041015

アウステルリッツ

BOOKS

4560047677_1.jpgアウステルリッツ
[原書名:AUSTERLITZ]

W・G・ゼーバルト [著] 鈴木仁子 [訳]

ISBN:4560047677
出版社:白水社
定価:2,200-円+税

本屋の書架にこの「アウステルリッツ」の背文字を見つけた。

アウステルリッツといえばナポレオンが勝利をおさめた戦い、そんな内容の本...と見てみることになった。
表紙はなんだか奇妙なかっこの少年の写真、W・G・ゼーバルトという著者も初めてだし、《全米批評家協会賞》受賞作品だそうだが、よく分からん。
中を開いて、突然、これは何って思った。そこには奇妙な写真がたくさんある。挿絵なんだろうか。要塞、建築の写真、図面、風景、静物、室内、人物、写真とその断片、それらは全て奇妙で不思議な気分にさせるのだ。

というわけで、手に取ってレジに向かったのであった。


アウステルリッツとはナポレオンのアウステルリッツであった。
でもそれは地名ではなく一人の人名、この本の中で語られる人の名前なのであった。

この人物、アウステルリッツは建築史家で、彼の専門領域は「資本主義勃興期における建築様式」というような世界だ。本書は、そのアウステルリッツのたどってきた人生の記録である。
当人がそれを記述しているわけではなく、1967年ある日の夜、ベルギー・アントワープ中央駅の待合室で偶然出会った「私」が記述するのだ。
19世紀の終り頃、ベルギーはアフリカでの植民地経営に乗り出し、ブリュッセルの株式市場の莫大な取引に明け暮れた。新興経済大国として勃興するベルギー、その国王レオポルドは公共建築にその有り余る財を投入する。その一つがこのフランドルの首都の中央駅、アントワープ中央駅なのだ。その詳細がアウステルリッツに語られる。
その駅舎の建築史的、且つ技術的な詳細とは別に、駅舎への「別離の苦悩と異郷への恐怖」という彼個人の感想が述べられる。これは一つの伏線なのだが、すぐに、彼の建築史家としての博識は要塞の歴史を語っていくのだ。

その後、二人の交遊は1975年に断ち切られるが、20年後、偶然に再会を果たす。

彼は、ウェールズの田舎で牧師夫妻に育てられた。そして、アウステルリッツという本名を教えられたのは15歳のときだった............。

改行なしで延々と続いていく文章を構成する一つ一つ単語が重い。その随所に際せのようにある古いアルバムからのぼやけたモノクロ写真も、又、重くのしかかる。


041020 読了した。

ロンドンのリヴァプール・ストリート駅の女性待合室で彼は記憶の底から一つの手がかりを思い出す。
彼、アウステルリッツの自分自身を探す旅が始る。
プラハ、テレージェンシュタット、マリーエンバート、ニュルンベルグへと彷徨する.........。

すごい本だ。簡単に何か言えるような気がしない。
ヨーロッパの諸都市を繋ぐ鉄道の駅舎、監獄と化す要塞都市、一人の人生を持って語られるヨーロッパ近現代史が。写真に映し出されたその全てを言語に写しとるように記述されていく。

Posted by @ October 15, 2004 09:16 AM
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