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卵をめぐる祖父の戦争

BOOKS

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卵をめぐる祖父の戦争
ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838

著者: デイヴィッド・ベニオフ David Benioff
訳者: 田口俊樹

ISBN: 978-4150018382
出版社: 早川書房
価格: 1,680-円(税込)

「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」が新しくなった……と聞きつけて、本書を手に取った。昔のことだが、このペーパーバックという判型や小口の黄色に、何かバタ臭い感じが気に入っていたものなのだ。最近はすっかり忘れていたが、新書判ブームでも、ちょっと背の高い判型が災いしてか、本屋の売場でも見なくなってしまった感じがする。

そのニューバージョンの第一弾が、本書「卵をめぐる祖父の戦争」なのだ。原題は City of Thieves 「泥棒都市」なんてもんかな。その都市とは、レニングラード(現サンクトペテルブルク)のことなのだ。邦題では「……戦争」というわけだが、その戦争とは第二次世界大戦……苛烈なる独ソ戦の中でも、厳しかったレニングラード包囲戦、900日にもわたって独軍に包囲されたレニングラード、飢餓や砲爆撃によって100万人以上の市民が死亡したと言われている。そのレニングラードの1942年の年頭の一週間、そこで起きた「卵をめぐる……」なのだ。

「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人を二人殺している」というのが本書の書き出しだが、作家であるディヴィッドが祖父から昔の戦争の話を聞くことから物語は始まるのだ。

17歳の祖父と若き脱走兵コーリャの二人に課せられた任務「12個の卵」をゲットすること、レニングラードにあるわけがない物を探して、厳冬の中、前線を越えて独軍占領地区にまで足を伸ばすのであった。そこで彼らの見たものは……、地雷犬、独軍将校専用の淫売宿、パルチザンの戦闘……捕虜……独ソ戦の残酷さそのものなのだ。道中二人の語る文学話、そして、のべつくまなくしゃべりっぱなしのコーリャの下ネタ話……、やぁ、面白い。

そして、最後の意外な展開、ちょっとほろ悲しく、そして、微笑ましい……二人の冒険の最後なのだ。

やぁ、面白かった。これは私にとって、とてもすてきなお話でありましたです。私の独ソ戦への興味、本書の細部のリアリティ……エンジンがまたごぼごぼとうなりをあげ、巨大な砲台をつけた野獣が動き出し、鋳鋼製のキャタピラのまわりに張りついた氷ががりがりと割れた。……なんてすてきであーる。

本書は「全米30万部のベストセラーを記録!」とあり、へーっと思ったが、本書には、その内容をマニアックにしない、多くの人に受け入れられるだけの面白さがあるのだ。


追記 101205

MyPlace の玉井さんもお読みになって、お気に召したようだ。
私が好きと言っても……、マニアックな……な、と言われそうだが、玉井さんが好きというと……皆が納得するのではないかと……ということはないか。

 ● MyPlace: 卵をめぐる祖父の戦争


Posted by 秋山東一 @ October 25, 2010 01:34 AM
Comments

玉井さん、どうもです。
本書をお気に召していただいたようで……うれしいです。MyPlace へのエントリー期待しています。

Posted by: 秋山東一 @ December 4, 2010 09:59 AM

昨夜、読了しました。
 さいわい雨が降り出し、帰りは自転車をおいて電車で帰ることになりそうだと、最後の30数ページを帰宅途中のために残しておきました。電車の中も地下道を歩きながらも、電車を降りてからもまだあったので踏切を待つあいださえ、ありがたく読みました。期待に違わず読後の気分もすこぶる爽快、いい小説でした。ありがとうございました。
図書館で借りましたが、いつかまた読みたくなりそうだし、そばに置いて置いておきたいので、自分で買うことにします。さっそくエントリーします。
 

Posted by: 玉井一匡 @ December 3, 2010 12:46 PM

せんりのいんきょ様、どうもです。
はい、本書は誰をも裏切らない冒険小説の傑作……と思っております。本書の時代背景をトレースしてみようと「攻防900日 包囲されたレニングラード」を覗いてみましたが、上下二冊で1000頁超え……、まぁ、覗くにとどめました。

Posted by: 秋山東一 @ October 27, 2010 05:33 AM

卵をめぐる祖父の戦争 今読み始めたところ
●トレイシー(日本兵捕虜秘密尋問所)
●優雅な暮らしにおカネは要らない 貴族式シンプルライフのすすめ 本物のセレブは何も買わない、何も持たない。貴族だからこそ書けた、本物の贅沢。ドイツ没落貴族の末裔がライフスタイルを見直す知恵を伝授。賛否両論が生んだドイツのベストセラー。
これらの本も読みました。

Posted by: せんりのいんきょ @ October 26, 2010 04:45 PM