050828

Armchair Modeler

BOOKS , TOYS , TRANSPORT

shaymodel_1.jpgこのヘンテコな蒸気機関車はシェイ(Shay)という。

上部は見慣れた蒸気機関車のシルエットだが、下部は前後の台車にのった貨車にしか見えない。

通常の蒸気機関車と異なるのは、車体右側に3気筒の縦型蒸気エンジンを備え、クランクシャフトからのびた傘歯車で前後の台車の全ての車軸を駆動させるのだ。Geared Locomotives と言われる。

機関車の燃料や水を含めた全重量をその車軸にのせ、索引力・登坂力に優れ、独立した台車で駆動するため小回りが効くのだ。
米国人技術者シェイ(Ephraim Shay)氏が1880年代に考案した機関車は、北米・中南米、台湾・日本の山奥の森林鉄道の力持ちとして大いに活躍したのだ。

1/16・89mm(3吋半)ゲージのライブスティーム(実際に蒸気で走る)のシェイを作ろうというのがこの本なのだ。
完成した機関車は全長800mm 重量28kg 大人10人を索引する力があるのだ。

shaybook_1.jpg


ライブスチームのシェイを作ろう   図解 ライブスチームの最新技術

著者: 平岡幸三


ISBN: 4905659159
出版: 機芸出版社

定価: 8,500-円(税込)


本書は、ネット上では[クロネコヤマト・ブックサービス]で入手可能である。

shaybook_60.jpg


これがすごい本なのだ。

A4大判のハードカバー367頁にわたって、精密な図面と解説のオンパレードなのだ。第1部は「シェイ型蒸気機関車の作り方」、第2部は「ライブスチーム共通の話」として模型蒸気機関車の歴史から、その製作のための図面、材料、工具とその最新のその全てが語られている。

本書の著者にして、このシェイの設計者の平岡幸三氏は、とんでもない方なのである。

「生きた蒸気機関車を作ろう」という前書もこれ以上の本はないという評判であったが、このシェイの本は、25年前に米国で出版された「Building The Shay」に続く「シェイの製作本」、それも日本語で.....なのである。

我が国の模型愛好家に「日本人に生まれてよかった」と言わしめているというのもむべなるかな、なのである。

前書でシェイの3気筒エンジンのクランクシャフトを一つの金属塊からどう削り出すのか、それが大いに話題であった記憶があるが、本書の図解、写真とも、その迫力に圧倒される。


本書の数々の設計図、図版の全ては平岡氏自身の手になるものである。

それも全て手書き、ロットリングによる墨入れという手間のかかった素晴らしいものである。本書の第2部で「図面の話」として4頁以上にわたって論述されているが、「CADと手書き図面の比較」としての最後に「........せめて趣味の世界にだけでも残ってもらいたいというのが願いです。」とある。
これだけの図面を見せていただいて、その有難さ、その見識に、なんとも頭が下るのである。

これらの図面類は、その製作のためのという目的を超えて、一つの独立した作品と言うべきものなのである。


さて、表題の「Armchair Modeler」だが、アームチェア・モデラーって、「アームチェア・ディテクティヴ(Armchair Detective)」のモデラー版というものらしい。

アームチェア・ディテクティヴは「安楽椅子探偵」のことだが、自ら事件現場にいかずに、ゆったりと椅子に座ったまま、手元にある証拠等だけで推理し事件を解決する探偵のことをいう。それと同じように、自ら模型製作を行うことなく、模型の本や図面を楽しむ人達をアームチェア・モデラー(Armchair Modeler)というらしい。さしずめ、私なんぞもその一人なのであろう。

この「Armchair Modeler」は、本書の前書きで初めて目にした。
「..........これも模型趣味の立派な一分野です。模型人口の大きな部分を構成しており、このような人達が豊かな土壌となって模型趣味の文化を支えているといってもよいでしょう..........」と、平岡氏は言ってくださるのだ。作りもしないのに、このような書籍を購入する、それだけでも支えている.....っていうことになるのかもしれない。

本書は大部なものであるが、模型製作の図面、その解説書というものを超えて、一つの模型製作を通じての「思想」を語っているものなのである。さきほどの「図面の話」から「作品の品位」という話にいたるまで、それはもう平岡幸三氏の思想というべきものなのである。

本題のこのシェイについての簡単な紹介自体から「.....文明史上、左右非対称の交通機関が幾つか試みられましたが........SHAY型機関車はそれら数少ない例外の中でも傑出して成功したものと言えます。........」とくるのである。

模型製作を超えて、多くの「Armchair Modeler」とその予備軍に、読まれるべき本である、と同時に所蔵されるべき本と考えるのだ。

Posted by 秋山東一 @ August 28, 2005 04:42 AM
Comments

平岡幸三 様

わざわざこちらにお立ち寄り下さり、過分なるお言葉をいただき恐縮いたしております。
ご著書について勝手なことを申しておりますが、その内容、その全てに感服いたしております。それを、模型制作書というジャンルを越えて、多くの方々に知って欲しいと思っているのです。
Armchair Modeler の一人として、今後のご活躍を期待いたしております。

Posted by: 秋山東一 @ January 1, 2006 05:29 PM

昨年夏貴サイトを見つけ、過分なご評価に痛み入っていたところです。
芝居に見巧者というのがあるそうですが、貴台の場合「読み巧者」というか、見方が非常に鋭く的を射ているのに感服いたしました。ご推察の通り、私の場合、模型作品と図面は同列もしくはそれ以上の位置づけとしています。
的確なご評論まことに有難うございます。
失礼ながら、元旦を期にお礼申し上げたくキーボードを叩きました。
2006年元旦 平岡幸三

Posted by: 平岡幸三 @ January 1, 2006 01:48 PM

この平岡幸三氏、かって、我畏友の一人、吉松真津美氏がお会いして教えを請うたと記憶していたが、誤解であったようだ。
お会いすべくコンタクトしたが、平岡氏が海外出張でその願いかなわなかったと、最近お聞きした。

吉松氏、ご自身の作りかけのシェイのエンジンのクランクシャフトなぞを秘蔵しておられるのかも知れないな。

Posted by: 秋山東一 @ August 28, 2005 09:13 AM