060705

個人の‘自立’をうながす住宅システム「Be-h@us」

Be-h@us , THINK

HOTWIRED_030415_1.jpg

Wired News (www.wired.com) の日本語版、WIRED NEWS (www.hotwired.co.jp) は、2006年3月末で休刊したが、新しく WIRED VISION として2007年5月に再刊された。

WIRED NEWS に掲載されていた、2003年3月19日、Hotwired Japan 編集長の江坂 健(えさか たける)さんのインタビュー記事「個人の‘自立’をうながす住宅システム「Be-h@us」」も。2008年3月、"日常をハックする人々" と題するインタビュー記事の一つとして再び掲載されるようになった。

 ● 秋山東一(建築家)インタビュー|WIRED VISION


将来的にそれも読めなくなってしまうかもしれないと思い、無くならないうちに対処しておこうと考えた。その記事のテキスト版をバックアップしておいたので、それをエントリーしている。


Be-h@us は、現在、「NPO法人BE-WORKS」のシステムとなり、大いに展開中である。

Be-h@us の精神、その有り様は、この「個人の‘自立’をうながす住宅システム『Be-h@us』」の江坂氏によるインタビューによく表現されていると考えている。その精神、有り様を実現させるのは、非営利の「NPO法人」こそ相応しいと今考えている。

ECOWIRE Interview

秋山東一<<建築家>>インタビュー
Toichi Akiyama

個人の‘自立’をうながす住宅システム「Be-h@us 」

 これからの日本社会の成長は、かってのように量産拡大ではなく、個々の生活の‘質’をいかに獲得するか、ということが課題になるのだろう。そこで重要なのは、「住宅」のあり方だ。欧米に比べて住環境が劣悪だ、とこれまでもよく言われてきたが、この問題を解決するための具体的な選択肢は乏しい・・。そんなことを考えていると、日本の風土にあった「木の家の作り方」をネットワーク上で‘共有化’し、オープンソースのような存在にしようとするBe-h@usというプロジェクトを知る。
 このプロジェクトを考案した秋山東一氏は、屋根面の太陽熱で空気を暖め、その暖気を住宅内部に導入するというパッシブソーラーシステムのOMソーラー向けに、フォルクスハウスというシステムを提案している。こちらはすでに、日本各地で2000軒以上が施工されている。秋山氏がこの考えをさらに推し進めたものが、Be-h@usだ。
 Be-h@usでは、セルフビルド・DIYするユーザーをも想定し、部材マニュアル、部材価格がネット上に公開され、さらに設計支援ツールまでが、シェアウェアとして公開されている。
 その秋山氏に、まず、日本の住宅問題の現状をどう捉えるのか、ということから伺った。


●個人個人が住宅を「作る」という行為を取り戻す

──日本の住宅の問題を、どうお考えですか?

 美しくない街並、日本中どこにいっても同じ風景、そして、個々の住宅は「高価・不健康・短命」であるという欠陥を指摘されています。ある意味で「ハードの問題」の解決を目指す答えは決まっているように思います。高気密・高断熱そして換気、自然素材、加えて高い耐用性をもった設計といったところでしょうか。それは更には、エコロジカル、サスティナブルという形の提案へと向います。
 しかし日本の住宅の問題を、ハードの問題だけにしてしまうのは大きな間違いであると考えています。大きく宣伝され、ベストセラーになっている『いい家が欲しい』という本があります。「既に建ててしまった人は読まないでください。ショックをうけますから」というような宣伝コピーで、住宅のハードの問題とユーザーの損得だけという話のようです。日本の住宅の問題は、個々の住宅の「ハードの問題」で解決するわけではありませんし、美しい街並を取り戻すこともできません。

──それは、どういうことですか?

 現代の住宅の問題は、生産者と消費者とが分断している、ということにあるのではないかと考えています。本来、住宅の作り方は伝統的、地域的な「共有知」に基づいたものであったはずですが、それを支えていた伝統的地域共同体の崩壊とともに、ハウスメーカーや工務店、設計者というような、生産組織の経済行為としての住宅の作り方に取り変わってしまったのです。

──なるほど。

 今、個人が住宅を得ようとした時に必ず行われる行為は、工務店を選択、住宅展示場でハウスメーカーを選択、あるいはよく分からない設計者を選択する。そこには個人が「作る方法」を「選択」したという行為はあっても、決して「自分が作る」という発想や自覚はありません。これは生産する側と消費する側に引き裂かれている不幸な世界であって、消費者には「選択」することしかできないのです。これは現在、我々の属する世界の問題なのです。一人一人の個人が、住宅を「作る」という行為を取り戻さなければならないのです。

──一般の市民は、住宅にどう関わるべき、とお考えですか?

 一般の市民と、そうでない人=非一般市民との違いは、やはり、消費者と生産者、素人と専門家の違いということになるのでしょう。消費者であり素人である一般市民が、自分自身の家の作り方を取り戻すことが、 Be-h@us の目的といえます。セルフビルド、知的セルフビルドすることは、住宅を理解することから始まり、Be-h@us を鍛えていくことにつながっていきます。住宅を作る以前から、住宅を作ることを学び、理解し、自己を鍛えるべきです。そして、だれもが「知的セルフビルダー」になるのです。

──自分で建てる=‘セルフビルド’の重要性を、もう少し説明していただけますか?

 自分の住宅をセルフビルドするということ、それは、唯一、生産者と消費者の分断という現代の問題を解決する方法だと思います。「労働者=消費者=市民が自分自身で住宅を作る」というのは、まったく矛盾のない世界です。しかし、誰でもセルフビルドができるわけではありませんし、どこでもできるわけでもありません。
 セルフビルドというと、ログハウスをイメージし、汗臭い姿をイメージされますが、そういう形だけではありません。計画し、理解し、という知的な部分が大部分だと私は考えます。その知的な部分、自分自身で理解し実行することを「知的セルフビルド」と呼びたいと思います。
 昔、AppleII の時代、スティーブ・ジョブズが「手で持ち上げられないコンピュータを信用してはいけない」なんて言ったという話がありますが、セルフビルドできない住宅、あるいはセルフビルドできるようになっていない住宅を信用してはいけない、と言えると思います。

──自分でも建てうる、ということは、ある種の「自由」を獲得する、ということでしょうか?

 そうです。自分自身で「自分の家を建てる、建てうる」ということは、「建てるという自由」を獲得したことになります。この自由は、自然と与えられるものではありません。学習し、理解し、まさしく「獲得」することなのです。


●誰でも理解し作ることができる住宅システム「Be-h@us」

──日本の住宅が持つ問題への秋山さんからの解答が、Be-h@us ということですね。Be-h@us の特徴を教えてください。

 Be-h@us はメカノ(金属製の組立玩具)のように部品・部材が工場で作られ、その組立説明書によって、どこでも誰でも、とても高性能な自分の家を作ることができます。セルフビルドできるようになっている住宅システム、誰でも理解し作ることができる、あるいは作ってもらうことができる住宅なのです。

──「高性能」というのは、どういうことですか?

 この「高性能」は、つい最近得られるようになったものなのです。ちょっと前まで、住宅にどのような性能が必要なのかも分かっていなかったのです。高気密・高断熱・換気装置を備えた住宅が、「高性能」な住宅なのです。 それはBe-h@us のような、集成材・金物・パネルによる工業生産化されたシステムだけが得られるものなのです。
 この「高性能な住宅」という概念は、北海道から生まれました。断熱性能は誰でも理解できますが、気密性能を上げるというのはどういうことなのか。それは空気が移動することにより室温の30%も失われ、また、空気に含まれる水蒸気の移動が結露を引き起こします。こうした「高性能な住宅」の必要条件を満たしている、Be-h@us の集成材・金物・パネルというシステムは、多くの経験と多年にわたる技術開発の成果として生まれたのです。

──デザインや大きさにも、柔軟な選択肢がある、と考えていいのでしょうか?

 システムとして設計されているということは、限定を与えるということです。無限の選択肢があるということは、なんにも選択肢がないのと同じことなのです。Be-h@us は、そのシステムの中にその性能を担保する確固たる限定と、ユーザーの自由な発想を妨げることのない「柔軟な選択肢」が用意されています。メーターモジュール、と三種類の階高、約束事はほんの少しなのです。Be-h@us は規格で縛り上げるシステム住宅ではありません。いろんな Be-h@us がありえます。でもみんな Be-h@us です。・・というように、それがメカノである所以です。

──始めに、これからの住宅の提案は、「エコロジカル、サスティナブルという形になる」とおっしゃられていますが、この点に関してBe-h@us のアプローチ、解決策を教えてください。

 今、猫も杓子も、エコ、そしてサスティナブルです(笑)。それは自分自身の足元の部分をないがしろにして、お題目だけが先行しているように思えます。
 Be-h@us のシステムは、その高性能をもって環境に負荷をかけない住宅を作りだします。その徹底ぶりは、その住宅が遠い将来、廃棄されるゴミになる時まで配慮されています。また、Be-h@us にオプションとして附加される機能、Be-air という「夏涼しい家」を作る換気システム、Be-solar という壁面、屋根面を集熱面とするソーラーシステムは、そこでの生活を十分エコロジカルなものにします。それも、しっかりとした Be-h@us の躯体・箱があっての仕掛けなのです。
 Be-h@us 自体がエコロジカル、サスティナブルという現代的課題に十分な解答たりえるものと考えています。

──日本で住宅を建てる者にとっては、「価格」というのは、ひじょうに大きな要素です。現在の住宅の「価格」の状況については、どうお考えですか? 

 日本の住宅が、海外の住宅と比較して高価であるということは事実です。また、その短命ぶりがますます高価なものにしています。その原因も、流通・工法・性能・施工体制とたくさん語られています。
 私は、市民側の、自分の家をセルフビルドしよう、あるいは、自分の家を自ら維持し住み続けようという意志の欠如、家を作ることを学び理解し、自らが責任をとろうとする覚悟の欠如が、その住宅を高価なものにしていると思います。例えば工務店にとって、ずっと責任をとらさせられ、メンテナンスさせられる状況で、低価格な住宅を提供できるでしょうか。

──住宅に自ら積極的に関わり、自分でメンテナンスするようになれば、長期間維持でき、全体を見たときコストも下がる、ということでしょうか? 

 その通りです。

──しっかりと維持していった場合、Be-h@us はどのくらいの年月、保たせられるのでしょう?

 Be-h@us の木でできた構造物とその空間自体は、50年もそれ以上も存在しうると思います。それが住宅として機能しなくなるのは、「用をなさなくなる」ということです。しかし、そこに附帯している設備機械類、給排水設備、電気設備、空調設備のような機械の部分は、住宅本体のような長い寿命はもっていません。「耐用性をもった設計」と言いましたが、時間の中で変化に耐えられる「大きな一つの空間」を、家具でしきっていくようなイメージでとらえていただけたらと思います。
 自分で作った家こそ、自らの責任で維持し発展させることができます。時間の中で、家は変化していきます。また、変化させていかねばなりません。


●部材の価格、マニュアルや設計ツールもオープンに

──「間取り」という考え方がないように思いますが、ということは、住む側が、その時の必要に応じて工夫するというような「自由度」がある、ということでしょうか?

 昔の、畳の部屋が田の字にならんだような平面の住宅は、フレキシブルでゆるやかに機能を果たしていました。ある意味で現代の「間取り」は、住宅を長持ちさせない元凶のような気もします。住宅展示場に行けばいくらでも見られますが、小さな細かい部屋がたくさん並んでいる「間取り」です。将来、物置にしかならない「子供室」やら、なんやらの集りです。小さな部屋をたくさん集めても、住宅にはなりません。
 Be-h@us は大きな一つの空間、間仕切りはゆるく、少なく、おおらかに、そんな平面を、と思っています。時間とともに変わる住まい方に耐え、Be-h@us の性能を十分に活かすことができます。いわゆる「間取り」に規制されない自由を楽しむべきです。

──また、Be-h@us では、部材の価格をすべてオープンにされています。その理由を教えてください。

 Be-h@us が全ての価格を公開しているのは当然のことです。部品部材の材質、寸法等々の仕様が公開されるのと同じく価格の公開は重要なことです。どんな小さな部品でも価格が明らかになっていることが、公正な全体の価格を表示し、組立て費用のような人件費のコストまで公正な価格を導くことができると考えています。

──マニュアルや設計ツールも、ネット上でオープンにされていますね。

 Be-h@us を自分のものとして捉え、我が身のものとして欲しいと考えています。マニュアルの中身は、ただの仕様、取扱説明、設計方法の説明・解説だけではありません。そこにはある種の限界、そのシステムの設計自体が仕込んであるのです。
 それを理解することによって、その家の作り方を皆で共有しうるのではないかと考えています。

──秋山さんは、以前、OMソーラー(屋根面で空気を太陽熱で暖め、その暖気を住宅内部に導入するというパッシブソーラーシステム)向けに「フォルクスハウス」を考案されていますが、フォルクスハウスとBe-h@us との違いを教えてください。

 フォルクスハウスは、(株)OMソーラー協会というフランチャイズ組織の、そこに参加した加盟工務店の為の仕掛けだったのです。フォルクスハウスの最初は、高気密・高断熱という高性能な躯体にOMソーラーを付けたら面白いだろうという、私の単純な発想から生まれました。
 フォルクスハウスという、工業化された木造軸組工法の部品・部材の設計、それらを組立て住宅を作るシステム、そのマニュアルを作るという作業の過程の中で、このシステムの重要性に気がつきました。それは、どんな意匠の住宅かという皮相なものではなく、ある意味で、この工業化された集成材・金物・パネルの住宅が、いままでの住宅の作り方そのものの変革をなしうる可能性に気づいたのです。そして、その考え方として、セルフビルド、知的セルフビルドの考えへと発展してきたのです。
 しかし、OMソーラーという組織自体はあくまでも、技術の独占と縄張りに基づいた、資本制の中での限界をもった組織だったのです。その中では、フォルクスハウスにセルフビルドという考えは矛盾してくるのです。もっと自由に、もっと過激に、どこでも誰でも、オープンでフリーな住宅を作るシステムを作りだすため、OMソーラー協会から飛び出して、新しく Be-h@us として作り直したのです。

──Be-h@us はフォルクスハウスを進化させたもの、と言っていいのですね。

 Be-h@us は、フォルクスハウスを進化させました。集成材・金物・パネルによる在来木造軸組工法は同じですが、そのハードウェアの全ての設計が進化しています。しかし、ハードの進化よりも、ソフトウェア、そのシステムが、誰のために、どうあらねばならないのか、セルフビルド、知的セルフビルドの考えへの進化が一番大きいと思っています。


●オープンソースのような住宅

──インターネットを利用して、住宅を建てようとする人、設計者、施工者による「CITROHAN.net」というネットワークを作られていますが、そうしたネットワーク組織を作ろうと思われた理由を教えてください。

 インターネットは、自分の考えを多くの人達に伝えることができ、また、多くの人達の声も聞くことができる道具としてあると思います。 Be-h@us という家の作り方を、全ての人達にとっての、新しい「共有知」であって欲しいと考えた時、インターネット/ネットワークの世界こそが、それを形成していく場になるであろうと考えました。
 インターネット利用の一つとして、メーリングリストは、多くの人達と情報交換し論議の場として有効だと信じています。これは何人かの建築家によるメーリングリストでの、建築設計についての論議が有効であったという経験に基づいています。
 CITROHAN.NET で、多くの方々と Be-h@us についての情報交換、論議が深まってくれることを期待しているのです。しかし、インターネットの世界でのより有効な道具の登場で、メーリングリストより有効な場が作られるならば、新しい道具による CITROHAN.NET へと進化したいと考えています。
 ネットへの参加者、個々人の自由の上に、他者への信頼と共感をよりどころに、互いの知識や経験を共有したり交換していくネットワーク、CITROHAN.NET であって欲しいと考えています。

──オープンソースのソフトウェアのように、インターネット上のネットワークによって、「家の作り方」を構築していこう、ということですね。

 そうです。Be-h@us のシステムは、コンピュータの OS(オペレーティング・システム)と同じようなものであると考えているのです。Be-h@us で一戸の住宅を作るということは、その OS に基づいたアプリケーションの一つなのです。工業化された木造軸組工法としての Be-h@us システムは、一戸一戸の住宅を規定するものではなく、基本的な仕様「工業化された集成材・金物・パネル」を規定しているのに過ぎないのです。
 そのシステムの全て、価格・マニュアル・ツールを公開するということによって、多くの人達と一緒に、あのリナックス(Linux) のように、それを鍛え上げていこうということなのです。

──コンピュータ・カルチャーからの影響を感じますが、コンピュータとの出会いは、住宅設計において、秋山さんにどんな影響を与えましたか?

 AppleII から Mac 、とコンピュータを使い続けてきました。そして、コンピュータの考え、というようなものを学んできたように思います。テッド・ネルソンの Computer Lib、アラン・ケイの「パーソナル・コンピュータの思想」というものです。それをもって、既存の状況を変革することを学んできたように思います。コンピュータやその能力を、それを使う個人のものとするという変革です。それと同じように、自分自身の専門分野である建築・住宅を作るということを、「個人」にとりもどしたいと考えるようになりました。その今が、 Be-h@us といえると思っています。

──Be-h@us は、これからどうなっていく、とお考えですか?

 Be-h@us に止まらず、Be という大きな流れを作りたいと考えています。

──「Be 」というのはどういうことですか?

 「Be という大きな流れ」と言ったのは、家の作り方の Be-h@us に限らず、現在進行中の「夏涼しい家」を目指す換気装置 Be-air や、これから始まるソーラーシステム Be-solar、というように、たくさんの Be の技術、考案が考えられるからです。また、それらは Be-h@us だけのものではなく、多くの家に応用されるものになるからです。
 家を作ることも、そこで生活することも、その家を維持することも、その知識、知恵を社会的に共有し発展させていく、公開と共有と協力に基づいた世界を作りだしたいと考えています。
 そのように「家の在り方」が、社会的に共有しうるものであるならば、その集合である街、そして都市もまた、共有しうるものとして、美しく豊かになるものと考えています。

──「Be 」というのは、商品名、ブランド名、ということではなく、‘ある、存在する’というような意味を込められているということですか?

 はい。Be は「存在」するの Be です。でも、少々偉そうすぎるかもしれません。もちろん、ビートルズの「Let It Be」、あるがままに・・。大らかに住まいをとらえてもらいたいと考えています。
(取材:2003年3月)



Matrix Back Numbers

ご意見・ご要望は編集部へ
go to Frontdoor

Produced by NTT Resonant Inc. under license from Wired Digital Inc.

Posted by 秋山東一 @ July 5, 2006 12:37 PM
Comments