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あの戦争は何だったのか

BOOKS

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あの戦争は何だったのか—大人のための歴史教科書  新潮新書 (125)

著者: 保阪正康


ISBN: 4106101254
出版: 新潮社
定価: 756-円(税込)

今もってアジア近隣諸国との摩擦となっている問題、靖国問題、教科書問題等は、あの戦争、日本国のいう太平洋戦争が何だったのか、60年前の敗戦に終った戦争を真摯に考えてこなかったことから始っているのだ。

「あの戦争は何だったのか」を「歴史教科書」として概括しようというのが本書なのだ。

太平洋戦争を「日本の軍部、軍国主義がアジア各地を侵略した行為」と定義すれば、「軍部」とは「軍国主義」とは何なのか、そこから本書は始る。職業軍人と徴兵制、旧陸海軍のメカニズムが明かされる。

次に、太平洋戦争へのターニングポイントとして、1936(昭和36)年の「2.26事件」が語られる。その時の全てにわたる「テロへの恐怖」が、軍主導の国家体制を構築していく。1940(昭和15)年「皇紀2600年」、「大政翼賛会」という形で政党もなくなり、天皇の神格化はますます進み、「国民は臣民となり、全てが天皇に帰一した国家システム」が最終的に構築される。それは、現在の北朝鮮の独裁体制に最も近いものであろう。

1941(昭和16)年12月8日、真珠湾攻撃による開戦、その時、国民はみな歓喜に沸いた。鬱屈とした社会的な気分から解放されたのである。束の間の勝利もいつまでも続くわけではない。その後、国民は「大本営発表」を聞かされ、戦争の真実が伝えられることはなかった。太平洋各地、アジア各地、本土で、それから3年半の間に、3,100,000人の日本人が殺されていった。
1945(昭和20)年、9月2日、東京湾上の米戦艦ミズーリ号の艦上で「降伏文書」の調印式が行われた。日本の太平洋戦争は敗戦によって終ったのだ。

著者・保阪正康は「この戦争ははじめなければならなかった」という。その必然性があり、早晩、軍部は始めていたのだ。そして、この戦争を主導した「軍部」および指導者達には「何をもって勝利、あるいは敗北とするか」という「戦争の終わらせ方、戦争を終結させるという考え」が何もなかったのだという。

教科書的に概括しようという意図のためか、時間的な記述に多くを割き、本質的な論考が欠けてているような気がするが、どうだろうか。

その戦争を遂行した「仕掛け」は戦後もそのままに存続したように思える。あの戦争に一喜一憂しながら、大人しく頑張った「日本人の性癖も又、存続した。それが、今の靖国問題、教科書問題、右傾化しつつあるかに見える日本国の問題なのだろう。

本書に続く「この戦後とは何だったのか—大人のための歴史教科書」が必要な気がするのだ。

Posted by 秋山東一 @ July 21, 2005 04:10 AM
Comments

「戦争」
なんとも悲しい言葉だが、この本を見た若い人たちが「戦争」についてなにかを感じ取ってくれたらと願う。

Posted by: あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書 @ booksjp @ September 20, 2005 04:52 AM

わたしの両親は、戦争の話を避け続けた人たちでした。
わたしのオットは、結婚する前から、
戦争の総括と、その後の処理を解決しない限り
戦後の日本を語る資格はないんだといい、
今も大東亜戦争にこだわり続けています。
戦後の哲学を確立しなくてはいけないんだそうです。
この本のことを、彼に話してみようと思います。

Posted by: りりこ @ July 22, 2005 08:54 AM