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満州走馬燈 / 満州メモリー・マップ

BOOKS , THINK

中国の対日デモが盛んに報道されている。

先日のエントリー「父の遺言書 /1943」でふれた「満州」、この満州の歴史、日本国が中国にもたらした惨禍、同じ日本人を見捨てた国家の責任を忘れてはならない。

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「満州走馬燈」は1982年(昭和57年)にワールドフォトプレスから出版された。

著者の小宮 清さんは芸大の先輩だ。

彼の幼少の頃、5才から11才、1940年から1946年の満州での自身の体験を書かれたものだ。彼が父母と一緒に満州開拓団として入植、そして満州国崩壊、その後のご苦労と帰国までの経験、それを美しいスケッチ(だけというわけではなく、工業デザイナーらしい細部にわたって科学的なところが、さすがなのである)とともに書かれたものなのだ。

その記録は詳細を極める。「......つい最近のことをこんなに確かに再現せよと言われてもできないのに、やはりあの時代は私にとって、よほど特別なものだったのでしょう。.......」と書かれている。満州の大草原での自然とそこでの生活、大変なご苦労であった敗戦後の生活、帰国するまでの生活も、子供らしい楽しい記憶も美しく再現されているのだ。

副題にあるように「きよしのメモリー・マップ」とあるように、各章毎にマップ、絵図があり、一つ一つのエピソードのインデックスになっている。そこに小宮さんの精細なスケッチに至る記憶の源泉、脳内の「グラフィカルな記憶マップ」というような機能があるような気がする。

第1章 班代開拓団の生活 1944年
第2章 奉天市・遼陽郊外の生活 1944年~1945年
第3章 遼陽市 1945年8月~1946年6月
第4章 祖国日本へ
第5章 あとがき

1932年(昭和7年)、日本は中国の東北部に満州国という傀儡政権を成立させた。45年の敗戦でその国が消滅するまで、「王道楽土」「五族協和」のキャッチフレーズの元、新天地を求めて多くの日本人が大陸にわたった。敗戦とともにやってきた状況は苛酷を極めた。

私は、残念ながら本書を所有していない。Mat こと旧友・吉松真津美氏より拝借したものである。


1990年には同じ内容を、ちくまプリマーブックスの一冊、青少年向けの新書版で出版された。
現在、絶版状態のようだが古本では手に入るようだ。

4480041486.jpg満州メモリー・マップ
ちくまプリマーブックス48
著者: 小宮 清


ISBN: 4480041486
出版: 筑摩書房
定価: 1,100-円(税込)

しかし、残念ながらオリジナルの「満州走馬燈」の全てが復刊されたわけではない。
新書判に収めるため、いくつかのエピソードが削除されている。美しいイラストはカラーから全てモノクロになっているが、オリジナルにはないカットがあったりする。

たくさんの満州の歴史を扱った書籍があると思われるが、その時代を少年の目から見た世界を、このように精細なスケッチとともに読めるのは素晴らしいことだ。

Posted by 秋山東一 @ April 13, 2005 10:13 AM
Comments

反日デモが沈静化したからってワケじゃありませんが、大連の絵葉書をアップしてみました。
あと、3枚あるので、もう少し生声収集してからまたレポートしてみるつもりです。

Posted by: m-louis @ May 11, 2005 04:51 PM

私のところにも「満州メモリー・マップ」が本日届きました。
この本は私→伯母→父と回し読みしようかと思ってます。
特に伯母からはこの本をもとにいろいろ聞けると思うので、そのうちレポートできればと思っています。

Posted by: m-louis @ April 17, 2005 01:19 AM

秋山さん
本日、「満州走馬燈」が届きました!中をぱらぱらと見始めて本当にすてきな本だと思いました。こんな本を教えて頂いてとても感謝しています。本日、私のブログにて、本到着と秋山さんのブログのご紹介を書かせて頂きました。
ありがとうございます。

Posted by: mitsubako @ April 16, 2005 10:51 PM

>同じ日本人を見捨てた国家の責任を忘れてはならない。

第二次世界大戦後にハイチやドミニカに入植した日本人に対しても政府・外務省は同じ過ちを繰り返していますね。国民には自己責任を押し付けるが、自らは責任をとらないのが官僚システムですから、残念!

Posted by: iGa @ April 14, 2005 02:35 PM

m-louis さん、mitsubako さん、コメントありがとうございます。

小宮清さんの「満州走馬燈」は、とてもすてきな本です。戦後の過酷な状況のなかでも、子供らしい透徹した目でそれを見ている、又、それとは別の子供世界も、ちゃんと存在している.......すてきです。

1946年帰国する船の中で行われた演芸会の光景、その劇に出演したヒロインを見て、彼は書いています。「.....彼女を見ると、生きることのすばらしさ、これからおとなになる大きな期待感みたいなものがぼくの胸いっぱいに広がった。これが平和というものなのか、そして人間らしく生きるというものなのかと思えたのだ。.....」、そんな時代、そんな状況下に、そんな風に感じた少年がいたことが、夢のようです。

Posted by: 秋山東一 @ April 14, 2005 11:42 AM

「満州走馬燈」すぐに手にしてみたい本です。私は古書の方を、早速注文してみようと思います。装丁とかイラストは、自分がどこということを知らないにもかかわらず、郷愁をそそるのはなぜでしょうか。
長年、満州に関しての本を読もうと数冊置いてあるのですが、そろそろ本当に読み始めようかなと思います。老人ホームで暮らす伯父も満州育ちで、定年後に一度満州を訪れたと言っていたことがあります。

Posted by: mitsubako @ April 13, 2005 02:03 PM

「父の遺言書 /1943」のコメント欄で、満州のハガキをブログでアップしようかと書いておりましたが、実は昨今の対日デモなどを見てエントリーに躊躇しております。

「家」の絡まないブログをやってるならサイバーテロなど畏れずエントリーするんですが、私のブログはその気になれば実際の家を特定出来てしまうものでして、、およそ「不良」的発想ではないのですが、何かの繋がりでそのエントリーが誤読されでもしたらちょっと怖いなと思ってしまいました。う〜む、どうしたものか、、歴史は歴史として知ったことをなるべく歪めないよう(といっても「書く」という行為自体、すでに微妙な歪みを内包してるわけですが)書けることは書いておきたいとも思っているのですが、、とはいえ、実際のところ満州のことをほとんど知らないのでまずは「満州メモリー・マップ」を注文してみました。

Posted by: m-louis @ April 13, 2005 12:43 PM