1960年代の東京 | [ BOOKS ] |
1960年代の東京 路面電車が走る水の都の記憶
写真: 池田 信
解説: 松山 巌
ISBN: 978-4620606323
出版: 毎日新聞社
定価: 2,940-円(税込)
この1960年代東京の写真は、都立日比谷図書館の資料課長をしていた池田信(いけだあきら)氏(1911〜87)が、休日を利用し1961年から72年まで撮影したものだ。本書は、彼が残した2万数千点の写真から厳選した約500点を収めているのだ。モノクロの写真、何か気張ることない素人の素直な目がそこにはある。
それは1964年の東京オリンピックの開催前、新幹線が開通、そして大阪万博に至る日本が変貌していく時期に当たる。川があり橋がある、車も少ない広い道路には都電が走る。そして、そこにある東京の風景は、解説の松山巌が書いているように、何か静かで、落ち着きがあり、奥行きや深さを持っているように見える。
私にとっての1960年代、62年一浪後芸大建築科に入学、本書の解説を書く松山巌の3年先輩にあたる、恥ずかしながら(松山もそう書いているので……)2年留年して68年に卒業し設計事務所勤めを始める……そんな時期の東京なのだ。
住んでいるのは都下八王子だったし、都心を散策するような時間はなかったが、信濃町から都電に乗って霞町のレーモンド事務所にアルバイトに向かう車窓……等々、いつもの日常を忘れて、客観的な眼で東京という町を見る機会はあったのだ。
目次
1 日本橋、兜町、箱崎町、人形町
2 京橋、銀座
3 築地、明石町、佃島、月島
4 新橋、芝、三田、白金
5 赤坂、青山、六本木、麻布
6 目黒、品川、大森、田園調布
7 三軒茶屋、等々力、和泉
8 渋谷、代々木、表参道、初台、千駄ケ谷
9 新宿
10 飯田橋、神楽坂、早稲田
11 本郷、小石川、池袋、板橋、王子
12 上野、浅草、千住、柴又
13 神田
14 丸の内、日比谷、有楽町、永田町
地図
東京の河川と高速道路の関係図
終戦直後(1946年ごろ)の中央区の河川と橋
【解説】「池田信の危機意識とその帰趨」◎松山巌
「昭和36年、気づいてみると、オリンピック東京大会準備の為ということで、東京の町は俄に且つ極端にその容貌を変えはじめました。昨日までの町は壊され、掘割りは乾されて自動車が走り、川の上には高速道路ができて、下には水が、空には自動車が流れるようになったり、確かに一部では東京はきれいになりました。そして昔を偲ぶよすがも見当たりません。それどころか過去の道路行政の貧困さの責を、交通渋滞は都電のせいだとして、多くの都電の営業路線を廃止し、数年後には全部なくすそうです。
剰え、天下の大道から人間は自動車にはじき出され地下道にもぐらされたり、歩道橋で空中に追上げられたりしています。」
これが、松山巌のいう「池田信の危機意識」にほかならない。それから半世紀余り、この東京という都市の病根は深く、上っ面の奥に抱え込んでいるに違いない。
mniijima さんの Across the Street Sounds では、本書の出版以前に毎日新聞の記事として取り上げられたことを紹介している。
● Across the Street Sounds: 失われた水辺の風景
本書の奥付には、2008年3月20日第一刷、私の手元のものは、2009年2月25日第三刷とある。
Posted by 秋山東一 @ April 14, 2010 02:10 AMほんとですね。地面って本来公共のものであるはず。子供たちが外で遊ばなくなったことにも関係しているような気がしてきました。
Posted by: 今井孝昌 @ April 15, 2010 11:07 AMM.Niijima さん、今井さん、どうもです。
本書の松山巌の解説「……高速道路をつくるために用地買収の必要のない、いやじつは公共の大事な財産である川と水路がオリンピックという名目で、一気に消されていったのだ。……」の主張は激しく鋭いです。
最近の東京各所の開発……、それらも、本来公共のものである地面が……同じ目にあっているように思います。
60年代は、子供として泥の地面がどんどんアスファルトになっていくのを何となく感じていました。雨の日に自転車に乗っていると、泥がはねて困る。そんな場面がなつかしいです。
Posted by: 今井孝昌 @ April 15, 2010 08:47 AMTBならびに拙記事の紹介までしていただき、ありがとうございます。
巻末の松山巌が文中に繰り返していた「道路は魔物」という言葉が東京の景観を、生活をよく表しているのでしょうね。