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 4. 映画って・・・

TAU·SHOKEN·KENCHI , THINK

LANDship/1997
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秋山東一のストックテーキング [4]

「映画ってディテールなんだ」

「建築知識」1985年10月号所収

●「ブレードランナー」は、なんたって最高のSF映画だ。もう3年も前の映画なんだけど。原作はフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」というやつなんだが、原作の渋さとはうって変わってラブロマンス的、あるいはハードボイルド的と原作とはちょいと趣がことなっている。舞台は2019年の未来都市ロサンゼルス。暗く、酸性雨がショボショボ降り続く、人口過密、人種ゴチャゴチャの世界だ。そこでの、レプリカントと呼ばれる高度な人造人間—アンドロイドと、ブレードランナーという対レプリカント特捜刑事デッカードとの闘いのお話なのだ。

●レプリカントとデッカードとの闘いのクライマックスの舞台は、ブラッドバリービルディングである。ブラッドバリービルは、ロサンゼルスのダウンタウンに現存のビルだ。行ったことのある人も多いだろう。1893年に建てられた建物だが、大きな温室状のトップライトの下が中庭になっていて、その廻りを各階の廊下、階段、すけすけの古風なエレベーターが取り囲んでいる。弁護士事務所とか、ちいさな事務所が入っていて、とても大事に使われている。手摺や、エレベーターシャフトはキャストアイロンで、とても美しい建物だ。

●その建物を非常にうまく活かして、映画は作られている。未来都市ロサンゼルスの空を低空で飛行する巨大な広告用飛行船のサーチライトの動きが、ブラッドバリーのトップライトを通して中庭、回廊を照らし出す。街の唸り、ネオンサインの光芒——。その中で光り、動くシャフトの影は妙な静けさを作り出す。中庭の床に埋め込まれたガラスブロックの小さな光が、そこに密やかに侵入するデッカードの足元を照らし出している。

●映画ってディテールなんだ。「ブレードランナー」ってその細部を発見しながら見ることができる映画なんだ。もう、ビデオで何回も見ているのだが見飽きるということがない。蒸気を吹き上げる街路、黄色いパーキングメーター、突然現れる自転車の行列、イタズラ書きだらけのTV電話、デッカードの飲むウォッカのグラスに溶け込む血、TVモニターに映し出されるグリッドとそのカタカタという音。そんなディテールが何回見ても見飽きない面白さなのだ。

●とにかく、僕はレプリカントの美女、レイチェルが好みだ。それも髪をおろさない、まだロボット然、アンドロイド然としている方が好みなのだ。僕は病気なのだろうか。人間の形をしたコンピュータ、あるいはコンピュータみたいな人間を好んでいるのか。これは問題だ。ロボットに向って“Say kiss me”なんてちょっと変態的な気分がなかなかよろしい。

「建築知識」1985年10月号所収

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Posted by @ July 24, 2003 11:10 AM
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