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 6. 地図って・・・

TAU·SHOKEN·KENCHI , THINK

LANDship/1997
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秋山東一のストックテーキング [6]

「地図って読むものなんだ」

「建築知識」1985年12月号所収


●「うさぎ」の話がある。リチャード・アダムスの「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」という本だ。それは、一群の野生のうさぎたち、擬人化されたうさぎたちのひと夏の冒険の物語だ。決断、勇気、死生観と寓意に満ち満ちたお話で大変おもしろい。バーズアイビュー、鳥瞰図ならぬラビッツアイビュー(?)、うさぎの視点からの物語の展開になっていて、想像力豊かで飽きることがない。

● その物語の最初の頁が地図なのだ。このうさぎたちの物語の舞台、ウォーターシップ・ダウンの丘陵を中心とした、一万分の一よりちょいと大きめの地図なのだ。東西4マイル、南北10マイルほどのせまい範囲を南北に走る道路、南の方にはテスト川という川が流れている。それに沿って鉄道が南北に走り、ラバストークという町がある。林と牧草地が連なり、南西から北東に向かって古代ローマ街道の跡が一直線に横切っている。僕はその場所を手持ちのイギリスのロードマップで探してみた。——そして、発見した。ロンドンからブリストルに向かう国道の途中、ニューベリーという町の南側に、この物語の舞台は拡がっていた。

● 僕はその時、以前イギリスを車で旅行したときの、その風景、その感じを思い出した。いくつにも連なった丘陵、それを上り下りしながらつづく道路、それはまさに、ロングアンドワインディングロードだ。道路は生垣に囲われ、その向こうには広々とした牧草地、そして林のかたまり、ときどき見える一本の大きな木、そんな風景が流れていくのを思い出した。

● ウォーターシップ・ダウンの地図の上に、僕はうさぎたちの冒険をプロットしながら十分にお話を楽しむことができた。うさぎたちが走り、闘い、考えるのを、彼らの目になってその地図の上に読むことができた。地図は読むものなのだ。そのさまざまな記号、その記号の連なり、それらを読むことによって僕らの想像力は展開する。

● 最近話題の大江志乃夫の「凩の時」にも、そんな感じを抱いた。これは明治末年の東京を中心舞台とした歴史小説なのだが、各章がすべて地名で始まっている。それは地図を読むのを前提とした考えのように思える。その頃の東京の地図の中に、登場人物の目に見える風景を見ることができる。一枚の地図から空間的な無限の連なりを読むことができる、と同時に時間的な連なりも読むことができる。それは、タイムマシンなのだ。地図を読みとることによって僕らはどこへでも、そして過去、現在、未来へと想像力を羽ばたかせることができる。

● 僕は最近、国土地理院発行の一万分の一の地図を愛読している。

「建築知識」1985年12月号所収

----------- aki/030724

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Posted by @ July 24, 2003 10:40 AM
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