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 5. フォルクスワーゲンって・・・

Car , TAU·SHOKEN·KENCHI

LANDship/1997
ST.GIF

秋山東一のストックテーキング [5]

「フォルクスワーゲンって動く箱なんだ」

「建築知識」1985年11月号所収

● フォルクスワーゲンという車がある。もちろんあの「かぶと虫」のことだ。今はもう作られていないけれど、まだ走っている。空冷水平対向4気筒、リアエンジン、トーションバー4輪独立懸架、丸っこい流線型のボディ、ヒトラーの作らせたナチスの車等々・・・カタログ的にその仕様を並べたてても始まらないが。

● 僕も一台持っている。もちろん、車は1台しか持っていないから、僕の唯一の車がフォルクスワーゲンなのだ。そして、この1970年型のフォルクスワーゲンは、今でもパタパタバタバタとよく走る。エンジンは電気モーターのように確実、かつ正確に始動する。何のアイマイさもない。キイを差込んでひねる。“バタッ”とエンジンがかる。“ウィンウィン”というセルモーターのうめきなんてものは無縁のものだ。
● 車—自動車ってものは、基本的にエンジンがついた“箱”だ。丸かったり、平らであったり、四角かったり、とんがっているのはその本質とはあんまり関係ない。エンジン、つまり動力装置がついた、人が乗って移動できる箱なんだ。フォルクスワーゲンってのは、とってもいいエンジンのついた箱なんだ。

VW.GIF

● エンジンのついた箱、フォルクスワーゲンの箱の部分はしごく単純だ。硬いシート、必要最小限のメーター、エンジンの熱を冷却用扇風機で室内に送り込む温風暖房装置、そしてドアについた三角窓(これを開ければ、少なくとも走っている間は大量の外気を室内に送り込むことができる)——。ひどく単純、明快な仕掛けがついただけの箱なんだ。

● 暑い最中、三角窓を斜めに開けてバタバタ走っている時、気がついた。近頃の車には三角窓なる換気装置は存在しないのだ。ふむ、皆空調装置などがついているのであろう。ステレオ、電動式ウィンド開閉装置、電動式ミラー、電動式ルーフウィンド、電動式・・・。マイコン制御で作動する、「快適」と言われるものは何でもついているに違いない。ずいぶん豪勢な“箱”になったものだ。

● ル・コルビジェは「住宅は住む機械」と言ったが、その言葉を借りれば、最近の「住む機械」はますます今の自動車みたいになっている。みんな空調機、ヒートポンプなんかつけちゃって、箱の中は快適、そして周辺に騒音と排気をまき散らす。もちろん窓ガラスには黒いフィルムでも貼って・・・、電動・・・、マイコン・・・もすぐそこだ。それは住む機械というよりは、ただの「機械」そのものになりつつあるのではないだろうか。機械によって快適さを保証されたエンジンぬきの自動車みたいなものだ。

● とにかく、僕はフォルクスワーゲンみたいな単純、明快な家が好きだ。

「建築知識」1985年11月号所収

最近のニュースで、延々と作り続けていた VW beetle のメキシコでの生産が終わったことを知った。 乗っていた頃の「 Fun to drive 」を思い出す。ここで大いに馬鹿にしている”電動式”なる諸設備がついた車に乗ってしまって何年か・・。そうだ、もう一度、あの「 Fun to drive 」をとりもどさねばと、反省しておりますです。
-----------aki/030724

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Posted by mine @ July 24, 2003 11:00 AM | TrackBack (2)
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