11. テレビって・・・ | [ TAU·SHOKEN·KENCHI , THINK ] |
LANDship/1997
秋山東一のストックテーキング [11]
「テレビってタイムマシンなんだ」
「建築知識」1986年5月号所収
●フィリピン情勢が混沌の度を増し、僕はテレビの前に釘付けになっていた。ほんの少し前のマニラ市内の混乱とその情景が、僕の12インチのブラウン管に映し出される。それはリアルタイムといえるくらい生に近い映像だ。革命の混乱、戦闘の緊張感への興味というよりも、今それがそこに起こっていることに対する興味が、テレビを見続けさせてしまった。いま、同時に起こっている危険、緊張した場面を、妙にヌクヌクと、とても安全にビールなど飲みながら見ていたのだ。その時テレビは、何千kmを離れて現在進行形の形で、その時間に起こっていること---ライフルを構える兵士の1人がタバコの吸殻を道に捨てるところまで---を写し出していた。
●テレビは、時空を超えて、見る者をその場に居合わせさせてしまう。コタツの中だろうとビールを飲みながらだろうと。テレビってひとつのタイムマシンなんだ。まあ、未来は想像力の中にしかないとしても、テレビは空間を超越し、時間をコントロールできるのだ。ビデオテープレコーダーによって映像の記録を可能にしたばかりか、人工衛星が映像を地球上に同時に放送することを可能にしてしまった。テレビって僕等の生活を変えた今世紀最大の発明なんだ。もちろん、最初はそれがタイムマシンになるなんて考えもしなかったに違いないけれど。
●ある映像作家の撮った、カナダのバンクーバーからアメリカのどこそこまでの“24時間列車の旅”というビデオを見たことがある。それは、きっちり客車の窓からの風景をとり込んだ映像だった。しかし、単なる車窓風景なんて生易しいものではない。固定されたビデオカメラが、コマ落としで、ただひたすらに24時間分の「車窓風景」をみせてくれる。24時間の光景、昼と夜、その何千kmかの変化をたった10分間で見せてくれるのだ。そのビデオはタイムマシン体験といえる感覚を僕に与えた。
●さて、そろそろ僕も新しいテレビが欲しいものだ。「AVする」なんて言葉があるけれど、僕も結構それなりにAVしているのだ。もちろんビデオはあるし、LD、CD、BOSEのアンプ・スピーカーとあるのだ。ただテレビだけが73年型の12インチなのだ。僕は今、“ランド”が欲しいと思っている。
「建築知識」1986年5月号所収
----------- aki/030724Posted by @ July 24, 2003 09:50 AM