031009

フォルクスハウスとコンピュータ

Computer , OM/VOLKS HAUS

 昨年(1999年)の11月10日、OMフォーラムの勉強会として、フォルクスハウスの最新設計手法として設計ツール「MAC no Uchi pro」をOM研究所にて発表する機会をいただいた。たくさんの参会者と熱心な質疑に終始し非常に有意義な時間であった。参会者の大部分は設計に携わる方々であったが、各々のよってきたる所以、立場の違いは大きいとしても、フォルクスハウスとCADへの関心の高さを感じさせられた。

 フォルクスハウスは開発段階から、部品図から実施図面、マニュアルに至るまで一貫して Mac によって作られた。この5年間に、設計ツールとして各部材部品の配置図にあたる伏図を作成しながら自動的に数量リストまで出来る「伏図キット」を作り、多くの工務店に利用されている。又、間取りに代わるプランニングの考え方、幕の内弁当方式とよぶべき「MAC no Uchi 」を開発、ゲーム感覚でプランニングするインターネット版も協会のホームページで公表されている。

 今回の「 MAC no Uchi pro 」は一個の部材から始ってフォルクスハウスの全てを3次元化したもので、シミュレーション・ツールとして設計行為自体を変革しうるものと考えている。

 フォルクスハウスはたしかにコンピュータを道具として作ってきた、しかし今、このフォルクスハウスの底流にはパーソナルコンピュータの思想、その設計思想を色濃く反映していると考えている。「MAC no Uchi pro」はフォルクスハウスという住宅の作り方をコンピュータ上に「オブジェクト指向」というべき世界を構築したものと確信している。「オブジェクト指向」とはコンピュータ内の事物がその事物(オブジェクト)その物の振る舞いをするというコンピュータの工学の基本的概念である。例えば、立ち上がったコンピュータ画面をデスクトップという。それは現実の机の上ということである。そしてそこにあるフォルダーを開き作業を進める。デスクトップの端にはゴミ箱がある。それは現実そのままにいらなくなった書類を捨てることができる。それは「オブジェクト指向」のプログラミングがなされているからなのである。

 「MAC no Uchi pro」はCADソフトの3次元機能を利用しプレゼンテーションの為のアプリケーションではない、設計ツールそのものなのである。開発当初からの「オブジェクト指向」がそれを可能にし、設計行為自体を変革しうると考えている。それは突然の思いつきでできたというわけではない、又、最初から意図していた訳でもない。この6年間のフォルクスハウス開発当初からの方向性がそれを形成しえたと考えている。

 フォルクスハウスの開発当初からの過程を振り返ってみたいと思う。

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ゴミ箱

1)フォルクスハウスの開発

 ずっと明解で単純な「定番」となる良質なOMの小住宅を作る仕掛けを作りたいと考えていた。それがフォルクスハウスとして開発する機会を与えられた。

 1994年春、開発作業が始った。秋にはモデルハウス一棟を完成し、必要な設計施工マニュアルも制作という強行スケジュールであった。菅波貞男の作り出した「the在来」という構法に、新しく構造、設計にわたるシステムを与えるのは、汎用な仕掛けからフォルクスハウスのシステムへと、新しい1mモジュール、OMソーラーに特化することも含めて膨大な作業であった。各金物、部材の図面、から最初の協会モデルハウスの図面、それに続く全国に建てる10軒のモデルハウスの基本設計と続いた。

 私にとってコンピュータは Apple II から親しいものではあり、実用としてMac 128k から Mac II , LC475 とコンピュータ環境を作り、その時点でそれなりの設備と経験はあったものの、組織として全面的にCADによる開発は全く初めてのことであった。

 その開発要員であるスタッフから製図板を取り上げ、コンピュータの前に座ることから始めた。それを担当するスタッフはまだ手で図面を描いたことのないような新人だけ、そして全てMac と MiniCAD でやることに決定した。6100 を2台、LC475 を3台用意し試行錯誤しながら短期間にプロジェクトを完成させた。全ての部材、部品の製作用図面、十数棟の試作住宅の図面、そして大部なマニュアルまですべて Mac だけで作り上げることができた。その時間に培われたスタッフの習熟度、書きかけの図面1枚にいたるまで現在の事務所のCAD化の基盤とすることができた。

 システムを開発することは小さな部品から実際の計画図、マニュアルに至るまで全てに整合性を求められる、それは開発担当者間に共通のルールを作り出さねば成り立たない。同じ道具を使い全てを共通の言語の元に進めなければならない。その過程の中で、CAD、コンピュータについての考えを深め実践していくことができた。

 事務所のCAD化は図面をきれいに早くという意識のレベルではなりたたない。全ての情報を同一の扱い方ができる方法をとらねばならないのだ。その時、CAD化はそこにとどまらないことに気づく。製図板に向かって手で描いた図面はいかに上手に描かれていたとしても紙の上の事にしかすぎない。しかも担当者が事務所にいなくなったとたん事務所には今後発展させるべきなにものもない、ただ紙だけが残されているにすぎない。図面を手で描いていたそのままをコンピュータにおきかえるのがCAD化ではない。

 フォルクスハウスはコンピュータ利用と不可分で考えられた。部品の開発、部材の開発、実際のシステム運用自体もコンピュータを利用する方向で進めてきた。コンピュータの中に沢山の部品を作り出し、それを組立て一軒の住宅を作り出す。それは沢山のデータを組み合わせて、一軒のデータの集まりを作り出すということである。

 設計という行為自体の方法も変えることが可能なのだ。Mac によってフォルクスハウスというプロジェクトを進めながら自分自身の設計についての意識が変わったのを実感している。それは「標準化」である。

 住宅においても、その全体をシステムとして構築することはコンピュータのオペレーティングシステムを作るのに似ている。

 コンピュータの性格、その可能性は、その基本的オペレーティングシステム(Windows でも Mac でも)によって決定されている。そして、アプリケーションはそのシステムによって標準化されている。同様に、住宅のシステムと個々の住宅はオペレーティングシステムとそのアプリケーションの関係にあたる。個々の住宅はそのシステムの中で標準化を決定づけられている。

 どんな住宅でも、その質を高め、その精度をあげようとする時、標準化は避けて通らないわけにはいかない。設計者が意識的であるかどうかは無関係に、性能の高い安定した品質の住宅は標準化されている。一戸の住宅だけではなく複数の住宅を考えた時、その標準化はシステムとしての標準化に行き着く。


 フォルクスハウスは誰にとっても明解な住宅である。住まい手にとっても作る人にとっても。どうやってつくるのか、どうできるのか、誰にとっても明解にそのものが提示されている。むき出しの集成材の梁、構造用合板の壁、むき出しの金物は誰の目にも明らかである。それはシステムが存在するからであり、その可能性の限界もそのシステムによって決定づけられている。それ以上のものでもそれ以下のものでもない。
 フォルクスハウスは、そのシステムによってその標準を事前に決定されている。その限界があるからこそ、誰にとっても透明な構造、設計システムをつくり出したといえる。

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Macintosh

2)フォルクスハウス

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基本ベースパターン

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ベースと下屋の組み合わせ

 フォルクスハウスの構造システムは集成材の柱梁による軸組工法、木製の枠組みの内部に断熱材を充填した構造用合板を両面に張った機密断熱性能の優れたパネルによって外壁を構成する。

 フォルクスハウスは旧来の900、910グリッドではなしに、メーターモジュールを採用し、梁間の最大スパンを4メートルとした。部材はそれ以上の長さのものは用意されていない。これは4メートル角の京間8畳の空間を最大にするという設計方法からきている。階高は2400ミリ、2600ミリの2種類は、新しく2500ミリの階高に統一される。5寸、10寸の2つの勾配の屋根をもつ。このモジュールと最大スパン、階高の設定が構造システムを決定づけている。

 柱梁は北欧産の集成材、十分乾燥し強度も十分である。集成材を使用することによって強度物性にばらつきがなく製品として保証しうるものとなった。すべての部材は1つのシステムとして完全な互換性をもっている。金物はクレテック金物をフォルクスハウス用に改良したものを使用し、柱の接合に使われるホゾパイプは独特なものである。水平構面は合板の床面そのものとし、火打ち材を排除している。すべて実物大の破壊試験によって、その強度は保証されている。木造合理化システム認定もフォルクスハウスとして取得されている。
 フォルクスハウスの平面は「ベース」と「下屋」の組み合わせに限定されている。

 現在、「ベース」と言われる基本型は23パターンである。すべてのベースパターンは縦横の長さで呼称される。例えば、縦8メートル、横6メートルのベースは806(ハチマルロク)と呼ばれる。呼称も含めた記号化はシステムを普及させるのに重要な役割を果たしている。各フォルクスハウスは1つひとつにVHナンバーと呼ばれる001から始まる設計ナンバーがつけられ、将来的な保証、維持管理のために用意されている。

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伏図キット

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開口部パターン

 現在パッケージされている開口部はカナダ製の木製複層ガラス入り建具で、限定された種類、寸法に決定されている。大きさは7種類、決して構造的に4メートルスパンまるまる開口にならないよう開口部の建具の寸法は決定づけられている。
 システムをつくることは、すべてに適切な限界を構成することである。無限大を思考することではない。フォルクスハウスは1つの限界の成果なのである。

 全て有限の構造部材であるから、その物自体に固有の名称を付けその属性を規定して画面上に伏図を構成しうるアプリケーションが開発スタッフによって作られた。「伏図キット」である。
 「伏図キット」はフォルクスハウスの伏図を作成するアプリケーションである。コンピュータ画面上にフォルクス部材を配置することにより伏図を作成する。しかし、それにとどまることなく MiniCAD の機能、表計算機能を使って「木拾い」までする。図面ができると同時に部材の数量を自動的に計算してしまう。大きくは梁、柱から接合金物の数量、ピンの数量まで正確に計算、合計の数量まで出す。事前に単価を入れていれば見積もりまでできてしまう、というアプリケーションになっている。その機能は「木拾い」から積算まで自動化したと言える。又、各部材に3次元データを持たせフォルクスハウス全体の3次元での表示を可能とし、画面上でフォルクスハウスの全体像を確認することができる。これはプレゼンテーション、図面のチェックに有効に使われている。

 この時点では未だ「オブジェクト指向」を意識していたとは言えない。しかし、一個の部材から最終的な一軒のフォルクスハウスにまで固有の名称を付けるという方向性が決定されていた。「伏図キット」が Mac と MiniCADという「オブジェクト指向」な環境であることが、その後のフォルクスハウスの方向性に影響を与えたと言える。

 

3)幕の内弁当から

  フォルクスハウスが初めて世の中にでた時、工務店にとっては新種のプレカットの在来工法という扱いでしかなかった。まだ設計手法の確立というには不十分であった。全体の寸法と限られた開口部、ベースと下屋の組み合わせ、ベースの限定というシステムを展開、メーターモジュールであっても平面を作るという設計の根幹に難しさがあるということに気づいた。

 在来工法であるかぎり3尺間の間取りという平面の作り方を越えられないことであった。構造と平面は異なると言っても、工務店がフォルクスハウスを運用するかぎり「間取り」に留まる。それは鉛筆と方眼紙にクライアントが要望として描く間取り図の世界を出るものではない。部屋と部屋は区切りは壁であり、壁には柱があり構造であるという、構造と平面が一体になっているのが3尺の間取りの限界である、必要諸室をとりながら階段や水廻りをその端に押し込め、部屋を廊下でつなぎ、うまく必要な部屋がとれうまく空間利用が計られている平面を、よい平面、上手な平面計画というような傾向をどうにか変えていかねばならないと考えた。間取りは結局は瑣末な工夫や小賢しい平面の工夫となってしまう。

 縦横6m×8mを608というようにベースの限定を与条件とするならば、そのベースを重箱に見立てて、そこに最初から必要な平面部分を入れていけば間取りの考えを変えていくことが出来るのではないかと考えた。これによって階段、水廻り等の小さな空間を最初に設定し、その余ったスペースに必要諸室を設ける。ワンルームを基本とした平面計画が容易になるのではないかと考えた。

 その手法を整理し「Mac no Uchi」と名付けた。すなわち「幕の内弁当」である。

 ベースを重箱に見立てていけばプランニングができると考えた。弁当の中身を重箱にどう詰めていくのかというのがプランニングである。鮭の切り身、卵焼き、煮物、酢の物、香の物、後はご飯てなものでしょう。それをどう重箱の中に詰めていくのかがプランニングと考えた。

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ユニットの例

 最初に、各部品と平面との関係をパーツ(部品)、ユニット(単位)、プラン(平面)という形に整理した。パーツの集合がユニットとなり、そのユニットを重箱に詰めるようにしてプランを構成するわけである。各ユニットはS(階段)、E(玄関)、W(水廻り)、K(厨房)、T(便所)の5種類である。その後、G(下屋)、B(バルコン)の2つもユニット化しうると考えている。

 各ユニットはいろいろなバリエーションが考えられる。例えば階段のSユニットについてはU、I、J、Lの4種類が想定されている。単純な真直ぐのI階段、上がりの最初が直角に曲がったL階段、行って来いのU、そしてゆったりのJ階段の4種類である。ユニットの大きさも1×4、2×2、2×3と決定されうる。同様に他のユニットにもいろいろなバリエーション、大きさが考えられる。

 これによって各レベルでの物の役割が明確になり、部品の開発が容易になった。現実に2つのユニット、階段および厨房が試作された。U階段という2メートル角のスペースに設置されるイッテコイ型の階段キットである。合板と集成材による箱階段部分と「ささら」と踏み板による階段部分とスティールパイプによる構造部分を兼ねた手摺による構成になっている。厨房ユニットはカウンターの長さの違う2種類、附随する喚気フードとセットになっている。これによってできた平面を「パッケィジプラン」とし現実の計画となった。

 この MAC no Uchi によって「オブジェクト指向」をより進化させえた。それは個々のパーツ(部品)からユニット(単位)、そこからプラン(平面)と設計のレベルを設定し、その各々に名称を与えその属性を作り出しうる考え方を作り出した。ただのルールだけだった設計システムもこれで初めてフォルクスハウスの設計システム、それも「オブジェクト指向」の設計ツールが出来上がったと考えた。

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MAC no Uchi Web

4)設計ツール「MAC no Uchi pro」

 平面を作り出す「 MAC no Uchi 」と「伏図キット」で成立させた3次元での扱いを一緒にあつかえないかというのが次の課題であった。伏図キットで3次元を扱うことから、全ての部材部品を3次元であつかえないかと考えていた。設計の最初から3次元で考え処理する方向は見えてきたと考えていた。

 それは設計システムと構造システムの統合化というべきものである。それが今回発表した MAC no Uchi pro である。これによってフォルクスハウスの設計は最初から3次元の世界で始めることが可能になった。全ての部材に与えられた3次元情報はコンピュータ上に3次元の空間を作り出す。その空間には入り込むことも、周辺を巡り廻ることも、自由自在である。それは「オブジェクト指向」の成果であると考えられる。

 「オブジェクト指向」という聞きなれない言葉は Mac そして MiniCAD に親しんだ人達には当たり前の言葉だが、パーソナルコンピュータの30年余りの歴史のなかでパソコンの思想を作り出したアラン・ケイの SMALLTALK の基本概念である。コンピュータの中でシミュレーションされる事物がその事物の相互関係の状況を現出させるということである。CAD上の話しとして2次元と3次元がある。いわゆる図面は2次元、2次元上の四角い矩形は柱でも部屋でもありうる。それを、これは柱である、部屋であると認識するのは全体のスケール、状況で判断されている。しかし柱にはその高さがあり、部屋にはその空間がある。それを最初から3次元の「オブジェクト」として扱ってしまうことが可能なのである。

 「オブジェクト指向」のこの MAC no Uchi pro はより進化する。現況、そのオブジェクトが持つ属性は名称、3次元の形状、色、価格、コード番号等であるが、より多くの属性を持たし得る。それらを演算、表示することによってより豊富な挙動をシミュレーションしうる。コンピュータ上にその構造上の強度を表示し、室内環境の数値を表示し、OMのシミュレーションと一体なものになりうる。壁は現実の壁をオブジェクトとして振る舞い、柱、梁、窓、階段もそれはオブジェクトとして振る舞う時、その空間は空間としての挙動を示す。それは完全な住宅のシミュレーションを作りだすと考えている。全ての部品オブジェクトにその固有の属性を与える(未だ3次元データにとどまっているが)ことによって、それは目前のように考えられる。

 奥村先生のOMソーラーシミュレーションも、より「オブジェクト指向」へと進化させることが可能と思う。

 3次元というと現在、プレゼンテーションの道具として以前の透視図の延長上にとらえられているが、 MAC no Uchi pro は設計とツールである。最初から3次元で設計をとらえられるのがフォルクスハウスなのである。

 設計とは何だったのか、図面とは何だったのか、図面とは確認申請図、見積設計図書、施工図、竣工図、そこに本当の設計図があったのかどうか疑問である。「設計」とは図面の事ではないはずである。

 「フォルクスハウスって、今はやりの情報開示、ディスクロージャなんですね。」と言った建築家がいた。「木造打ち放し」というコピーに代表されるその構法、その仕上げだけでなく、そのものを作りだした設計自体も情報開示しなくてはならない。いままでの、曖昧模糊とした設計方法では、何をどう作るのかを説明することはできない。住まい手にとって全てを理解し自身で決定しうる設計手法でなければならない。

 住まい手と作り手が一つの空間を共通の視座でシミュレーションできる。それを言い換えれば、住まい手と作り手が「設計」自体を共有すること、ということになる。専門家も素人も同じルールの上で家をつくれる方法が「Mac no Uchi pro」なのである。

MAC no Uchi proの実際

pars.gif MAC no Uchi proはVectorWorksを利用したアプリケーションである.それはコンピュータ内部にその作ろうとするフォルクスハウスの模型を作り出す.これはその外観を見たもの.視点を任意に設定、また光線の状態をも設定してみることが出来る.

 これは決してプレゼンテーションの道具ではなく、三次元シミュレーションというべきものである.



dinning.gif モデルの内部は任意の位置に立つこともシーケンシャルに通り抜けることも可能だ.左図は吹抜と居間の開口部の関係について考察した際のものである.設計者の道具であるとともに同じレベルで施主もその情報を共有することができる.

 VectorWorksにはQuickTimeムービーを書き出す機能が備わっており、例えば建物の内部をくまなく歩き回る一連のムービーを作成することも容易にできる.CD-ROMに焼くなどして施主や施工者に配布することも可能だ.


Plan.gif MAC no Uchi proは二次元平面での作業から始める.まず柱、壁パネルのシンボルを置き必要な所に開口部ユニットを入れていく.主な部材は全てシンボル化されているのでわずか数分間で終わってしまう作業である.後は内部建具、間仕切り、設備機器のユニット類を置き、必要ならば家具ユニットを置けば各階平面での作業は完成である.

 ユニット類については今後整備していく予定である.ホームページなどで各利用者が作ったものを集めライブラリとして公開し、共有していければと考えている


ritsumenF.gif VectorWorksでは光源の位置、つまり太陽の位置は緯度、経度、日付、時刻や建物の振れ角を入力することで自動的に得られる.RenderWorksというプラグインを併用すると正確な影も表現できる.つまり光線のシミュレーションができるわけだ.パースを掛けないで正面や側面から見た立面図においてもその影は正確であり、今まで以上の情報量を持つものになっている.

 これらの機能の延長線上で簡易なOMシミュレーションのプラグインを作成しうるものだと考えている.


tenkaiz.gif 3Dモデルは任意の位置、角度で切断することができる.それは単純に文字通りの断面図が得られるし、内部の要素を作り込んでおけば従来の展開図と同じ役割をもつものができる.

 今までの設計図は平面、立面、断面、展開図をもとに模型を作る手順であったが、MAC no Uchi proではその順番は全く逆である.コンピュータの内部空間に構築したモデルからオートマチックに切り出されるものが図面となる.


MnUpDownload.gif MAC no Uchi proの供給はインターネットだけに限定して考えている.登録の上、フォルクスハウスを設計する者なら誰でも利用できるようになっている.MAC no Uchi proの本体だけでなくマニュアルも用意されており、ダウンロードすることもオンラインで見ることもできる.Q&Aのページも用意されておりMAC no Uchi pro に関しての活発な質疑、議論が展開されることが期待される


5)インターネット

 この5年間に世の中一般のコンピュータ利用の環境は劇的に変化をとげた。インターネットである。各々の個人がメールアドレスを持っているのは当たり前、ホームページも企業から個人レベルまでの時代になってきた。これからはインターネットによるネットワークの時代といえると思っている。

 1998年春事務所のインターネット環境は完全に進化した。ОCNエコノミーによる常時接続、インターネットの各種サーバを事務所内に設置運用を開始した。これも突然出来上がったのではない。1年前から事務所内の全コンピュータをイーサネットに相互接続、ルーターによるインターネット接続、プロバイダーのレンタルサーバで独自ドメイン名によるホームページを運用するという段階を踏んできたからなのである。これは機械があればできるというわけではない、事務所全スタッフの不断の学習と習熟とが不可欠だった。

 サーバとして使われているコンピュータは4台、これらは現役を引退した古いマック(フォルクスハウス開発を担った 6100, LC475 )を使用、なんらの無駄もなく非常に経済的に成立させることができた。サーバをマックでというのはあまり一般的ではなく、スタッフの情報収集と努力によって成立した。電源入れっぱなしで1年以上稼働、コンピュータって信頼おけるものと確信した。

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サーバとネットワーク

 これにより「伏図キット」も LANDship のホームページからダウンロードできるようになった。もちろん、そのマニュアルもホームページ上で読む、あるいはファイルをダウンロードする。これによって事務所でディスクにコピーし送ったり、マニュアルを印刷製本して送るという作業がなくなった。敏速に間違いをなおしたり内容を更新することができるようになった。


 今、コンピュータのことを「電子計算機」という人はまれであるが、フランス語では Informatique (アンフォルマティック) という。「情報処理機」というような意味である。コンピュータの実際はその通りのものなのである。

 文字通りインターネットというネットワークに繋がった、住まい手、作り手、ユーザー、設計者、工務店、工場が水平に横に繋がったネットワーク環境の中で、双方向に情報を共有しあうことが可能になる。住まい手、作り手、考え手も一緒になったネットワークを一歩一歩目指して行きたいと考えている。

 アラン・ケイは言っている「未来を予測する最良の方法は、それを発明してしまうことである」と。 

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秋山東一/建築家・LANDship

「OMフォーラムVol.11」所収

Posted by @ October 9, 2003 12:00 AM
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