030715

試論/プロトタイプのOMの家

OM/VOLKS HAUS

こうすれば、ローコストで質の高いOMの家ができる

OMソーラー協会「あいうえOM」1994年版所収
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「あのフォルクスワーゲンのような単純で明確なコンセプト そんな住宅をつくりたいと思っている・・・・」なんて昔かいていた。いまでもそんな思いでいっぱいだ。現実にあのフォルクスワーゲンは僕の足である。もう2台目だけれど20年も乗っていることになる。自動車の世界で、基本的には60年前の設計のまま今でもちゃんと機能しているところがすてきだ。遠くの現場に行く事が多いんだけれども、1600ccのエンジンはなかなかよく回る。

あのフォルクスワーゲンのようにと、ずっとそんなつもりで住宅をつくってきたんだけれど。何軒かのOMのモデルハウス、某ツーバイフォーハウスメーカーのプロトタイプ計画なんかの仕事をしたり、ローコストで小さな規模の住宅をたくさんつくっていると、OMソーラーの家のプロトタイプの可能性がみえてきた。

みな住む人は違うし彼らの家にたいする思いも千差万別なんだけれども、基本的な建物の考え方はそんなに違いがないことに気づく。それらの設計自体を特殊解(建築家はみんな特別のものをつくるというのは誤解である)とすることなく一般解の特殊例みたいに考えていくと、どの計画でも究極の一般解である1つの原形的な構成にゆきついていくと思える。フォルクスワーゲンが自動車の1つのプロトタイプであるように、住宅のプロトタイプが可能であるように思えてきたのだ。

フォルクスワーゲンってちょっとレトロだけれど、本当にフォルクスワーゲンみたいに家をつくってしまおうと思った。「フォルクスハウス」というわけだ。

フォルクスワーゲンってあの悪名高きあのヒットラーが構想したことはよく知られている。そして設計したのはポルシェ博士。1933年ヒットラーのナチス党が政権を奪取した時、彼はドイツ国民に大演説を打った。「国民が誰でも買える車」をつくるというわけだ。もちろんその頃、自動車ってブルジョアジーのものだった。そして「国民車」フォルクスワーゲンということになったという訳だ。

もののほんによれば、ヒットラーが設計にあたってポルシェ博士に要求した条件とは次のような事であったそうだ。

1. 大人2人、子供3人が十分に乗れること。
2. 安価であること。燃費は100kmあたり7リットル以下であること。
3. 故障しても割安の部品がすぐ手にはいること。
4. エンジンは空冷であること。

そしてこの結果があのフォルクスワーゲンになった。その後、戦争やらいろいろあったけれど、43年間にわたって、1500万台もつくられたというわけだ。
ヒットラーにならって、僕も誰でも買える住宅「フォルクスハウス」の与条件を考えてみよう。

1. 大人2人、子供3人が十分快適に生活できること。
2. 安価であること。維持費も安いこと。
3. 修理は容易で、特別な部品、材料を要しないこと。
4. OMソーラーの家であること。(ワーゲンの空冷とOMの空気集熱、似てますね)もちろん地球にやさしく環境とともに生きるような。
これだけでは住宅としては不十分。もうひとつつけ加えなければならない。
5. その地域に根ざしたものであること。

小さくてかわいくて、皆に好かれて、それでいてとっても性能がよくて、その地域にマッチした、そんな住宅がつくれたたなと思っていたのだ。


-もっとOMの家を-

バブルの時代が終わってやっと落ち着いた時代になってきたように思える。あれって病気みたいなものだったんだろうか。もうあんな時代はきてほしくないものだ。まだ見えてはきてないようだけれど、確実に世の中は違う方向に動きだしているようだ。これからはコンセプトからコンテンツへ(絵空事から内容のあるものへ、なんてことか)なんて某プロデューサーがいってたけど、やっと本来の姿にもどってきたみたいな気がする。それを建てるのには小さすぎる土地、土地柄にふさわしくない、なんとも偉そうな飾りがついた家ばかりだった。

日本中に蔓延する大手ハウスメーカーの住宅もバブルとは無縁ではない。天井が高ければ高いほどよいみたいなドアばかりついた家、周辺とは無関係な敷地からはみださなければよいという家造り。でもそれも終わり。やっと実質的、本当の住宅が望まれてきたように思う。日本の首相が「実質国家」なんていってしまう世の中なんだから。

今、OMソーラーの家がみんなに望まれているのもそんな世の中の方向と無縁ではない。住宅はそこで生活する人も違えば、その建つ環境、敷地も千差万別、しかしローコストで性能の高い住宅を望まない人はいない。どんな人達を対象にフォルクスハウスを考えたらいいのだろうか。お金はないけどOMの家が欲しくて欲しくてたまらない人達、若々しく自分の家を楽しみたい人達、環境のことを心配し、地球にやさしい家を欲しがっている家族のために、そんな人達に提供できる家であってほしいと思っているのだ。


-OMソーラーの家のちょっとした工業化-

最近、若い人達が住む小さな住宅を何軒かたのまれた。みな小さくて、そしてローコスト。だけど、みなOMソーラーの家なのだ。OMソーラーの設備自体、大きな家も小さな家もあまり予算の差はない。従って小さな家ほど全体の予算の中でしめるOMソーラーの費用は割高のものになる。小さな家でOMは無理では困る。

少ない全体の予算の中でバランスよく家をつくるには、もう躯体、骨組みをどうつくるのか、全体の工法自体を考えなおさなければならないということになる。木造が前提ではあるが、大きな比重を占める人工、マンアワーをどうにかしなければならない。いままでの作り方のエネルギーのかかり過ぎをもっと効率よく合理化せねばならない。とにかく工期の短縮化が大きな問題だ。半年近くの長期間、天候に左右される屋外の現場での仕事、工期の短縮はコストの低減にもっとも大きな要素なのだ。とにかく人的エネルギーの使い過ぎなのだ。上棟後の現場での仕事は1ヶ月、そんなところになればすてきなんだけれど。

そんな工法はないものかと考えていたら、工場生産のパネル方式があると聞いた。唯々、ローコストで短時間に作れればいいというわけにはいかない。住宅全体の性能を高めるOMならではの躯体をつくりださなければならないのだ。僕が紹介をうけたパネル工法は、そんな心配にたいして十分な内容をもっていた。木構造断熱気密パネル工法なのだ。これならOMソーラーの家として十分な性能を発揮する躯体が可能なように思えた。

このU社の木構造断熱気密パネルは在来木構造としての法的規制の範囲内で2階建てまでの住宅を建築するためのもの。土台、柱、梁の部材と床パネル、天井パネル、壁パネル、開口部パネルのパネル類の組み合わせで構成されている。全ての部材のジョイント部は気密性能を確保しうるような仕組みが考案され、パネル自体も十分な断熱性能を確保している。平面モジュールは910だが、他のモジュールも可能とのことだ。

僕にとっては十分な性能のものと考えた。ただ、規格の高さが高すぎるのが気になったが、それも解決されそうだ。

工期は現場で1週間、これはかかる人間の数にもよると思うが、大工1人で1ヶ月とのことだ。とってもすてきだ。こんな工期ならば建物全体をローコストに作りだすことが可能だ。それに、この高気密高断熱のパネルはOMとの相性がよさそうだ。高気密高断熱の建物は換気の仕掛けが不可欠だが、OMは建物全体を換気装置にしてしまう。

「性能をデザインできる」というのがOMソーラーの住宅の設計だが、そしてその上、容易に「性能を保証できる」ということになると思う。今までの住宅のつくり方って、つくる人の能力、性格に依存しすぎているように思える。ある程度工業化された工法をとることによって、作り方の合理化を図ることができ、必ずある一定の性能をもつ建物をつくれるように思えるのだ。


-OMの家プロトタイプ-

ちょっと工業化されたOMソーラーの家、木構造断熱気密パネル方式の家はプロトタイプを原則とする。これによって大きくローコストを図ることができると同時に、設計自体の質を保つことが可能となるであろう。OMソーラーの家はその地域性を重視する。各地域ごとのアメダス気象データによるOMコンピュータシュミレーションは、その家の温熱環境を完全に把握し設計に反映させることができる。シュミレーションによって各地域ごとの仕様が決定される。プロトタイプではあっても地域性を生かした方向への展開を可能とし、それを推進するようなプロトタイプであるべきであろう。

平面は単純明快を旨とする。小さなOMソーラーの家であっても「広く住む」「広く住める家」でなければならない。全体の機構は2つの空間を組み合わせたものとなる。大きな広く住むための空間、そしてコンパクトで必要な目的を構成する要素、水まわり、階段等々の空間の組み合わせである。そのさい内部はいかようにも可変可能だ。そしてオプションとしての空間をそれらに付加しうる。OMソーラーの地域ごとの環境、状況にあわせていろいろなヴァージョンが用意されるであろう。このプロトタイプは、OMソーラーの自由な設計、自由な考え方を阻害するものではない。これを1つの核として展開することが可能なのだ。


-パッケージ化されたOMソーラーの家-

OMソーラーの機材一式、木構造断熱気密パネル一式、そしてそのプロトタイプの設計図、組立説明書がプラモデルのように1つのパッケージとなっている。そしてオプションとして付随する部材、材料も用意される。それらの仕掛け1式がコンテナー1個に入っている。後はトレーラーで現場に運ぶだけ。OMの蓄熱コンクリート基礎が完成している現場で組立ればよいのだ。誰でも組み立てられるから組立キットとして提供することも可能だ。現場で上棟したあとの作業もプロの手による必要はない。その時点でもう十分な性能を保証できるから、その後の工事は住まい手自ら、自分の手で自分の家をつくっていくことを可能にする。これはとっても革命的。日曜大工でつくったOMソーラーの家に住めるようになるのだ。

1つの合理的な躯体の工法を進化させることによって、OMの技術も大きく進歩させられると思われる。このパネル方式にふさわしいOMの形、ハンドリング、ダクトの有り様等、改良、進化していくであろう。また、工業化は量の問題でもある。建設の棟数が増えることは全体のローコスト化と同時に、それに付随する建具を始めとする各種の建築部品、建築材料の進歩も促進されるのであろう。この方式用の新しい木製建具の開発なんてとてもおもしろい課題だと思う。

そんなこんなで、94年夏までに在来木構造断熱気密パネル方式で、OMソーラーの小住宅が4棟完成する。もちろんプロトタイプとよびうる基本のプランもだが、パネル方式特有のディテールをつくりださなければならない。建具をどうつけるのか、電気配線の方法等いろいろ解決せねばならない問題がたくさんある。そんなこんなうまく解決、早く現場の数日で建物の形が出来上がるのを見たいと思っている。きっと住み手も一緒になって組み立てることであろう。

この方式がOMソーラーの家の全てをカバーするとは思わないが、ローコストで小さなOMソーラーの家のたくさんの要望に答えられる。1つの「定番」となりうると僕は考えている。

あいかわらずワーゲンでバタバタ走っている。歩道の外人の男の子が呼びかける「Nice Buggy!」。そんな家ができる仕掛け、そんな家を作りたいと考えている。

秋山東一
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「あいうえOM」1994年版所収

Posted by @ July 15, 2003 01:00 AM
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