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コンベックス

Architecture , Stationery

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学校(東京藝術大学美術学部建築科)に入ったときに支給された製図板、T定規、コンパス等々の製図道具のなかにコンベックスがあった。

それは、図面を書くための製図用具とは別な意味をもった道具だった。

まだ、建築のなんたるか、設計のなんたるか、図面もなんだか分からない1年生に、一つの教育的な道具としてコンベックスがわたされたのだ。

「君、この高さは何だね。測ってみたことはあるのかね。測ってみたまえ」というように、まずは、何でも測ってみるように教育された。

それは、設計者としての物に対するスケール感、人と物との関係を教育する道具だったのだ。それ以来、いつも”手の届くところにある道具”になってしまった。

今は、もう10年も使っているコンベックスが、僕にとって一番大切な道具だ。ちょいと見当たらないと、特にその時必要でなくてもひどく落ち着かない気持ちになってしまう。インナースケールも付いていて、内法が簡単に測れるところもなかなかすぐれているのだ、

水準器やコンパス機能のついたやつ、インチスケールのついたやつ、それから1/100とか1/50とかの縮尺のついたコンベックスなども持っているけれど、この2mのコンベックスにはかなわない。気に入って買ったこれらのコンベックスが、みんなフランス製というのは、ちょいと気になる。さすがメートル法の元祖、フランスのデザインはすぐれておるということになるのかしら。

コンベックスによっていつも図面上にのせる寸法を、原寸として測り、確認し、現実の空間に置き換えることができる。コンベックスはそんな現実の道具であると同時に、僕にとって、いつも自分自身を、空間の中に位置づけさせてくれる教育的な道具なのだ。


建築知識 1987年4月号 特集「【設計道具】大発掘!!設計事務所の道具図鑑」所収

18年も前の話だ。この建築知識にでてくる製図道具って時代を感じさせるものばかりなのだ。まだコンピュータ、CAD以前、製図板にT定規あるいは平行定規の時代なのだ。しかし、このコンベックス mabo /ref 143 は未だ現役である。

Posted by 秋山東一 @ August 4, 2005 07:46 AM
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