031207

鉄道ひとつばなし

BOOKS , TRANSPORT

6日は博多にいた。

昼過ぎ、帰京すべく福岡空港にやってきた時、帰るのにも他の選択肢があるではないか、新幹線でも帰れるではないか、と気がついた。ふむ、今日はいろいろ変わったことをやってみるのもいいかもしれない。さきほど、映画を60才以上割引なんぞを試したばかりだし。

いまきたばかりの地下鉄で「博多」に戻った。
飛行機で1時間40分のところ、博多から小倉、徳山、広島、岡山、新神戸、新大阪...........東京まで5時間、ビールを飲んで、本を読んで、昼寝して、いいじゃないか。

14時25分発ののぞみの切符を買う、そして駅構内の本屋に行く。そして講談社現代新書のこれ、「鉄道ひとつばなし」を買う。鉄道に乗りながら鉄道の本を読む、いいじゃないか。もちろん、ビールの用意も怠ることはない。

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鉄道ひとつばなし
講談社現代新書

著者: 原 武史

ISBN: 4061496808
出版: 講談社
定価: 777-円(税込)

この「鉄道ひとつばなし」はどこかの書評で「話題の名コラム」「珠玉の...」なんてあって読んでみたかったのだ。もちろん、鉄道の話、読まずにいられるか、ってな気分であった。

目次を見ただけで、この本が凡百の鉄道本ではないことが分かる。

序 章 思索の源泉としての鉄道
第一章 天皇と鉄道
第二章 鉄道をめぐる人物論
第三章 急行・特急・通勤快速
第四章 歴史の駆動車としての鉄道
第五章 私の鉄道体験記
第六章 駅・駅の名・駅のそば
第七章 風俗と風景
第八章 鉄道比較文化論

政治思想史を専門とする著者にとって、この本は「趣味」の本ではない。まさしく本書の序章にある「思索の源泉」なのだ。僭越だが、この aki' STOCKTAKING もそうありたいと考えているのだが。

自分にとって極々親しい京王線も天皇制との関連の中で語られる。
1928年、府中の大国魂神社の参道で分断されていた二つの鉄道がつながり現在の新宿・京王八王子の形が出来上がったのには、大正天皇の陵墓である多摩御陵への路線が関係あったのではないかとする「大国魂神社と京王線」、「聖蹟桜ケ丘という駅名」には、関戸という駅名が、1930年に明治天皇を記念した多摩聖蹟記念館が近くに建てられ、天皇の神格化とともに聖蹟桜ケ丘と変わり、戦後もそのまま残っていることが語られる。
その聖蹟桜ケ丘に京王の本社が過去の歴史の封印するかのように建っている、という事は知らなかった。そういえば、京王が開発した聖蹟桜ケ丘の住宅団地には京王の重役連が住んでいて、それで聖蹟桜ケ丘には特急が止まる、なんて話を聞いたな。

全て面白く車中で読了、いつのまにか山陽路を通過し昼寝するのも忘れてしまった。

ビールと本と昼寝の新幹線での帰京、予想通りであったが、5時間座っているのはちょっと大変、これには思い及ばなかった。


追記

この「鉄道ひとつばなし」の続編。「鉄道ひとつばなし2」がでた。政治学者・原武史氏の筆さばきはますます快調である。
 ● aki's STOCKTAKING: 鉄道ひとつばなし2


Posted by @ December 7, 2003 09:19 AM
Comments

週刊朝日 2005/5/27 の「週刊図書館」の[ニュースな本]に「鉄道は文化なのだ」と紹介されていた。まさしく本書の眼差しは文化を支えているのだ。

JR西日本の大事故の全貌が明らかになるにともない、JRという会社の問題が浮彫りになってきているようだが、鉄道をただ単に商売としてしか見られない輩の所業が今回の事故の原因なのだ、と言っておこう。

Posted by: 秋山東一 @ May 16, 2005 11:40 AM