031002

フォルクスハウスはいかにして生まれたか

OM/VOLKS HAUS

フォルクスワーゲンのような住宅。あのフォルクスハウスのような単純で明確なコンセプトをもった住宅をつくりたいという思いがずっとあった。あの誰でもしっているワーゲンビートルのように、かわいらしくて頑丈、そして誰でもその理屈がわかってしまうような単純で素朴な機能、そんな住宅をつくりたいと考えていた。それはフォルクスハウスのための準備期間であったように今は考えられる。
OMソーラーが始まって10年余の間に、それなりの数のOMソーラーの在来木造の小住宅を設計してきた。「OMソーラーの家」として一つの限定された世界、客観的な性能を求められる世界で住宅を考えることは、基本的な設計の考えを深める好機であった。小住宅の平面および矩計をパターン化し、典型的な形態、母屋と下屋の組み合わせへと単純化しえた。同時にいくつかのOMソーラーのモデルハウスの設計は、設計手法及びそのディテールを整理させてきた。それは「フォルクスワーゲンのような住宅」という考えを具体化させていく道筋であった。

90年代、北海道での高気密高断熱の工法が徐に全国に知られるようになり、その一つ「the在来」という工法に出会う。木質軸組パネル工法と言われるものである。まだ、高気密高断熱の躯体にOMソーラーを搭載する可能性を面白がっていたにすぎない。「the在来」はフォルクスハウスになる可能性を十分有していた。

93年夏、「the在来」のすべてを1人でつくり出した菅波貞男に会う。彼は非常に特異な建築家である。彫刻家としての教育を受け建築は独学、彼のすべてにわたる見識に感銘を受けた。構造、材料、工場、機械設備、そしてその技術、そのすべてに精通した男に会ったのは初めてであった。その時、確信した。もう自分自身でその部分を考えなくてもよいのだ、そのすべては菅波貞男にある、と。彼と一緒に考え、決定するという開発の筋道がその時、決まった。

こんな言葉を思い起こす。「何をやりたいのか、その技術はあるのか、そして、それは社会に受け入れられるのか」ゲームでいえば、そんな3枚のカードが必要だったと考えている。何をやりたいのか、それは私の中にあった。そして菅波の技術、社会の要請に応えうる小池一三と300余社の工務店を束ねるOMソーラー協会があった。

94年春から夏にかけ、フォルクスハウスの開発作業に着手し、その年の9月にフォルクスハウスの最初の1棟「OMラー協会モデルハウスVH001」が建てられた。OMソーラー協会の会員工務店のためにクローズドされたシステムとして供給が開始、OM会員工務店300社の内200社が参加し、この3年あまりで1000棟のフォルクスハウスが全国中に建設された。工場でつくられた部材、部品を現場で組み立てる家、工業化された木の家、機密断熱性能の高い躯体にOMソーラーを備えた家は、フォルクスハウス「木造打ち放しの家」と名付けられ、1つの家のつくり方、1つの住まい方として定着しつつあるように思われる。

シェルター・設計システム

構造システムは集成材の柱梁いよる軸組工法、木製の枠組みの内部に断熱材を充填した構造用合板を両面に張った機密断熱性能の優れたパネルによって外壁を構成する。
フォルクスハウスは旧来の900、910グリッドではなしに、メーターモジュールを採用し、梁間の最大スパンを4メートルとした。部材はそれ以上の長さのものは用意されていない。これは4メートル角の京間8畳の空間を最大にするという設計方法からきている。階高は2400ミリ、2600ミリの2種類。新しく登り梁が設計され、5寸、10寸の2つの勾配の屋根をもつ。

柱梁はスウェーデン製の集成材、十分乾燥し強度も十分である。集成材を使用することによって強度物性にばらつきがなく製品として保証しうるものとなった。すべての部材は1つのシステムとして完全な互換性をもっている。金物はクレテック金物をフォルクスハウス用に改良したものを使用し、柱の接合に使われるホゾパイプは独特なものである。水平構面は合板の床面そのものとし、火打ち材を排除している。すべて実物大の破壊試験によって、その強度は保証されている。木造合理化システム認定もフォルクスハウスとして取得された。

「the在来」からフォルクスハウスへの進化は、その工法に設計システムを与えることにほかならない。言い換えれば無批判に在来工法に対応してきた「the在来」から「フォルクスハウス」という限定された世界を構成することであった。

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先述したように、平面を「ベース」と「下屋」の組み合わせに限定することにした。現在、「ベース」と言われる基本型は23パターンである。すべてのベースパターンは縦横の長さで呼称される。例えば、縦8メートル、横6メートルのベースは806(ハチマルロク)と呼ばれる。呼称も含めた記号化はシステムを普及させるのに重要な役割を果たしている。各フォルクスハウスは1つひとつにVHナンバーと呼ばれる001から始まる設計ナンバーがつけられ、将来的な保証、維持管理のために用意されている。

現在パッケージされている開口部はカナダ製の木製複層ガラス入り建具で、限定された種類、寸法に決定されている。大きさは7種類、決して構造的に4メートルスパンまるまる開口にならないよう開口部の建具の寸法は決定づけられている。

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システムをつくることは、すべてに適切な限界を構成することである。無限大を思考することではない。フォルクスハウスは1つの限界の成果なのである。

フォルクスハウスは誰にとっても明解な住宅である。住まい手にとってもつくる人にとっても。どうやってつくるのか、どうできるのか、誰にとっても明解にそのものが提示されている。むき出しの集成材の梁、構造用合板の壁、むき出しの金物は誰の目にも明らかである。また、その可能性の限界も明らかである。フォルクスハウスは完全なオープンな構法ではないし、その部材、部品の設計によってその限界は事前に決定されている。だからこそ透明な構造、設計システムをつくり出したといえる。

家をつくるメカノ

フォルクスハウスは専門家の技量を必要とせず、誰でも組立可能な部品要素が必要であると考えている。木ネジ、金物によって組み立てられる階段、手摺、家具造作を整備すべきと考えている。MECCANO「メカノ」のような住宅を組み立てるキットでありたいと考えている。

1997年、新しいフォルクスハウスの計画が動きだした。「パッケージプラン」と呼ばれる新しい企画である。今まである意味でオープンだった部分をクローズドなものにすることで、階段、手摺、厨房カウンター、洗面台、下駄箱等の造作部分も部品化し、より合理化、プレファブ化する方向を提案する。

その計画のため、プランニングをどう構成するかCAD上にアプリケーションを制作した。名付けて「Mac no Uchi」という。フォルクスハウスのベースを重箱に見立て、その中にどう詰め込むかということにした。幕の内弁当というわけである。そのため、各部品と平面との関係をパーツ(部品)、ユニット(単位)、プラン(平面)という形に整理した。パーツの集合がユニットとなり、そのユニットを重箱に詰めるようにしてプランを構成するわけである。

MacnoUchi.GIF

各ユニットはS(階段)、E(玄関)、W(水廻り)、K(厨房)、T(便所)、G(下屋)の6種類である。階段についてはU、I、J、Lの4種類が想定されている。
CAD上で適当なベースを選択し、各ユニットを配置することによって平面を作成しうるように考えられている。現在その平面図から立面図、確認申請用に必要な書類、計算書等が簡単に用意可能なツールとして開発中である。同時に「Mac no Uchi」はそのインターネット版が準備中である。WEBにアクセスした誰でもフォルクスハウスの平面を作り出すことを可能にする。

stair.GIF

今回、2つのユニット、階段および厨房が試作された。U階段という2メートル角のスペースに設置されるイッテコイ型の階段キットである。合板と集成材による箱階段部分と「ささら」と踏み板による階段部分とスティールパイプによる構造部分を兼ねた手摺による構成になっている。専門的能力なしに組立可能なものとしてキット化され供給される予定である。厨房ユニットは永田昌民氏の設計によるもので、カウンターの長さの違う2種類がある。付随する換気フードとセットになっている。

フォルクスハウスは現在の住宅のすべての問題に対する1つの解答を用意したと考えている。地球環境、エネルギー自立、室内環境、住宅生産、耐震工法、ストック、セルフビルド・・・・。すべてを透明なシステムへ、現在の住宅を改革する方法として受け入れられつつある。

秋山東一
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SOLAR CAT 1998 Spring no.31
特集 それぞれのベーシックハウス 所収

Posted by @ October 2, 2003 05:28 AM
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