムカメラの撤退はひとつの時代が終わったのだという事実を写真関係者の前に突きつける。それは写真の世界ではアナログ時代が終わりを告げ、デジタル時代が本格化的に到来したということだ。............

そのデジタル時代が一般人の間では当たり前のこととなっているが、プロの世界においても、遠からぬ将来、ハードの面からシステムの変容を余儀なくされることが予測されている。

そのようなハードウェアのアナログからデジタルへの変化以上に、"人間の眼"そのものもここ30年の間にデジタル化したのではないか、とつなげるのだ。

それは、テクロノジーの方がデジタル化した"人間の眼"に追随しているのではないかという設問なのだ。彼は自身の30年にわたるフィルムを使ってきた経験から、ダイナミックレンジ(白から黒に至るまでの階調表現)の不足、彩度(色の派手さ加減)の飽和という二つの点ですでにフィルム時代が変化していること、その写真の変化は、"人間の眼"そのものの変化なのではないかと論じる。

その変化は、日本の総都市化によって自然の地味な色から人工的な派手な色へと視覚環境の変化し、日常的になったTV、モニター、TVゲームの視覚環境に慣らされていった結果ではないかと続ける。

氏はこの「時流自論」を次のように締めくくっている。

.........
 タテ縞の飼育小屋の中で育った猫はヨコ縞が見えなくなるという衝撃的な実験があるが、どうやら2000年代の人類はその猫の生態に似てきているようだ。

ちょっと恐ろしい結論なのだ。

Posted by 秋山東一 @ April 14, 2006 06:07 AM
Comments

デジタル総時代の弊害は、実はいろんなところで発生しています。
たとえば音楽の世界では、Protoolsがスタンダードになり、アナログ時代に出来ていた音の作り方(コーラスとかのFX)が×になってしまいました。聞こえすぎるのですね。
またデジタル放送も、見えなくてもいい(笑、人の皺やドーランの塗り具合まで鮮明に見ることができます。
人の嗜好が変化するのか、進化に人が合わせるのか。
ある意味、日々不毛なジレンマと格闘です(笑

Posted by: アプ @ April 15, 2006 04:01 PM

alpshima さん、どうもです。
このコメントで急に、そうだ昔は写真といえばモノクロ、白黒の写真だったのでありました。誰でもカラー写真が楽しめるようになったのは....そんな昔ではありません。今、カラー写真に慣らされてされてしまった眼には、モノクロ写真は新鮮にさえ感じられます。

Posted by: 秋山東一 @ April 15, 2006 10:26 AM

私のブログも、モノトーンの写真をよく使います。
何か、時間の推移が封じ込められているようだからでしょうか。

Posted by: alpshima @ April 15, 2006 09:15 AM

komachi さん、どうもです。
こんな写真の状況を見る時、亡き父を思い出します。彼は写真一筋の人でしたから、彼の属した小西六が写真を止めてしまうなんて、信じられるだろうかと思うのです。

Posted by: 秋山東一 @ April 15, 2006 03:45 AM

私もその記事を興味深く読みました。人間の脳みそ自体が変化してきているのだと言われると、そうなんだろうなと思う。視覚環境がこれだけ急激に変化してきたのに変わらない方がおかしい。味覚なんかも1世代違うとずいぶん違うんじゃないかな。それを進化というかは別の問題としても。それにしてもプロの写真を扱うものとしてはこのところ困ることが多い。まともにモノクロのプリントを焼いてくれる現像所は絶滅危惧種になってしまっている。欧米ではどうなのだろう。人間の脳みその状況はあまり違わないだろうが、こうしたハードの変化の激しさにおいては日本は格別なのではないだろうか。ニコンがフィルムベースのカメラを作らないというのは、やはりショックですね。

Posted by: komachi @ April 14, 2006 07:43 PM

たかやなぎさつき さん、どうもです。
昔、何の本だか忘れましたが、アレキサンダー大王の時代、色は...色しかなかった、なんて書いてある本を読んだ記憶があります。人間の能力って、時代時代によって変わっていくのは、やむをえないのかも知れません。
残念ながら、進化というものは自分自身の作り出した状況に適合していく、そういうものなのかも知れません。

Posted by: 秋山東一 @ April 14, 2006 07:11 PM

私の知り合いで染色の勉強をしている方がいらっしゃるのですが、その方が、どんなに再現してみようと思っても、平安時代の美しい色はつくれない、と言われていたのを思い出しました。その方は現代人の手作業の技術が衰えてしまったことを嘆いてそう言われたのですが、もしかしたら昔の繊細な色を我々は抹殺してしまったのかもしれません。

Posted by: たかやなぎさつき @ April 14, 2006 06:07 PM