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技術屋の心眼

BOOKS

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技術屋の心眼
平凡社ライブラリー
著者: E.S. ファーガソン Eugene S. Ferguson
訳者: 藤原 良樹/砂田 久吉

ISBN: 978-4582766677
出版: 平凡社
価格: 1,575-円(税込)

以前から本書に興味を持っていたのだが、書店で購入してから「技術屋……」なる書名に気がついた。「技術者……」と思っていたのに……、ちょっと、いやな気分だ。本文の中に「……屋」なる記述はないから、この不愉快な書名は出版社の「こうすれば売れる」というような姑息な知恵に基づくものなのであろう。

そんな書名にかかわらず、本書は、こういう本を待っていた……というべき内容なのであった。文庫版になる以前、単行本として1995年に翻訳出版されていたのだ。

原題は Engineering and the Mind's Eye、まさしく「エンジニアリングと心眼」なのだが、「心眼」なる単語……日本語では「武術」なんぞで使い古された印象ありだが、本書の意味合いとは異なっていると思う。

「心眼」とは、簡単に云えば「視覚的な思考」、通常の思考を言語的とするならば「非言語的な思考」というべきものなのだ。著者は序文にこう書いている。

「……技術に携わる人々が構想している物体の特徴や特質の多くは、言葉では明確に表現することができない。それゆえ、心の中で、視覚的で非言語的なプロセスによって処理されることになる。心眼は極めて進化した器官であり、視覚による記憶の内容をよみあがらせるだけでなく、心の中での思考に必要な新しいイメージや修正されたイメージをも形成してくれる。ある機械について考えるとき、一つの動的プロセスをなす各段階を順次たどりながら推論を進めていけば、心の中でその機械を始動させることができる。いくつかの要素を組み合わせて新しい構成を生み出す工学分野の設計者は、まだ存在していない装置を、自分の心の中で組み立てたり操作したりすることができるのである。……」

これは、まさしく建築設計にも適用される考え方であり、建築設計者も同じ思考法の中にあるのだ。


目次
    序
    謝辞

第一章 工学における設計の本質
    図面を用いない設計ー職人の方法
    図面を用いた設計ー技術者の方法
    工学の知識
    発明としての設計
    芸術と工学
    技術者のスタイル
    設計の過程
    
第二章 心眼
    右脳と左脳
    視覚的な思考の地位
    視覚的な思考の実践
    ホイットカムの面積法則
    本当に見る
    創造性
    映像や言葉で表せない知識

第三章 近代工学の起源
    工学の連続性
    ルネサンス期の技術者のノート
    要塞の設計
    技術者とパトロン
    工学の学校
    
第四章 図像化の道具
    透視図
    正射影法
    工業図面の作成
    図面の利用
    研究のための模型
    図面の模写に潜む危険
    
第五章 技術の知識の発展と普及
    ルネサンス期の挿絵本
    専門技能教育
    模型の教育的役割
    物理的原理の教育
    視覚的解析の道具
    
第六章 技術者の養成
    グリンター報告
    設計の危機
    専門技術の学士
    
第七章 見込みと現実のギャップ
    見ることの威力
    設計の問題
    失敗と意外な出来事
    しくじりの繰り返し
    統制された設計
    考慮されない反省の必要性
    
    注
    図の注
    訳者あとがき
    平凡社ライブラリー版 訳者あとがき


著者、E.S.ファーガソンは技術史家、機械技術者、博物館研究員を経て工業大学で教鞭をとったというエンジニアだそうだ。

目次を概括していただけばお分かりになるように、物を作り出すプロセスを分析し「視覚的な思考」を解読していく。その論考は歴史的な技術の成立ち、工学というものの発生にまで至る。挿し絵として多くの歴史的な図版が使われており興味尽きることはない。
最後に、著者は現代の工学教育、数式と計算に偏重した教育が何をもたらしたのかを明らかにするのだ。

まぁ、我田引水……ではあるが、設計道場における「手による設計」こそ、建築設計における王道なのである。視覚的な思考の延長上に手があるのだ。


追記 111114

本書が文庫本になる以前に出版されていた単行本が amazon マーケットプレイスに出ている。
格安であり、貴重なイラストを楽しむには、大判の単行本が向いているかもしれない。

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技術屋の心眼 [単行本]

著者: E.S. ファーガソン Eugene S. Ferguson
訳者: 藤原 良樹/砂田 久吉

ISBN: 978-4582532104
出版: 平凡社
価格: _____円(税込)

Posted by 秋山東一 @ November 14, 2011 08:09 AM
Comments

玉井さん、どうもです。
ジョブズの本以来、翻訳本についての評価のハードルが高くなったみたいですね。
今はコンピュータのお陰で索引を作るのは容易と思いますが……、親切心が足りないですね。

Posted by: 秋山東一 @ November 19, 2011 07:43 PM

昨日,マーケットプレイスから届きました。
原書の中身検索を見て比べると、やはりこの本も図版が小さくて、本の主題を考えればもうすこし図版を重視してほしいと思うのでした。
これも、索引ははぶいていますね。
謝辞と注はちゃんとありますから「スティーブ ジョブズ」よりはずっと良心的ですが。索引は、ページは変わるだろうし、つきあわせるのは大変なんでしょう。

Posted by: 玉井一匡 @ November 19, 2011 12:50 PM

iGa さん、どうもです。
まぁ、翻訳本があるかないか……っていうのは、我々にとってその本が存在するか否か……なのですから、本自体を、翻訳と同じく大事にして欲しいものです。

Posted by: 秋山東一 @ November 14, 2011 03:00 PM

アドバイスに従い単行本の古本をポチりました。

そういえば昔はLPレコード等も国内盤は日本仕様のジャケットデザインが普通でしたが、SONYがCBSを買収してCBS/SONYとなってから、原盤のジャケットデザインをそのまま使うように変わり、それが一般的になりましたですね。それと比べて出版業界...なんだかですね。

Posted by: iGa @ November 14, 2011 02:05 PM

玉井さん、どうもです。
楽しみですね。まぁ、翻訳本については、最近は出版社への文句ばかりですね。

Posted by: 秋山東一 @ November 14, 2011 11:37 AM

さっそくamazonに注文しました。

Posted by: 玉井一匡 @ November 14, 2011 11:02 AM