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フロム・ヘル

BOOKS

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フロム・ヘル 上 

著者: アラン・ムーア Alan Moore
作画: エディ・キャンベル Eddie Campbell
訳者: 柳下 毅一郎

ISBN: 978-4622074915
出版社: みすず書房
価格: 2,730-円(税込)

書店に本書を探しても、昔懐かしい「ビニ本」のように密封されており、中味を立ち読みするわけにはいかない。その外被を外すと体液に……血液にまみれたような本書が現れるのだ。

大判の上下二巻、この中に一九世紀末の英国、1888年、ロンドンの貧民街ホワイトチャペル地区で起きた連続猟奇殺人事件の犯人、Jack the Ripper「切り裂きジャック」が隠されているのだ。

時はヴィクトリア朝末期、その社会全体の縮図のように、女王陛下からスラム街の娼婦まで、すべての階層の腐敗と不安が充満するロンドンの陰惨な情景が、たくさんのレイヤーを通して浮かび上がってくるのだ。

作者はアラン・ムーア、コミック界の奇才が、この構想に十年かけたという傑作ノンフィクション・ノベルだ。その重厚にしてダイナミックな構成、周到に埋め込まれた伏線……、もう、本書の虜になったのも同然なのだ。

 ● アラン・ムーア『フロム・ヘル』日本語版オフィシャルサイト|みすず書房


目次
プロローグ 海辺の老人たち
第一章 若きS氏の愛情生活
第二章 暗闇の状態
第三章 脅迫、またはミセス・バレット
第四章 「王は汝に何を求めたるや?」
第五章 無視の報い
第六章 九月
第七章 破れた封筒
第八章 恋だにあらば
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第九章 地獄より
第十章 この世で一番の仕立屋に
第十一章 不運なドルーイット氏
第十二章 リーズ氏の凶夢
第十三章 クリーヴランド・ストリートに還る
第十四章 ガル昇天す
エピローグ 海辺の老人たち

ロンドン地図、およびホワイトチャペル地区拡大図
補遺 I 各章の註解
補遺 II カモメ (ガル) 捕りのダンス

Murder, Myth & Magic(柳下毅一郎
翻訳参考図書


本書の基本は1頁に9個のコマ割りだ。全編、それを崩すことはない。それは、ある意味でスタティックな印象だが、読者の集中力を最後まで切らせることはない。
本書の最後には、「補遺 I 各章の註解」と「補遺 II カモメ捕りのダンス」なる、本編の理解を深める(ここで初めて分かったことも……)章が用意されているのだ。

本書は上下二冊を最初から用意することを推奨する。最初から最後まで一直線に読解することは不可能だ。理解不能のまま次に飛び、又戻りと、徐々に全貌が分かってくるのだ。本書が邦訳されていることを感謝せねばならない。原書では私には無理というものだ。とにかく、すごい……としかいいようがない。

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フロム・ヘル 下 

著者: アラン・ムーア Alan Moore
作画: エディ・キャンベル Eddie Campbell
訳者: 柳下 毅一郎

ISBN: 978-4622074922
出版社: みすず書房
価格: 2,730-円(税込)

Posted by 秋山東一 @ February 1, 2010 12:04 AM
Comments

ケンさん、どうもです。
やっぱり、お若い……、私には一気に……は到底無理であります。いつたりきたり……で、どうにかでありますです。
ところで、同じくアラン・ムーアの「V フォー・ヴェンデッタ」を買い込んでおり、ちょびちょび読んでおります。

Posted by: 秋山東一 @ June 28, 2010 12:06 AM

読みました。よくよく考えると外国のコミックは初めて読んだかもしれません。若干登場人物の顔の認識がしづらいですが、それでも一気に読み終えました。といっても私はマンガを読むペースが随分遅いらしいです。ほぼマンガしか読まない家内に「遅~。あんたマンガ読むの遅いわ~」と小バカにされました。

Posted by: ケン @ June 27, 2010 07:00 PM

komachi さん、どうも、ごぶさたです。
アメリカン・コミックスの翻訳本の存在自体が稀なことですが、手にしたのは「マウス」以来です。
最初の取っ掛かりが辛いのですが……それを過ぎれば、もう、夢中です。誰でも知っている事件が、その時代ごと浮かび上がってくるような、そんな感じがしました。

Posted by: 秋山東一 @ February 3, 2010 10:50 AM

やはりakiさんは買いましたね。みすずのサイトが好評のようで、5刷、12000部までいっているとか。

Posted by: komachi @ February 3, 2010 08:45 AM

本書の翻訳者、柳下毅一郎(やなしたきいちろう)は1963年生れで東大建築家出身、山形浩生と共に「東京大学SF研究会」に属し、雑誌「宝島」の編集部で町山智浩と同僚だったそうだ。

Posted by: 秋山東一 @ February 1, 2010 10:32 AM