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私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。

BOOKS

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私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。
講談社文庫

著者: 島村 英紀

ISBN: 978-4062758673
出版: 講談社
価格: 560-円(税込)

本書の「私」こと島村英紀氏は国際的に著名な地震学者、元北海道大学教授、そして前国立極地研究所所長である。

そのような人物が、2006年2月1日に札幌地検に「詐欺」容疑で逮捕され、171日間拘置所に拘束されることになったのだ。

本書はその不可解な事件を記述したものではない。半年にわたる拘束期間、その限られた空間の中に氏が何を見、何を体験したのかを、科学者の冷徹な目で記述したものなのだ。


もくじ
まえがき

  突然の家宅捜索劇
  自家用車の中まで捜索
  突然の逮捕劇
  弁解録取書
  札幌への護送劇
  拘置所の「入所儀礼」
  独房へ
  独房は三畳
  自殺をもっとも恐れる拘置所当局
  船のキャビンよりマシ
  独房の構造
  最初の日
  取調室
  調書
  勾留質問手続
  取り調べ
  拘置所の一日
  拘置所の「マスト」と「ノット」
  接見禁止
  攻撃的になる検事
  さらに挑発する検事
  保釈申請・却下・準抗告
  初公判はいつ?
  拘置所パラダイス
  食事もパラダイス
  記憶に残った食事
  官本
  私本
  拘置所で何をするにも必要なもの、願箋
  私物を引き取ってもらうにも願箋
  ノートには検閲がある
  拘置所の不思議な掟
  風呂
  ラジオは毎日七〜十二時間
  ラジオ・外界への小さな窓
  気にしてもしょうがないが
  訃報が気になる
  歳時も気になる
  看守の権力、看守の人間
  運動
  初出廷の朝
  初出廷
  大法廷
  接見禁止の延長通知
  公判、その後
  一〇〇日、そして一五〇日
  延びた公判
  保釈
  保釈とは
  保釈後の裁判
  判決
  執行猶予とは
  告訴から裁判まで
  控訴断念

あとがき
解説


2006年初め、「ライブドア堀江社長を逮捕」で騒いでいた頃、新聞紙面で「北大教授が詐欺で逮捕……」を見た記憶がある。その時、私は、どんなに立派な肩書きの奴でも、悪い奴はいるんだよな……という感想のまま、忘れしまったのだ。

先頃の東海地方を襲った地震で、まだ来ぬ東海地震、唯一、予知出来る東海地震……を検索していて、「地震予知」はできていないのだ……と主張する地震学者・島村英紀氏を知ったのだ。

そして、氏を巻き込んだ不可解な事件を知ることになった。詐欺事件と言っても詐欺の被害者がいない……という事件の裁判は氏の有罪、懲役三年執行猶予四年……、そして、氏の苦渋の選択、控訴断念という結論になる。

 ● 島村英紀・裁判通信・目次

これは、現在、収監されている植草一秀氏が巻込まれた不思議な事件と共通する、体制側の意思を感じるものだ。氏の主張「地震予知批判」が、このような結果を引き起こしたのは間違いないが、島村英紀氏は、それに屈することなく意気軒昂である。


追記 090816

本書の終章「控訴断念」の最後に、彼は書いている。
2005年に「地震予知」について「ナショナル・ジオグラフィックス」の取材を受け本国版の2006年4月号の「地震特集号」に載っていた記事が、その後の日本語版では、彼の発言、地震予知批判がすっぽりと抜け落ちているのだ。

その後、彼は書く。

......................................
 それだけではない。日本政府の言い分通り、地震予知ができる、と信じ込まされている日本人たちが、もし地震予知ができずに大地震の不意打ちを食らったら、災害がより拡大する恐れが高い。そうまでして、真実を隠そうとする政府の意図は、私には計りかねる。
 私は思っていたよりもずっと大きなものの尻尾を踏んでしまったのではないか、その黒い手と、この裁判で闘っても無駄だよ、というのが私の友人の忠告であった。
......................................


Posted by 秋山東一 @ August 15, 2009 06:29 AM
Comments

>私達全てが活きている世の中、そのものを問わねばならない……と考えています。

矢張りそう言う本だったのですね。
何となく、そう思っていました。

私は、良く言う陰謀や癒着、腐敗と言うのは自分も
含めた極卑近な事実だと思うのです。大体が普通の人は
それくらいの事と言うと変ですが、極当たり前と思います。

私だって、ちょっとした事で偏見や誤解をしたまま
物事を見る事が多々有ります。そう成ると、自分の
仲の良い友達や信頼出来る人たちを良く見て、自信の
ない部分は照査しなく成る可能性が高く成ります。

こう言う自分と言うのを通して考えたときに、
自分が、個人商店の場合は極々普通だと思います。
けど、ある程度会社規模に成って幽玄で従業員も
居ててある種の『法人』みたいに成ってくると
様子が変わってくると思います。勿論、団体が大きく
なれば可成り違って来ますが、いずれにしろ所属、
又は統括(場合によっては所有)してるのは最初の
卑近な個人、つまり私。と言う事やと思います。

機会があれば読んでみようと思います。
有難うございます。

Posted by: Xinyi Folders @ August 16, 2009 02:12 PM

Xinyi Folders さん、どうもです。
本書を大変面白く読みましたが、「……そこで何を見たか」の本であって「私はなぜ逮捕され……」の本ではありません。
それを考えるのは、著者の問題というよりも、私達全てが活きている世の中、そのものを問わねばならない……と考えています。
今、『「地震予知」はウソだらけ』を読んでいます。

Posted by: 秋山東一 @ August 16, 2009 04:20 AM

こんばんわ、またコメントさせて頂きます。
本書も引き続き面白そうな本ですね。
僕も陰謀史観までは行きませんが、確実にある種の
意志がある種の所に働いてるのは事実だと思います。
ただ、国家機関とか行政とか公務と言う、
我々の期待しない所での事なので驚く事が有りますが。

Posted by: Xinyi Folders @ August 15, 2009 11:38 PM

iGa さん、どうもです。
最近の小沢秘書逮捕の西松建設事件、収監中の植草一秀の事件、鈴木宗男と外務省・佐藤優の事件等々、体制側の恣意的な攻撃が目立ちますね。しかし、本書の島村英紀 なる地震学者はなかなかですね。検事の取調べでの恫喝に屈することなく……ですから。
本書はその事件について触れる事は少々、客観的にして詳細な拘置所レポートなのです。安倍譲二が解説ですから。

Posted by: 秋山東一 @ August 15, 2009 11:54 AM

そういえば帝銀事件も平沢貞通がスケープゴートにされた訳で、彼を犯人に仕立て、守りたい秘密が国家にあったということですが、「昭和史 1945-1989」で半藤一利が語っていることと「平沢貞通氏を救う会」の主張と略同じですね。

Posted by: iGa @ August 15, 2009 08:49 AM