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リヴァイアサン

BOOKS

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リヴァイアサン クジラと蒸気機関
ハヤカワ・ポケット・ミステリ 5001


著者: スコット・ウエスターフェルド Scott Westerfeld
訳者: 小林美幸

ISBN: 978-4153350014
出版社: 早川書房
価格: 1,680-円(税込)

頁を開いた途端、夢中になってしまったなんて久しぶりだな。

LEVIATHAN リヴァイアサン」にくっついた副題「クジラと蒸気機関」は原書にはついていないものだが……さて。題名 LEVIATHAN リヴァイアサンとは何か……。

本書にリヴァイアサンが現れた時の記述を読んでみよう。

……巨大な Air Beast 飛行獣が、背後の灰色の雲から姿を現そうとしていた。銀色の上甲板が太陽の光を反射して、きらめいている。
とてつもなく巨大な物体だった。ーーセント・ポール大聖堂よりも大きく、デリン(主人公の一人)が前の週にテムズ川で見たドレッドノート級外洋戦艦オリオンよりも長かった。つややかな円筒形の艦体はツェッペリン型飛行船に似ていたが、その側面は繊毛の動きに合わせて振動し、周囲では共生関係にあるこうもりや鳥たちが飛び交っていた。
……
飛行獣はさらに接近を続け、今や、腹部から吊られたゴンドラが見える距離にまで来ていた。艦橋の窓の下に記された縦1フィートほどの文字が徐々にはっきりと読み取れるようになった。……リヴァイアサン
……
リヴァイアサンは、ドイツ皇帝のツェッペリンに対抗するべく造られた、巨大水素呼吸獣の第一号だった。……

リヴァイアサンの艦体は鯨の遺伝子から造られていた。だが、そのほかにさまざまな種族が構造内で複雑に絡まり、数えきれないほどの生物がストップウオッチの歯車のように組みあわされていた。艦の周囲ではさまざまな人造鳥がそれぞれ群れをなして飛んでいた。ーー偵察鳥、戦闘鳥、食料を集める捕食鳥、伝言トカゲなどの人造獣が被膜の上を駆け回っているのが、デリンからもよく見えた。

……この巨大水素呼吸獣は、ダーウインが例の有名な発見をした、南米の小さな島をモデルに造られたんだ。リヴァイアサンは単体の人造獣じゃない、絶え間なく変化しながら均衡を保つ、巨大な生態系なんだ。

やぁ、なんとも凄まじい物なのだ。


時は1914年、ヨーロッパではふたつの勢力が対峙していた。

遺伝子操作によって作り出された動物を基盤とする英国などの Darwinists ダーウィニストと、蒸気機関等の機械文明を発達させたドイツら Clankers クランカーの対立する世界だ。

史実と同じくオーストリア大公夫妻の暗殺……。大戦勃発前夜、両親を殺した一派に追われ二脚歩行型装甲車 Stormwalker で脱出を図る公子アレックと、空への憧れから男装し英国海軍航空隊に志願した少女デリンがいる。ふたりの運命やいかに……、二人は巨大飛行獣リヴァイアサンで出会うことになるのだ。

機械が生物のようであったり、機械のような生物を人工的に造り出すという奇妙なテクノロジーが跳梁跋扈する世界、第一次世界大戦という史実を下敷きにした仮想歴史冒険小説なのだ。

ローカス賞受賞の冒険スチームパンク三部作の開幕篇がこの LEVIATHAN リヴァイアサンだ。そして、2010年出版の Behemoth ベヒモス(2012年6月刊行予定)、そして、昨年秋の第3部 Goliath ゴリアテ(2012年12月刊行予定)と続くのだ。怪物を表題にした三部作……楽しみである。

日本語で全部読めるのは年内……、ちょっとかかりそうだ。ハヤカワ・ポケット・ブックの新SFシリーズの第一巻目がこのリヴァイアサン……、ちょっと力の入れ方が違うのだ。


追記 120228

読了……。リヴァイアサンはオスマン帝国に向かって地中海を飛行中だ。さて、物語は Behemoth ベヒモス、Goliath ゴリアテと続いていくのだ。

我慢出来ない私は、第2部の原書 Behemoth を amazon に注文したのだ。ペーパーバックス版だが、価格は748-円也……廉価だ。


追記 120302

amazon からやってきた。Behemoth、それに Leviathan も。

原書がペーパーバックスといってもずいぶんと立派な造本だ。挿絵も大きいし活字も大きい。子供用……なのだ。これで、748-円は非常にお得ではないか。……英語だけど。

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Posted by 秋山東一 @ February 27, 2012 02:52 PM
Comments

マスクマンすすめ a.k.a.漂泊のブロガー……こと、井上さん、どうもです。
やぁ、面白かったです。本書の下敷きの第一次世界大戦への興味がふつふつと湧いてきましたです。
……というわけで、本棚に読まずにそのままになっている「八月の砲声」なんぞを読んでみようと考えています。こいつはどこの図書館でもすぐ借りられますぞ。

Posted by: 秋山東一 @ February 29, 2012 04:15 PM

秋山さん こんにちは。
いやいやまだ予約の段階なのでゲット・ ・ ・ではないんですが、早く図書館からの通知が来ないかと首を長くして待っているところです。 わくわくするような本を教えていただき有難うございました。

Posted by: マスクマンすすめ a.k.a.漂泊のブロガー @ February 29, 2012 08:38 AM

玉井さん、どうもです。
やぁ、面白い……どきどき、後ちょっとの所を残して……おります。young adult というのは和製造語かと思っていたら、ちゃんとあるのですね。ジジーも好む young adult とはこれいかに……ですね。
しかし、トラックバックして下さった漂泊のブロガー氏は5つの区立図書館に登録してある……、そしてゲット、すごいなぁ。

Posted by: 秋山東一 @ February 28, 2012 04:58 PM

表紙の絵を見るだけでは、私は、あまり食欲がわきませんでしたが、なるほどこのエントリーを読んでいるうちに、フツフツと読みたい気分が湧いてきました。
それというのも、かたや水素を呼吸してエネルギーにする巨大生物システム、かたや水蒸気エネルギーにより動く機械仕掛けのシステム。核エネルギー+エレクトロニクスでは、仕掛けが見えませんが、この両陣営は、いずれも見えます。
可視化ということは、「参加」にとって欠かせないように、読者が物語に入り込んでゆくには、自在に想像できることがかかせないのでしょう。

中野区立図書館には蔵書なしですが、新宿区立図書館では7件中7番目です。が、予約しました。

Posted by: 玉井一匡 @ February 28, 2012 03:59 PM