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東京の公園と原地形

BOOKS , JEDI

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東京の公園と原地形

著者: 田中正大


ISBN: 4877512721
出版: けやき出版

定価: 1890-円(税込)

「原地形」とは「人の手のまだ入らない自然のままの地形」のことである。

都市化された現在の東京の風景から「原地形」を見いだすのはなかなか難しい。しかし、多くの公園や庭園にはその原地形が残され、それが景観として大いに活かされているのだ。

本書は、武蔵野台、丘陵地、崖線の原形地形である、谷戸(やと)谷津(やつ)谷(やつ)が、どう優れた景観を構成しているのかを分析していく。

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本書の図版1-1-1  多摩丘陵の谷戸の風景

谷戸とは、三方が高台に囲まれ一方だけが空いている地形をいう。

本書の上記の図版で明らかであろう。谷頭(やとがしら)、谷底(こくてい)、谷口(やぐち)で構成される。湧水(ゆうすい)による田圃、周辺との高低差と開口部、三方を里山の雑木林に囲まれたサンクンガーデンのような魅力的な空間がそこにある。
谷戸は関東ローム層で発達した関東地方特有のものらしい。

赤坂見附からほど近い、ホテルニューオータニや赤坂プリンスホテルに囲まれた、明治の元勲大久保利通の受難碑のある清水谷公園から始る。その「谷」のある名称から、その原地形が谷戸であることを古地図、その由来から分析していく。
私の行ったことのある清水谷公園、石神井公園、砧公園、小金井公園、明治神宮外苑、新宿御苑等々、その景観の隅々に目をそそぎ、著者は原地形を読み取っていく。人工的にしつらえられた公園・庭園の下地に埋まっているかっての谷戸が見えてくるのだ。
その最大のスケールの谷戸が、江戸城築城で形成された半蔵堀・千鳥ケ渕など皇居をめぐるお濠だったとのことだ。

東京のお馴染みの場所、渋谷、北沢、大久保、池袋といった地名には、かつて東京各地に活きていた谷戸の痕跡なのだ。その遠い記憶が地名に保存されているのだ。

東京の公園を分析して分かること、それは、多くの公園・庭園が原地形である谷戸を活かして、すぐれた景観を構成しているということなのだ。すぐれた公園は「自然の地形の呼びかけ」に耳を傾けて設計されている、というのが著者の言葉だ。


「本妙寺坂」
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先日、根津・谷中界隈をご案内いただいた masa さんのブログ「Kai-Wai 散策」のエントリー「本妙寺坂」、それに触発されて現地にでかけて「aki's「Kai-Wai 徘徊」本妙寺坂」のエントリーとなった。

今回、本書によって masa さんの「この坂のある風景が…。風景としての優れた骨格がある、とでも言ったらよいのでしょうか…。」の全てが解明できたと思っている。

そこはまさしく「谷戸」のある場所なのである。この本妙寺坂に直行する坂、菊坂上道、それは本郷通りから谷戸となって北西方向に刻み込まれ、それに直行する形で本妙寺坂があるのである。上図の等高線からそれを読み取ることができる。
そんな景観を構成する要素をきちんと把握されていた masa さんは既にこの本をお読みになっていたのではないかととまで考えてしまった。
私が現地で感じたサンクンした構成、それは谷戸という自然地形にある大きな要素として今回理解できるようになったのである。

本書の最初の図版としてある「多摩丘陵の谷戸の風景」の写真、多摩丘陵の谷戸、それは「キャナルシティ博多」そのものに見えるのである。
キャナルシティの設計は人工的に「谷戸」を構成したものなのである。


追記 050822

早速、MADCONNECTION の五十嵐さんから地図が送られてきた。

From: XXXX@spaceshop.co.jp
Date: 2005年 8月 22日 10:41:09 JST
Subject: 明治17年本妙寺坂界隈
To: XXXX@landship.co.jp

明治17年3月に参謀本部陸軍部測量局「五千分の一東京図」の本妙寺坂界隈です。
未だ、水田、茶畑、桑畑が残っていた時代ですね。


click!

Posted by 秋山東一 @ August 23, 2005 12:02 AM
Comments

槇文彦・他共著の「見えがくれする都市」(鹿島出版会SD選書)の三章「微地形と場所性」(文責・若月幸敏)では江戸・東京の都市の成り立ちを微地形という観点から捉えていて、とても興味深い論文です。
少し引用すると、「、、、大都市の中でも東京は開析谷と台地が複雑に入り組み、いわば地形のしわに左右されながら町が形つくられてきた形跡がある。このような地形的特徴と相俟って、微地形にひそむ場所の力、すなわち土地霊などの存在を感じとり、場所性を豊かに醸成してきた例が数多く見られる。、、、中略、、、場所が持っている潜在力を生かしてものを作ってゆくという考え方は、場所の制約から開放され自由にものを置くという近代の計画手法とは対照的です。、、、」
用語:微地形
http://www.science.aster.ersdac.or.jp/jp/glossary/jp/hi/microtopography.html
考えてみると、現在では江戸の微地形を忠実にそのままトレースしているのが首都高というのは皮肉です。それでも僕は首都高を運転しながら江戸の微地形を感じとり、いにしえに思いをはせたりします。

Posted by: iGa @ August 26, 2005 10:03 AM

先日コメントさせていただいた翌日に購入し、読み始めました。僕は、生意気にも、日本の庭にも興味がありましたので、本書の内容は尚更面白く感じます。
これからは、ビル郡に隠された谷戸を見つける楽しみができました。本妙寺坂につきましても、谷頭や谷口を探していずれエントリーできたら…と思っています。
おかげさまで、散策の楽しみが増えました。ご教授いただき、本当にありがとうございました。

Posted by: masa @ August 26, 2005 03:27 AM

amazon.comに注文しました。楽しみにしています。
毎日の自転車通勤で、試行錯誤の末にたどり着いたルートは、高台の足下をうねる裏道です。おかげで、地形を意識しながら走りますが、ところどころで元の地形を壊して住宅開発が進みます。目白の学習院の下に、S友不動産がまずは斜面を削り、もとの丘陵よりもずっと高い建物をつくるのです。

Posted by: 玉井一匡 @ August 25, 2005 09:31 PM

masa さん、こんにちは。

この本、内容が具体的で、とてもとても面白く読めました。
すくなくとも「風景の骨格....」に参考になるということ以上に、「その公式を証明」ってな感じになること請合いです。
こんな本があるなんて、なにも知らなかったのですが、今月初めの朝日新聞の読書欄で紹介されているのを発見したのです。

Posted by: 秋山東一 @ August 23, 2005 08:13 AM

父母の所へ行っていまして、出遅れました。TBをありがとうございました。こんな本、読んだことどころか、見たことすらありませんでした(^^; 「キミ、読んでおきなさい」とおっしゃっているのだと判断し、速攻で入手読破の予定でいます。非常に興味を感じます。
次々に建設される大規模なビルで、原地形がどんどん隠されていきますが、単にボケッと眺めているだけでなく、こうして"スケッチ"もし、かつ"計測"までするものなのですね。本当に、本妙寺坂関連のエントリーでは、勉強させていただきました。こういう勉強はワクワクします。感謝いたします。
谷戸の様子がわかり易い地図をお送りくださったiGaさんにも感謝いたします。余談ですが、iGaさんがお送りくださった地図では、先日ついに全て取り壊された足軽長屋とおぼしき建物が5棟並んでいるのが確認できますね。「真砂町」の文字の左下です。

Posted by: masa @ August 23, 2005 03:20 AM