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人間を幸福にしない日本というシステム

BOOKS

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人間を幸福にしない日本というシステム
 The False Realities of A Politicized Society

著者: カレル・ヴァン・ウォルフレン Karel Van Wolferen
訳者: 篠原 勝

ISBN: 978-4620310190
出版社: 毎日新聞社
価格: 1,835-円(税込)

本書は1994年に出版され33万部のベストセラーとなった。その後、訳者を鈴木主税とした新潮OH!文庫判から新訳決定版が2000年に出版されたが絶版で、古本でしか手に入らない。

昨日17日の朝日朝刊の一面見出しは「政権・検察 全面対決」とあったが、まさしく、昨年の選挙前から起こり、今回も起きた事態を、本書は完全に見透かしていたかのようだ。
第1部の「第4章 官僚独裁主義」の110頁に「検察は日本の民主主義の敵」とあり、つぎのよう書かれている。

「...................................検察の活動が政治家に狙いを定めると、人々はたいてい大よろこびする。実際、検察庁が非難されるときがあるとすれば、それは政治家に対して断固たる態度をとらないときだ。検察官が政界に狙いを定めたからと言って新聞が彼を非難することは、まずありえない。
 このようなまぶしい御光(オーラ)を、日本の検察官たちに人々が纏わせているのは、きわめて残念なことだ。それはいかにもつくり事めいたリアリティの代表例である。すなわち日本の司法にまつわるつくり事であり、実際、これは日本の政治システムのなかでもきわだってよくない例だ。あえて言わせてもらえば、日本の検察官たちは、日本の民主主義実現のうえで、最終的な、そして最も手強い障害物になりかねないと私は思っている。
 ...................................

 ..................................検察庁は、まず第一に現状維持に関心がある。それが秩序維持の最善の方法だと思われているからだ。
 これは、日本の民主主義にとって重大なことだ。なぜなら、既成秩序とはすなわち官僚独裁主義だからである。日本に民主主義の可能性を実現するためには、官僚の意思決定に政治家の支配が及ぶようにならなくてはいけない。それは現状を激しく破壊することになるだろう。官僚たちは、なんとかそんなことにならないように努めるだろう。

 日本の検察庁は法務省の統制化にあるから、結局は官僚制度全体の下僕ということになる。つまり、官僚たちが強力な政治家たちに脅威を感じはじめたら、検察が面倒をみるのだ。田中角栄にこれが起こり、金丸信にも起きた。小沢一郎やほかの改革派政治家たちにも同じことが起きるかも知れない。
 ...................................」


目次
 謝辞

第1部 よい人生を阻むもの

 第1章 偽りのリアリティ
      変革のための概念
      秘密主義
      「シカタガナイ」の政治学
      政治腐敗をめぐる幻想

 第2章 巨大な生産マシーン
      組織の奇跡
      消えた民間部門
      去勢された中間階級
      集団主義の神話

 第3章 麻痺した社会の犠牲者たち
      見捨てられた家庭
      プライバシーと女性たちの抗議
      市民への裏切り
      説明しない統治者

 第4章 官僚独裁主義
      「慈愛に満ちた」管理者たち
      厚生省の不健康な風習
      官僚のヤミ権力
      検察は日本の民主主義の敵
      あいまいさの悪用
      秩序という強迫観念

     
第2部 日本の悲劇的な使命

 第1章 日本の奇妙な現状
      官僚制と民主制の緊張関係
      日本の反民主的官僚たち
      欠けていた議論
      自発的犠牲の謎
      欠けている栄光
      安全保障としての経済
      わかりにくい陰謀
      状況の論理
     
 第2章 バブルの真犯人
      戦後日本の「征服欲」
      マネーゲームの威力
      希少価値をめぐって
      資本を安く手に入れる方法
      バブルの英雄たち

 第3章 不確実性の到来
      歴史の奔流
      アメリカの後ろ盾が消えた
      混乱をます要素
      古いやり方の失敗
      悲劇的使命の代償
      背景としての知の貧困

第3部 日本はみずからを救えるか?

 第1章 個人のもつ力
      無能と無関心
      惰性の克服
      情報の罠

 第2章 思想との戦い
      リアリティをつくる者
      「日本文化」という概念
      「調和」という幻想
      対立の必要
      「ユニークさ」という幻想
      権力の否認
      「日本人らしさ」
      知識人たちの裏切り
      「西欧中心主義」とは?
      文化相対主義の罠
      知識人をゆり動かせ

 第3章 制度との戦い
      市民チームのあり方
      「市民社会」の決定的重要性
      無関心をめぐる神話
      乗っ取られた世論
      新聞に大革命を!
      従順なる大学

 第4章 恐怖の報酬
      敵の大好きな戦法
      私の身に起こったこと
      真の市民の勇気

 第5章 成熟の報酬
      「外国モデル」の罠      
      侵食される欧米の市民社会
      恐怖心とロマンチシズム
      神経症にかかった国
      愛国心が試されるとき


カレル・ヴァン・ウォルフレンは続ける。
「..................................
 たしかにそうだ。でも政治家は腐っているのだから、検察が狙った政治家の身の上にその後おこったことは当然の報いだ、とあなたはおっしゃるかもしれない。もう一度申し上げるが、これは日本の政治制度への誤解の中で最大のものの一つだ。この誤解を解く三つの要素をしっかり認識してほしい。第一は、この本の前のほうでお話したように、政治家として名を成すには、大金持ちの家系に生まれないかぎり、金権政治の修羅場をくぐらざるをえないこと。第二は、政治家が選挙運動用の資金を集めるにあたって、どこまでが公式に許される範囲かきわめてあいまいなままだということ。第三は、恣意的な官僚支配のために、企業は政治家の取りなしに頼るのを余儀なくされているということだ。」

本書が出版された1994年は、衆議院の小選挙区比例代表並立制を核とする選挙改革法案が可決され、細川護熙首相が辞任し、羽田孜、そして、村山富市社会党委員長が首相となる……という政変の一年であった。それから、15年経て、民主党政権成立、やっと目に見えるようになった変革に、官僚達の最後の抵抗が始まったのか。


追記 100118

本書についている英語の書名は The False Realities of A Politicized Society だが、日本語の書名は「人間を幸福にしない日本というシステム」だ。この書名はなかなか優れているように思う。
もちろん、あまりに学術的な英語の書名より、売らんが為の工夫という面もあるが。なんとなく外人が書いたという雰囲気があるし、本書の内容そのものでもあるし……なんだな。
ベストセラーになったのは、この書名のおかげでもあるんじゃないかな。


Posted by 秋山東一 @ January 18, 2010 12:04 AM
Comments

玉井さん、どうもです。
私も同じです。タイトルが気に入って手にしたものの、ちゃんと読んだ記憶がありません。現在進行中の事態についてのブログ記事で本書が紹介されているのを読んで、本棚を探し見つけました。
検察がリークする情報でマスコミは一方的なまやかしの報道ばかりですが、ネット上では、それなりの報道がなされているように思います。

江川紹子さんが書かれている「東京地検特捜部の判断は常に正しい、のか」はまさに正論のように思います。
http://www.egawashoko.com/c006/000315.html

Posted by: 秋山東一 @ January 21, 2010 05:47 AM

ぼくは、この本を持っていながら途中でやめてしまいました。
中味をろくに目を通しもせずにタイトルが気に入ったので、日本についての文明論だと思いこんで買ったら、批判であるにしても官僚について書かれている本であるだけで、すっかり読む気をなくしてしまったのでしょう。
本棚から取り出して、さっそく110ページから読み始めました。
まさしく、いま進んでいることが15年も前に書かれているとおりなので驚いています。ベストセラーになったのなら、この内容を憶えているひとは沢山いるんでしょうが、日本人必読の本ですね。

Posted by: 玉井一匡 @ January 20, 2010 11:33 PM

cen さん、どうもです。
ずいぶんと昔に読んですっかり忘れていました。
そこにウォルフレンが書いている内容は、今、起きている事態そのままで、戦慄を覚えました。

Posted by: 秋山東一 @ January 17, 2010 10:28 PM

なるほど〜…と思いますです!

Posted by: cen @ January 17, 2010 09:37 PM