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ベルリン陥落 1945

BOOKS

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ベルリン陥落 1945
[原書名:BERLIN THE DOWNFALL 1945 (Antony. Beevor)]
アントニー・ビーヴァー [著] 川上 洸 [訳]

ISBN:4560026009
白水社 (2004-08-10出版)
定価:3,990-円(税込)

読了した。細かい活字の647ページに及ぶ歴史ドキュメンタリーは、なかなかしんどい読書ではあった。


先日、ちょいと本屋を覗いたら、この「ベルリン陥落 1945」を見つけた。

この著者アントニー・ビーヴァーの前著、「スターリングラード/運命の攻囲戦 1942-1943」(1998年原書出版)朝日新聞社、を2002年11月に読んだ時、本書「ベルリン陥落....」は原著がでたばかりで。早く邦訳されないかと思っていたが、やっと読むことが出来た。

両書の著者、アントニー・ビーヴァーは英陸軍士官学校卒、英陸軍出身のノンフィクション作家とのこと。前書「スターリングラード.......」は、各種の賞に輝き「西部戦線異常なし」を凌駕すると絶賛を浴びた大作であり、今回の「ベルリン陥落....」も各国で翻訳され世界100万部ベストセラーとのことだ。

ヒトラー自殺、ベルリン陥落、ドイツの無条件降伏によって、1945年5月8日ヨーロッパ戦線の終戦、日本が同じく無条件降伏によって敗戦8月15日を迎える3ヶ月ほど前のことであった。本書は東方からのスターリンのソ連軍のベルリン陥落に至る軍事行動を軸に、それに対するヒトラーのナチス中枢、ドイツ軍およびSS等の軍事組織、ドイツ市民の行動、西側からの米英仏の連合国軍侵攻、を時間軸に沿って詳細に綴ったものである。

この本の面白さは、現在60年近くも経過した今、それが書かれたということにある。

今までの独ソ戦をあつかったノンフィクションが、第2次世界大戦終了直後の東西対立の構図を逃れられず、又、その後封じられた東側での事実を知ることが出来なかったことだ。その為、反共的な見方からの西側の戦史、同じく反西欧的「大祖国戦争」というソ連の戦史というような歴史としか書けなかったからなのだ。
ソ連崩壊とともに単純な東西対立という構図から逃れて、東側に埋もれていた膨大な情報を駆使し、独ソ戦という戦争の性格を十分に分析し、ヒトラーとスターリンという独裁者の体制もふまえて、新しい眼で全てを詳述しているのだ。

彼が本書を書くにいたった理由は、1943年2月、ソ連軍の一大佐が捕虜となったドイツ兵に、スターリングラードの瓦礫となった市街を指し示し「よく見ておけ、ベルリンもこうなるのだ!」と言ったことを読んだ時だそうだ。
この二つ場所をつなぐ2000余kmという距離と2年という時間が、ソ連軍の勝利とドイツ敗北の歴史なのだ。

ドイツ、そしてベルリンは、下級民族として蔑んできたロシア人、そのソ連軍によって復讐される。
ベルリンの電車の中で、ドイツ軍兵士が言う「......もし相手が勝ったなら、そしておれたちが占領地でやったことのほんの一部でも敵がここでやったら、ドイツ人なんか数週間で一人も残らなくなるんだぞ」。それはその通りのこととなった。
死に物狂いで抵抗するドイツ兵との戦闘、進軍するソ連軍兵士によって、すざましい破壊、略奪、レイプが行われた。ベルリンのレイプ犠牲者の推定数は10万人、その結果死亡者が1万人前後、その多くは自殺、その犠牲者はドイツ女性に限ることなく、強制労働で連行され解放されたばかりの外国人、同国人女性にまで及んだ。ベルリンより東の東プロイセンでは取り残された住民の犠牲者は140万人、全体では少なくとも200万人のドイツ女性がレイプされたんだそうだ。

その一つ一つの不幸よりも、その量に、くらくらと目まいまで感ずる。

戦争は終わった。しかし、そこから苦難の始りとなった人達も多数に及ぶ。ヒトラーのドイツは崩壊したが、スターリンのソ連は容赦なく、ドイツ軍捕虜、同国人の捕虜、連行された同国人の強制労働者を、強制労働収容所に送り込んだ。

本書が英国で出版されるに先立って、駐英ロシア大使は、本書を「虚偽と当て擦り」「ナチズムから世界を救った人々への冒涜」と新聞紙上に発表し反発を招いたそうだ。まだまだ、その全てを客観視するのには時間がかかるのであろうか。

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スターリングラード—運命の攻囲戦 1942-1943
[原書名:STALINGRAD (Antony. Beevor)]
アントニー・ビーヴァー [著] 堀 たほ子 [訳]

ISBN:4022576820
朝日新聞社 (2002-10-30出版)
定価:3,150-円(税込)

原著者 Antony Beevor のウェブサイト
www.antonybeevor.com/

Posted by @ August 15, 2004 12:15 AM
Comments

真鍋さん、コメントありがとうございます。僕も読んでみたいと思います。
しかし、こいつ(ベルリン陥落1945)を読んだ後には、少々、戦争の話から離れていたいというところです。

Posted by: 秋山東一 @ August 18, 2004 05:53 PM

最近はあまり熱心な小説の読者ではないが、ふと書店で手にした『雷鳥の森』(みすず書房)がとてもよかった。作者はマリオ・リゴーニ・ステルン。彼は第二次大戦でイタリア兵としてロシア戦線に従軍、からくも生き延びて帰郷。静かで深いトーンはその体験から来ている。その体験を書いた『雪の中の軍曹』は第二次大戦の記録文学の最高傑作らしい。知らなかった。早速、アマゾンコムに注文した。

Posted by: komachi @ August 16, 2004 06:45 PM