030724

 1. その端部になにを・・・

TAU·SHOKEN·KENCHI , TOOLS

LANDship/1997
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秋山東一のストックテーキング [1]

「その端部になにをつなげるかが、問題なのだ」

「建築知識」1985年7月号所収

◎ 昔、あるクライアントが電話さえあれば何もいらないと考えているとしたら、彼のために住宅より電話の設計をすべきだと思ったことがあった。平面も空間も何もいらない。ただ、野を越え山を越え電柱の配置計画があるのではないかと思ったのだ。

◎「えっ!これ、うちのじゃなかったの?」と言ったって、そうなんだ。目の前の黒電話、もう10年も使っているけれど、ぼくの家のじゃない。借物なんだ。最近、電電公社という役所みたいなものから民間、株式会社になってしまったあのNTTは、“皆さん、電話を使いましょう”“電話を取り替えましょう”と大宣伝の真最中。コミニュケーションの手段である電話、無線、放送なんてものは「お上」から与えられるものという状態にずーっと慣れ親しんできてしまった僕らにとって、この突然のおおさわぎはただ当惑するばかりなのだ。

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◎ 今までの許可されたもの、認可されたものという世界は僕等のコミニュケーションの手段、「電話」に対しても僕等の想像力をしぼませ、閉ざしてしまっていた。そう、電話というシステム、たかだか自分と相手との間に確実に線をつなげてくれさえすれば良いのだ。その線の端部に何をつなげるのか、それはぼくらの考えること、決めることなのだ。

◎ 自動車電話というものがある。自分の車に電話を付けてどこにでも電話をかけられるなんてなかなかのものだ。たいがいベンツなんかについていたりして、ちょっとしたステイタスシンボルになっている。保証金20万円、設置料金8万円、保険加入料等々しめて28万8千3百円。基本料金3万円、3分間の通話料276円で、僕のくたびれフォルクスワーゲンには似合わない。ところがその裏をかくマシンが売られていたのだ。自前の自動車電話。まさしく「うちの自動車電話」は売られていたのだ。その機械はしめて39万8千円。システムは自分の家、自分の事務所に無線機を設ける。そして自分の車からの無線をキャッチして、通常通り電話回線につないでしまおうという仕掛けなのだ。今まで電話局のやっていた仕事、自動車電話からの無線電波をキャッチして通常の回路につなぐという仕事を、自分でやってしまうというわけなのだ。

◎ 今まで電電公社が独占していた仕事を僕等がやれば、僕のボロなフォルクスワーゲンにも電話がつくということになるのだ。「使用させていただいている」という状況から「うまく使ってしまおう」と僕等の考えが変わる時、僕等の想像力は大きく飛躍する。

◎ そして僕は「電話のついた家」を、いや「電話局になった家」を設計するのだ。

「建築知識」1985年7月号所収

20年近く前の、電話についての認識ってこんなもんだった。

現在の誰も彼もが、「携帯」を持ち、その携帯電話にカメラがついて・・なんて想像の外であった。「僕等の想像力は大きく飛躍する」と書いたが、やや、恥ずかしい。
もちろん、コンピュータも何にも繋がっていない、そろそろ「パソコン通信」ということが可能になったころだ。現在のインターネットの世界は、想像さえしていない。

結局、その端部にはコンピュータがつながり、カメラがつながり、冷蔵庫もつながり、なんでも繋ぐ時代なのだ。

現在の電話の状況は、ここにも書かれている「民営化」という時代の流れが、そうさせたのは事実だが、いまもって、たくさんの利権、許認可、規制の世界にある。
現在の状況、建築の規制の状況を考えると、かえって体制側の規制が強まっている、いやな気配を感じる。

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aki/030721

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Posted by @ July 24, 2003 12:00 PM
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